#03 『キース・ジャレット/ボルドー・コンサート』
『Keith Jarrett / Bordeaux Concert』」

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text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

ECM2740 2/ユニバーサル・ミュージックUCCE-1194

Keith Jarrett: Piano

1. PART I 12:45
2. PART II 04:44
3. PART III 04:33
4. PART IV 07:47
5. PART V 06:16
6. PART VI 04:23
7. PART VII 07:28
8. PART VIII 05:48
9. PART IX 04:39
10. PART X 02:54
11. PART XI 06:08
12. PART XII 05:34
13. PART XIII 04:31

Recorded live at the Auditorium de l’Opéra National de Bordeaux on July 6, 2016
Recorded by Martin Pearson
Mastered by Christoph Stickel
Produced by Keith Jarrett
Executive producer: Manfred Eicher


2016年のキース最後のヨーロッパ・ツアーからの3作目。これに先立つ2作は、2019年11月の『Munich 2016』(ECM2667/68)と、ほぼ1年後の2020年10月リリースの『Budapest Concert』(ECM2700/01)。この『B0rdeaux Concert』(ECM2740)は今年(2022年)の9月リリースだから、『ブダペスト』からほぼ2年が経過している。とくに『ブダペスト』は、キースの祖母の祖国でもあり、ハンガリー系の血を引くキースにとっては特別の感慨を持つ地。キースの思い入れもあってか、『ブダペスト』は近来のベストの評価が高かった。1976年の日本縦断ツアーの記録『サンベア・コンサート』の録音で経験したことだが、キースのソロ演奏にはその時点でのキースの精神的ありようが全的に反映される。2週間近いツアーを通して帯同したファミリーがキースに心の平安をもたらした。『サンベア』を通して通して聴けば分かることだが、その上で各地の風情や人情がキースのフィルターを通して微妙に演奏に反映されている。
2016年のキースのヨーロッパ・ツアーの日記、連作とも言えるこの3部作にはそういう聴き方もあるのだろう。このツアーまもなく、2018年、キースは二度の発作に襲われ、左半身の自由を失う。溢れ来るイマジネーションを思いのままに音楽として表現してきたキースにとってその自由を奪われた無念は察するにあまりある。音楽はキースがリスナーと想いを共有する唯一の手段だから。僕らは、キースが慢性疲労症候群に倒れた1999年、キースから送り出されたメッセージ『The Melody At Night , With You』(ECM1675) で想いを共有することができた。『ボルドー・コンサート』は、リハビリ中のキースから届けられた2年ぶりのメッセージだ。僕らは、今年(2022年)10月のWorld Jazz Museum 21で開催された「ECM写真・資料展」をキースにトリビュートした。僕らの想いはキースと共有することができたのだろうか。後年のキースの心の支えは日本の女性である。リハビリ中のキースを必死に支えている。そんなキースから思いがけないメッセージが新たに届くことはあるのだろうか?僕らはすでにキースから充分過ぎると思えるほどの音楽的恩恵を受けている。それでもなお何かを期待したいのがファン心理というものだろう。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『増補改訂版 ECMの真実』(河出書房新社)編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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