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R.I.P. カーラ・ブレイNo. 308

“So it goes” by 吉田隆一

Cover painting by Yuko Ganpuku 眼福ユウコ

カーラ・ブレイが旅立ったと知った時、自分でも驚くくらい塞ぎ込んでしまった。何か光を見失ったような気分になってしまったからなのだが、太陽も月も出たり入ったりするものだから仕方がない。

さて、何から書こう……

……カーラは真に「独立」した音楽家だった。ジャズに於けるインディーズの在り様を突き詰め、あらゆる困難に対して一歩もひかない怯まない姿勢を示し通した大きな存在だ。

カーラは過去のインタビューでこう述べている。

“私は、自分のものではないレコード会社、出版社、スタジオには所属しないという考えをずっと実現してきた。
私は全てを持っている。
これは60年代から考えてきたこと。
私は自分のレコード会社に、出版社、レコーディング・スタジオを持っている。自分自身の流通サービスもある。”
(「JAZZ LIFE」1990年2月号)

これは、カーラが「フェアであるために音楽界に於ける革命を志した」という文脈で発せられた言葉なのだが、志を実践するため、インディーズの道を歩む決断をある段階でくだし、具体的に行動し、強い意志を持って歩み続けたわけだ。

ある段階というのは、おそらく1965年のジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ・アソシエーション(JCOA)の結成時であるが、その前身たるジャズ・コンポーザーズ・ギルド(JCG)加入を、女性であることを理由にサン・ラーに反対された時かも知れない。(参照:横井一江「カーラ・ブレイ」 JazzTokyo 2017年6月)

なんにせよカーラはキャリアの初期からメジャーなシーンとは違う流れを生み出していた。「ジャズのサードストリーム」と言えばガンサー・シュラーらが行った「クラシック≒現代音楽とジャズの混交的活動」を指したが、カーラの活動もまた違う意味で「ジャズのサードストリーム」であった。私はそれを指して、(盟友チャーリー・ヘイデンやドン・チェリー、ガトー・バルビエリらの音楽的指向性と関係させて)「ジャズのサードワールド(第三世界)」と呼称している。そしてまぎれもなく「ポスト・フリージャズ」の巨大な潮流でもあった。インディーズという性格上、その巨大さが認識されにくくはあったのだが。

カーラは自身の音楽を敷衍するためにあらゆる努力を行ってきた。そしてその結果の一部を、我々は録音された成果物で堪能できる。また作曲家であるカーラの作品を我々は演奏できる(実際、一部の楽曲は公式webにてPDFデータが公開されている)。

では、作曲し、演奏し、音楽の世界で革命を実行したカーラとはどのような人物だったのだろうか。

私は時々、音楽家を作家と並べて考える。「カーラに似た作家は誰だろう?」というように。無論(?)同じような作家はいないが、どこか通じるものを感じる作家はいる。カート・ヴォネガットである。その(かなり)捩れたユーモアと真摯さ、切実さのバランスが似通っているように思える。そして「ユーモアを通してでしか伝えられない切実なもの」があると、2人ともよく知っていたはずなのだ。

その精神はしばしば人を混乱させる。例えば「ヒロ・ホンシュクの楽曲解説 R.I.P. Carla Bley <Baseball>」(JazzTokyo 2023年11月)で紹介されたインタビューにてカーラは「まずコードから作曲する」と述べている。しかし先に引用した「JAZZ LIFE」インタビューでは「まずメロディーから。次にリズム」と述べている。コードから作曲することについて批判的ですらある。コレは時期によって、あるいは曲によって違うという話ではなく、何か意図的にはぐらかしているように思えるのだが。

また同じ「JAZZ LIFE」インタビューにて名曲「アイダ・ルピノ」について述べているのだが、タイトルの由来となった俳優・映画監督アイダ・ルピノを「B級」と呼び、楽曲自体も「B級でしょ?」と述べている。これも額面通りには受け取れないだろう。先に例を挙げたが、ジャズの世界に於いてカーラは「女性である」ことを意識せざるを得ない困難と闘い続けていた。そして同インタビューでも殊更に「フェア」を自身のモットーとして強調している。そんな彼女が、映画の世界に於いて同様に闘ったアイダ・ルピノに対して何も想わないことがあるだろうか?あの美しい楽曲を「B級」で片付けてしまうのもはぐらかしではないのか?……等々、挙げていくときりがない。

そうかと思えば時には心境をストレートかつ真摯に話しているような発言も多く見られるし、ストレートな怒りや(ブラック)ユーモアも垣間見られる(公式webの牢獄にはトランプ元大統領が幽閉されている。スティーヴ・スワロウが釈放するとも思えないので、こうなれば未来永劫の虜囚である)。やはり一筋縄ではいかないのだ。

結局のところ我々は残された音源に耳を済ませ、楽曲を演奏することでカーラの意志を繋いでいくしかないのだろう。であればこうして長々と文章を書く必要も無かった。カーラに一脈通じる作家であるカート・ヴォネガットが、代表作『スローターハウス5』で用いた言葉を借りれば一言で済んだのだ。

カーラ・ブレイ。2023年10月17日、ニューヨークの自宅にて死去。享年87歳。
“そういうものだ (So it goes)”

【追悼ライヴ】
「プレイズ・カーラ・ブレイ」

2024年3月30日(土) 19:30 新宿ピットイン
吉田隆一(bs)、後藤 篤(tb)、石川広行(tp)、北 陽一郎(tp)
細井徳太郎(g)、細海魚(key)、伊賀 航(b)、芳垣安洋(ds)
ゲスト:吉野弘志(b)、黒田京子(p)


吉田隆一 Ryuichi Yoshida: バリトンサックス&フルート奏者、作編曲家
SF+フリージャズトリオ『blacksheep』(吉田隆一bs,スガダイローp,石川広行tp)を中心に、ジャンルを横断する音楽活動を行なっている。バリトンサックス無伴奏ソロをライフワークとして継続。”SF音楽家” を名乗り、SFやアニメに関するコラム/解説の執筆を手掛ける他、SFトークイベントの主宰や出演、SFと音楽のコラボ企画を継続して行なっている。一般社団法人 日本SF作家クラブ会員/第4期理事。SF+フリージャズトリオ『blacksheep』(吉田隆一bs,スガダイローp,石川広行tp)を中心に、ジャンルを横断する音楽活動を行なっている。バリトンサックス無伴奏ソロをライフワークとして継続。”SF音楽家” を名乗り、SFやアニメに関するコラム/解説の執筆を手掛ける他、SFトークイベントの主宰や出演、SFと音楽のコラボ企画を継続して行なっている。一般社団法人 日本SF作家クラブ会員/第4期理事。

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