#04 佐々木梨子トリオ at 琥珀 中村海斗 at 琥珀、No Room for Squares
「Noir」 中村海斗カルテット 佐々木梨子(as) 壷阪健登(p)、古木佳祐(b) 中村海斗(ds)
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
2023年最大の衝撃は、佐々木梨子(ささきりこ)との出会い。佐々木は2004年生まれ、札幌出身のアルトサックス・プレイヤーで、2023年3月に高校を卒業、バークリー音楽大学の全学授業料免除を受けて、7月に渡米し、現在ボストンに学んでいる。2022年に『中村海斗/Blaque Dawn』に、壷阪健登(p)、古木佳祐(b)と共に参加。2023年4月〜7月は『Blaque Dawn』リリースツアーを中心にライヴの機会があったが、2023年5月17日には、いま最も熱いハコ、渋谷 Jazz Bar 琥珀で、東京では貴重な機会となるリーダーライヴが行われた。
佐々木梨子トリオ at 渋谷 Jazz Bar 琥珀
Riko Sasaki Trio at Jazz Bar Amber – Kohaku, Shibuya
2023年5月17日(水) 20:00 21:00
佐々木梨子 Riko Sasaki: alto sax
平倉初音 Hatsune Hirakura: piano, Fender Rhodes
平田晃一 Koichi Hirata: guitar
Is That So (Duke Pearson)
Be My Love (Nicholas Brodszky / Lyrics Sammy Cahn)
Isfahan (Billy Strayhorn & Duke Ellington)
C’s Painting (平倉初音)
Bird’s Eye View (Joe Lovano)
Sea Raccoon (平倉初音)
Nascimento (Barry Harris)
Skylark (Johnny Mercer / Hoagy Carmichael)
Untitled (佐々木梨子)
There Will Never Be Another You (Harry Warren / Lyrics: Mack Gordon)
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L: ©久保智之 R: ©神野秀雄
L+R: ©神野秀雄
トリオのメンバーは、大阪出身、ピアノの平倉初音、2016年に同じく授業料全額免除でバークリーへ進み、アメリカで活躍後帰国。 ギターの平田晃一は2002年生まれの現役大学生でありながら活躍の幅を広げる。それぞれ近くにいながらこのトリオ編成は初めてだったという。年齢で言えば、この時点で18歳、20歳、24歳のトリオになるので、見かけは大学ジャズ研的な初々しさも見えるのだが、3人から生み出される音楽の美しさと深さに圧倒されるばかり。平倉と佐々木のオリジナルにスタンダードも加えたセットリスト。平倉の<C’s Painting>のCはいわさきちひろだそうだ。佐々木の<Untitled>は文字通り題名未定だったのだが、NHKで佐々木を紹介する番組のタイトルになったこともあり<Untitled>がタイトルになるかもと語っていた。平倉はフェンダーローズも弾いたが、ピアニストがそのままのタッチで弾く感じではなく、ローズのメカニズムとレスポンスを知り尽くした上で濁りすぎない美しい音色を奏でる。平田はギブソンのフルアコL-5を巧みに調整し暖かい音を聴かせる。本当に素晴らしい気持ち良い音楽を紡ぎ出す3人。
高校を出たばかりの佐々木は、「天才ジャズ女子高生現る」とか評されかねないところで、往々にして優れたテクニックを持つ若手、特に女性が注目されることは珍しくないのだが、高校生なのに、女性なのに、という属性で語る必要はなく、その先に完成された音楽家として確かな存在があった。楽器のコントロール、テクニックとしてのフレージングの巧さ、的確なタイム感だけではなく、たくさんの音楽とその技を習得した上で自由自在におそらく無意識に繰り出してくるが、もっとマクロの明確な音楽が浮かび上がってくる。またイディオムに音楽を支配されることがなく、さまざまな音楽に柔軟に無垢に向き合い、ナチュラル、ニュートラルでありながら佐々木にしか出せない音を出してくる。中村海斗は佐々木と演奏するのはレジェンドとの演奏に近いと評したことがあった。三木俊雄は佐々木を「ドニー・マッキャスリンに出会って以来の衝撃」と語った。
渡米直後のサプライズ、佐々木はPower Station at Berkley NYCのレコーディングスタジオに現れた。小曽根真が小川晋平(b)と きたいくにと(ds)と共に結成したトリオプロジェクト『Trinfinity』。佐々木は、奇遇にも三木が言っていたドニー・マッキャスリンと共に<The Park Hopper>を録音した。私も小曽根がいる空間で佐々木の凄さを熱く語ったことはあるものの、そうじゃなくても壷阪健登をはじめFrom Ozone till Dawnのメンバーらからも佐々木の評判を伝え聴いていたのではと思う。ともあれ『小曽根 真/Trinfinity』は、小曽根トリオ、佐々木とドニーを聴く意味でも必聴盤となった。2024年1月24日のリリースが待ちきれない。
佐々木は、いま日本に帰ってきてほしくないミュージシャンの一人。世界でどんな活躍をしていき、どんな世界を魅せてくれるのか楽しみでならない。
平倉と平田も、佐々木と同じように、音楽への深い理解と感性を持って、さまざまな音楽領域で実力を発揮していく逸材であり、内外で活躍していくことは間違いなく、目が離せない。
中村海斗カルテット
Kaito Nakamura Davis Quartet
2023年6月3日 20:00 下北沢 No Room for Squares
中村海斗 Kaito Nakamura Davis: drums
佐々木梨子 Riko Sasaki: alto sax
古木佳祐 Keisuke Furuki: bass
布施音人 Otohito Fuse: piano
中村海斗クインテット
Kaito Nakamura Davis Quintet
2023年6月20日 20:00 渋谷 Jazz Bar 琥珀
中村海斗 Kaito Nakamura Davis: drums
佐々木梨子 Riko Sasaki: alto sax
布施音人 Otohito Fuse: piano
馬場孝喜 Takayoshi Baba: guitar
古木佳祐 Keisuke Furuki: bass
ゲスト: 壷阪健登: Kento Tsubosaka: piano
石若 駿の次の世代として、今最も注目すべき若手ドラマーが中村海斗だ。正確に言えば石若同様、作曲家、プロデューサーとして卓越した才能を持ち、自身のプロジェクトに、サポートと多忙だが、その実力に比べれば知名度と活躍はこれからだ。2022年のファーストアルバム『中村海斗/Blaque Dawn』は現時点の日本ジャズで最重要アルバムの一つであり、壷阪、佐々木、古木と共に発展途上の瞬間を捉えた貴重な記録となるだろう。中村は、2001年ニューヨーク市まれ。1歳で栃木市に移住、小学1年生から群馬県太田市で育つ。6歳頃からドラムを学び、渡辺貞夫が指導するアフリカン・パーカッション・グループEscola Jafroに小学5年生から所属。また中学高校6年間はビッグバンド部でドラムを担当。中学2年生で石若 駿の演奏に衝撃を受けプロを目指す。バークリー音楽大学から奨学金を得るが、COVID-19と重なり日本でのライヴ活動に重点をおいている。
何よりも中村のユニークな作曲の才能に注目だ。セロニアス・モンクやキース・ジャレットをも連想するような、一筋縄ではかないそれでいて、歌心に溢れたメロディと不思議なハーモニー、その世界に引き込まれる。メンバーはそのオリジナルを高度なテクニックと音楽性と共に緻密に自由に築きあげる。決してテクニックをひけらかすのではなく、自由な表現のツールとし、心から演奏を楽しんでいる。ジョン・コルトレーンの<Giant Steps>さえ難曲ではなく、自由な表現への手がかりとし、独自の展開を繰り広げていく。
中村海斗のグループは、メンバー構成にも柔軟性を持ちながら、仲間を巻き込みお互いに進化していく。これからも中村と仲間たちの進化の先の世界に連れて行ってもらうのを楽しみにしている。
JazzEMP2023 平倉初音トリオ with 須川崇志(b)、石若 駿(ds)
2023年12月10日 KABUTO ONE
平田晃一カルテット at コットンクラブ 「Polka Dots and Moonbeams」
平田晃一(g)、平倉初音(p)、若井俊也(b)、 柳沼佑育(ds) コットンクラブ 2022年4月30日
G.R.P (布施音人) 布施音人トリオ
布施音人(p) 高橋 陸(b) 中村海斗(ds)
川崎市中原平和公園野外音楽堂
Jazz Momentum 2023 Digest:COTTON CLUB Live 2023