一つの大きな生き物のような場所 沼尾翔子
今年の8月24日、私は初めてギャラリーノマルを訪れ、会期中だった古巻和芳さんの個展「Skywalker, Toward Morning Glory」の作品に囲まれて演奏しました。そしてこの時が私が林聡さんにお会いしたたった一度の機会となりました。
美術関係の方と関わることがそれほど多くないことも相まってか、この日のギャラリーノマルでの出来事は新鮮で、ほんの少しこわばった体で見たもの、聞いた音は、断片的な景色がずいぶん鮮明に記憶に残っています。建物の雰囲気や、いざ目の前に見た作品の印象、出会った皆さんと話したこと、耳にした会話、置いてあった物の形。私は初めての空間で、初めての楽器に触るように演奏していました。出した音、返ってきた音一つ一つに驚いたり喜んだりしながら。saraさんは空間全てを楽器のように捉えているのがみてとれて、その姿はアップライトピアノを弾いているというよりも、もっと大きなパイプオルガンのような楽器を鳴らしているようでした。あとになって伺うと、あの空間で15年の間、何百回と演奏してきたと教えていただき納得すると同時に、一つの場所で長年に渡って創っていくことの面白さを感じたのでした。
そうして皆さんが集まって創りあげてこられたものに少しお邪魔させていただいたこと、林さんの関わるプロジェクトに参加させていただいたことは私にとって嬉しいことです。ただ、林さんにお会いした際はなんだか常人ならぬエネルギーを感じて私は畏縮してしまい、あまりお話しできなかったことが今となっては悔やまれます。
*写真キャプション
2024年8月24日、ギャラリーノマルでの古巻和芳展会場でのライブ「Skywalker」後。左より沼尾翔子、sara(.es)、古巻和芳、林聡。
沼尾翔子
言葉をうたい、言葉のない音を声を楽器として演奏する。ダブリンの大学でジャズを主に、ボーカルや作曲を学び、2021年帰国。Uquwa(遠藤ふみ、阿部真武、白石美徳とのカルテット)や、ephemeron(伊藤シュンペイとのデュオ)、弾き語りで自身の曲などを歌っている。 2023年、オリジナル曲8曲を収録したアルバム「Live at Ftarri — Lena」をFtarriレーベルよりリリース。
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