林さんとノマル 藤松綾子
林さんの訃報に触れたとき頭に浮かんだのは、その少し前に届いていたノマル35周年記念1「詩人と美術家とピアニスト」のDMにあった林さんの字だった。少し震えた字で、林聡とあるだけの素っ気ないものだったけど、その字は「むっちゃいいで!」という林さんの声が溢れていた。
ノマル在職時から20年が経ち、2009年には関西からも離れたので、林さんと会うのは多くても年に数回に限られていた。2011年、活動に参加していたさせぼアートプロジェクトにてドットエスとアーティストの稲垣元則さんのコラボレーション作品「Night of Railway」の招聘に携わらせていただいたことは、ずいぶんと遠い出来事のように感じる。
わたしが関西を離れる前だったか後だったか、林さんがフラメンコギターを習い始め、そこでおもしろい人に出会ったと話してくれたのが橋本孝之さんで、すでにsaraさんも交えて会っていて何か出来そうだと、いつもの得意そうで、いたずらっぽさが混ざった笑みを浮かべていた。その後、間もなくしてドットエスが誕生してノマルで展覧会に併せてライブを開催するようになり、前述の招聘へとつながっていく。
幸福なことにわたしは、ノマルを離れた後もノマルの展覧会、ノマル作家の美術館など外部での個展やグループ展、北九州、大分、龍野などでのドットエスのライブなど、いくつかの貴重な場に立ち会わせていただいた。そして、多忙なはずのお二人は機会があるとかならず食事に誘ってくれた。最後に一緒に食事へ行ったのは、去年の夏。食事をしながらいつものようにノマルのこと、作家のこと、ドットエスのこと、Utsunomia MIXのこと、長らくはまっているスピーカーのことなどを林さんが楽しそうに話す、でも、それぞれの経緯や関連性などには触れないので、saraさんが「これとこれも話さな、話の良さがまるで伝わらないやん」と、林さんの言葉を補完してくれる。いつもの林さんとsaraさんとの時間。感覚としては、今年も夏前に一緒に食事に行ったような気がするし、8月か9月にも会っていたような気がする。わたしはこの最後となった食事会で、林さんとsaraさんに感謝の気持ちを伝えていた。ふたりが大切にしている“いまを大切に”という思いを、この数年は特に意識して、わたしなりに返したつもりだった。
林さんと最後に会ったのは今年の6月、ノマルで行われた植松奎二さんの個展とその最終日に行われたsaraさんのソロライブに訪れた時になる。体調を崩していた林さんが、ライブ直前に回復して少し話し、そしてまた今度、次は秋頃にまた、と。
「詩人と美術家とピアニスト」を観に行き、詩画集はすこし時間をおいて自宅で読んだ。会場に展示されていた詩と作品を思い起こしながら、そしてまた時間をおいて附属のCDを聴いた。展示と詩画集とも異なって、詩が音で、ピアノが言葉であると気づかされた。そして、目を開けていてもそこがノマルのホワイトキューブであるような錯覚を感じるほど、会場の空気を伝え、迫ってくることに驚き、林さんの言っていた「むっちゃいいで!」を体感し、実感した。そして、これからのノマル、これからのドットエスを、林さんはいつもの得意そうでいたずらっぽい笑みを浮かべながら見守り、応援し、だれよりも楽しみにしているんだろう。「ええやん、おもろいやん」と。
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2011年「させぼアートプロジェクト」(長崎)でのドットエス+アーティスト稲垣元則コラボレーション作品「Night of Railway」。宮沢賢治「銀河鉄道の夜」をモティーフに林聡が全体のコンセプト・メーキングを行った。(撮影:中倉壮志朗)
GALLERY NOMARTのギャラリストを経て、新聞やフリーペーパーに寄稿。させぼアートプロジェクトの活動に参加した2011年にドットエスとアーティストの稲垣元則のコラボレーション作品「Night of Railway」、2014年にアーティストのトラン・ミ・ドゥックと稲垣元則の招聘企画に携わる。
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