一度お会いしたかった by 神野秀雄
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
「Jazz Tokyo」に寄稿させていただくようになって、とても嬉しかったのは、自分が書いたアルバムレビューと同時に「及川公生の聴きどころチェック」が掲載されることだった。1987年サントリーホールで録音された『Keith Jarrett / Dark Intervals』(ECM1379)のエンジニアとして存じ上げていて、ECM録音を託された数少ない日本人エンジニアとして尊敬していて、後追いする形で数々の名盤の録音について知ることになった。
ECMファンを自認し、またかつて録音エンジニアに憧れていたことがあるなどと言ってみたところで、録音されたサウンドを深掘りする知識と耳を持ち合わせていないので、及川さんのシンプルだが暖かく的確なコメントに気付かされたことも多く、遡ってアルバムをより理解することができた。
2023年11月、エルメート・パスコアールがビルボードライブ東京で公演を行ったときに、終演後、フルートの城戸夕果さんと、若きエンジニアの青木ひかるさんと、なぜか六本木の「日高屋」に行く機会があった(他が入れなかった)。おふたりは世代も離れ初対面だったが、「及川公生さんにお世話になった」という話題が出た気がする。お二人それぞれと及川さんについては追討特集の各記事をご参照いただきたい。
また、クラシックギターの鈴木大介さんとやりとりしている中で、それまで意識していなかったが、ギターの山下和仁さんの多くの録音に及川さんが携わり、鈴木さんが影響を受けて来た愛聴盤と重なることがわかった。及川さんが大阪万博・鉄鋼館プロジェクトで武満徹と共同作業をされていて、鈴木さんと武満さんが共同作業をされていたという点でもご縁を感じるところだ。
及川さんにいつか直接お目にかかりたいと思っていたが、その機会は訪れなかったのが残念だ。その偉業に感謝すると共に、心よりご冥福をお祈りしたい。
【及川公生の聞きどころチェックより】
『福盛進也/For 2 Akis』
『望月慎一郎 / Trio 2019』