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R.I.P. ジャック・ディジョネットNo. 332

一人のピアニストとして尊敬と愛を込めて by 石井 彰

Text by Akira Ishii 石井 彰

10月26日──尊敬するドラマーの旅立ち

尊敬し、大好きなドラマーが旅立たれた。Jack DeJohnette。彼のフリークで、演奏しているものを全てチェックするというマニアではないのに、自分が愛聴したアルバムに彼の名前がかなりの確率で入っていたというのが本当のところ。
一番聴いた量が多いドラマーであったことは確実だ。だからJack DeJohnetteのドラミング、音楽を構築していく様が自分の中でスタンダード化されているのだなあと改めて実感している。彼のリーダーアルバム、サイドメンとして参加しているアルバムは膨大すぎるし、共演者も多岐に渡りすぎて全貌は掴めない。
ここに完全ではないがディスコグラフィーがあるので、記録のために載せておきたい。
Jack DeJohnette Discography (Discogs)

初めての出会い──Bill Evans『At The Montreux Jazz Festival』

ジャズに出会って深くのめり込む過程で、早くもJack DeJohnetteに出会った。最初はBill Evansの1968年のアルバム『At The Montreux Jazz Festival』を聴いた時だろう。当初はその凄さを理解できず、ただBill Evansを聴き漁っていた中の1枚に過ぎなかった。

しかし、Bill Evans〜Eddie Gomez〜Jack DeJohnetteという奇跡のトリオがわずか半年しか存在しなかったこと、そしてその音楽的な突出ぶりに気付くまでには時間がかかった。Evansの揺るぎないプレイ、Eddie Gomezとの最高潮のコンビネーション。そこに新加入したJack DeJohnetteは、恐ろしく柔軟なスタンスで調和を重んじ、先輩二人を活かしつつ、これまでにない斬新なアプローチでトリオを次元の異なる領域へと導いた。

初めて生で聴いたDeJohnette──1983年「Live Under The Sky」

初めて生でJack DeJohnetteの演奏に触れたのは1983年。19歳の頃、「Live Under The Sky」という大規模なジャズフェスティバルが日本で開催された。大阪公演(フェスティバルホール)で、Sonny Rollins Special Quartetのメンバーとして出演していた。メンバーはPat Metheny(gt)、Alphonso Johnson(b)、Jack DeJohnette(ds)という夢のような顔ぶれ。Rollinsの底抜けにおおらかな歌心を鼓舞するような、パワフルで華やかなドラミングに心を奪われた。まさに“凄いバンド”だった。

運命の出会い──Keith Jarrett “Standards Trio”

その後まもなく、運命的なアルバムと出会う。Keith Jarrett『Standards Vol.1』『Vol.2』、そして『Changes』。同じ日に3枚を録音し、時間差でリリースされたその作品群にノックアウトされ続けた。Keith Jarrett〜Gary Peacock〜Jack DeJohnetteという3人の紡ぎ出す音楽は、新たな目標であり、憧れであり、音楽家としての理想像となった。

1985年、待望の初来日公演。2月9日大阪厚生年金会館で生の“Standards Trio”を目撃。“唖然と見守るしかできなかった”というほど崇高な体験だった。その東京公演映像(Videoarts Musicリリース)は、自分にとってのバイブルとなった。

以来、1985年から2013年まで計11回の来日公演を追いかけ、通算21回、彼らのコンサートに足を運んだ。Jack DeJohnetteの生演奏体験のほとんどはこのトリオによるものだ。

忘れられない夜──原宿「Keystone Corner」にて

1991年か1992年頃、上京したばかりの頃に訪れた原宿のジャズクラブ「Keystone Corner」。Jack DeJohnette Special Editionの最終日2ndステージを最前列で観た。右寄りに設置されたドラムの真ん前。まさに奇跡の席だった。

その時のメンバーは『Earthwalk』期の編成で、Greg Osby(as)、Gary Thomas(ts,fl)、Michael Cain(p)、Lonnie Plaxico(b)。キャッチーで明るくパワフルな音楽。全身から喜びを放ち、「Great Band!!」と叫びながら全開で叩き続けるDeJohnette。見ると左手が血で真っ赤に染まっていた。それでも音はクリアで美しい。これが彼の真髄だと悟った。

野生的な荒々しさ、激しいパワー、インテリジェンス溢れる繊細さ。全てが混在し、全てが飛び抜けている。そしてピアニストでもあるがゆえに、音楽全体を俯瞰しながら聴き手を惹きつける。どこまでもエレガントで美しい世界。

数々の名盤と共演──“DeJohnette率5割”の幸運

印象に残るアルバムの半分以上に彼の名前があった。
主なサイドメン参加作品をいくつか挙げたい。

・Charles Lloyd「Forest Flower」「Dream Weaver」「In The Soviet Union」
・Miles Davis「Bitches Brew」「Live Evil」
・Ornette Coleman「Song X」
・Pat Metheny「80/81」
・Kenny Wheeler「Gnu High」
・Miroslav Vitouš「Infinite Search」
・Lyle Mays「Fictionary」
・Gonzalo Rubalcaba「The Blessing」
・Eliane Elias「Eliane Elias Plays Jobim」
・Gary Peacock「Tales of Another」
・Zbigniew Seifert「Passion」
etc.

日野皓正との共演──「Transfusion」から「D-N-A Live in Tokyo」へ

日本のトランペッター日野皓正との共演も忘れられない。アルバム『Transfusion』ではRoland Hanna(p)、Ron Carter(b)、Jack DeJohnette(ds)という唯一無二の組み合わせ。この時、HannaとDeJohnetteは初共演で、感激して日野さんに感謝していたという。

このバンドで渋谷オーチャードホールにてライブ録音が行われ、『D-N-A Live in Tokyo』としてリリース。もちろんそのコンサートにも足を運んだ。特に日野とDeJohnetteのデュオによる「Up Jumped Spring」は圧巻。日野さんのレパートリーが極上の輝きを放つ瞬間を目撃し、尊敬と少しの悔しさが入り混じった想いで聴いていた。

ミラクルな瞬間──私の愛するプレイたち

Jack DeJohnetteのマジカルなプレイで最も印象に残っているのは、Keith Jarrett『Standards Vol.1』の「All The Things You Are」、同『Vol.2』の「If I Should Lose You」での演奏だ。スイング感とスピード感が次元を超え、景色がゆったり見えるほど。まさに時空を超えたプレイだった。

さらにもう1曲、『Standards Live』の「Too Young To Go Steady」。
(→ JazzTokyo 記事引用

キースはバラードのつもりで弾き始めるが、ジャックは最初からシンバルを鐘のように叩く。いつの間にか喜びのダンスのグルーヴへ、レゲエのフィルを経て、狂乱のフェスティバルへ――。最後は静謐なバラードに帰着する。このドラマティックな展開が、Standards Trioの真髄だ。Keith Jarrett本人も“持っていかれちゃったなあ”と微笑んでいたに違いない。本当に素敵な演奏だった。

感謝と別れ──永遠に鳴り続けるドラム

Jack DeJohnetteのプレイを愛したミュージシャンは数え切れない。私もまた、その音に魅了されたひとりだ。もう新しい演奏を聴けないのは寂しく悲しいが、彼のドラミングと世界観から、私は大きな大きなものを頂いた。

どうもありがとうございました。そしてどうぞ安らかに。

 


石井 彰
ピアニスト。神奈川県生まれ。大阪音楽大学作曲科在学中、Bill Evansを聞き衝撃を受け、ジャズピアニストを志す。卒業後、関西で活動を始め、1991年拠点を東京へ移す。1998年より2018年まで20年間日野皓正(tp)クインテットに参加。故日野元彦氏からも多大な影響を受けた。2001年には、初リーダーアルバム『Voices in The Night』を発表後、EWEより『That Early September』(Duo with Steve Swallowリ等、リーダーアルバム4枚発表。2011年レーベル移籍し(studio tlive records)、『a〜inspiration from muse』(solo piano)『Endless Flow』(piano trio)『Silencio』(chamber music trio)3枚のリーダー作をリリース。現在は”Chamber Music Trio” 須川崇志(vc) 杉本智和(b)、”Quadrangle” 石井智大(vn) 水谷浩章(b) 池長一美(ds)という弦楽器フィーチャーの2のリーダーバンドを持つ。吉田美奈子(vo)との邂逅は新たな潮流を生み出し、『柊』という現在進行形で進化深化している。音楽教育面では大阪音楽大学ジャズ科准教授として、Hot Music Schoolでも長年教鞭を取り続けている。著書は『超絶ジャズピアノ』(リットーミュージック)『The Jazz道』(ヤマハミュージックエンタテインメント)がある。
最新作は子息の石井智大 (violin,vo)との『石井家Duo/Flying』(Fenince Recordings)。
石井彰 web-site  https://www.akiraishii.net/

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