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R.I.P. ジャック・ディジョネットNo. 332

ドラマーのイメージを変えたジャック・ディジョネット様 by 井上陽介

Text by Yosuke Inoue 井上陽介

ジャズの歴史を語る上で、いわゆるレジェンドと呼ばれるアーティストがいます。その人たちは、登場によって、それまでのジャズを根本的に変えてしまう力を持った人。歴史を作って来た人たちも高齢になり、次々とこの世を去っていきます。特に自分が若い頃に熱中したアーティストは、何故かいつまでも若いと思ってたら、いつの間にか高齢になっている事に気が付かなかったりします。

間違いなくレジェンドドラマーの1人、ジャック・ディジョネット氏は僕がジャズベーシストを志して、最も衝撃を受けたアーティストの1人です。1984年、大学に入学してジャズサークルのようなものに入ってから、本格的に色々なミュージシャンを聴くようになるのですが、当時は情報も今のように簡単には手に入らず、先輩、友人、ジャズ喫茶、ラジオなどから少しずつ集めた情報で、ジャズというもの、特にリズムセクションと呼ばれる人たちに注目していました。ベーシストの立場から見て、素晴らしいドラマーと思える人たちは、みんな切れ味の鋭いバックビートをハイハットを踏む事によってバンドを推進させる事に長けていました。

ある日、友人からキース・ジャレットが久しぶりにピアノトリオのアルバムを出すと聞いて、何気なくレコードを借りて、家でかけた途端に出て来たサウンドに驚愕。それまでのどのレコードとも違うサウンド、雰囲気、世界観が違うのです。ライブハウスでは聞けないような、大きなスケールに圧倒されました。ジャズとは言っても、限りなく自由で、バックビートの存在も忘れてしまうぐらい、個々が対等に語り合って、大きなウネリを生み出すグルーブに飲み込まれてしまいました。実際にハイハットをバックビートに踏んでいないのに。すぐにピアニストの先輩に聞かせてみたのですが、最初はよく理解出来なかったようです。ところが、次の練習会では、その先輩はウネリ声を上げながら中腰で弾いているぐらいインパクトを受けたようです。


Photo by Roberto Masotti

そんな時にタイミング良く、キース・ジャレット・トリオ、通称スタンダーズが初来日。1985年の事です。もはや魔法のような音楽が目の前で繰り広げられるのですが、ジャック・ディジョネット氏の繊細な打楽器なのにメロディーを奏でる対旋律のようなドラミングはこれまで聞いた事もないジャズ。ジャズが芸術であると強く認識させる演奏に大いに感銘を受けました。後で知ったことですが、ディジョネット氏はもともとピアニストであったと聞いて色々と納得。

そこからはスタンダーズは破竹の勢いで活動するのですが、僕は、もっとディジョネット氏の他の演奏も聴きたくなり、色々とリサーチしたところ、自分のリーダー作も沢山出している事が判明。そのどれもが、僕が知っているジャズとは一線を画していて、どちらかというとフリージャズに共通する、即興による芸術を志向しているところが自分にはとても共感を呼びました。フリージャズと言っても混沌というよりは、規則にとらわれない自由な表現。そこには突き抜けた解放感がいつも存在する。そのような音楽でした。スペシャル・エディションと名付けられたバンドの演奏にそれがよく表れています。

1992年、僕が渡米して一年後にヨーロッパ随一のジャズフェスティバル、オランダで開催されているノースシー・ジャズ・フェスティバルで演奏機会を得ました。初めてのヨーロッパでのジャズフェスティバルの体験でしたが、同フェスティバルに1975年に一時活動していたゲイトウェイという、ジャック・ディジョネット、デイブ・ホランド、ジョン・アバクロンビーというトリオが再結成されて出演するというので空き時間に舞台袖から見学させていただきました。そこには同フェスティバルに出演している沢山のドラマーが既に陣取っていました。演奏が始まると一同興奮の渦に。ディジョネット氏のキースジャレットのトリオで見た時よりも、激しくパワフルに、ドラマーとしての本能の赴くままどこまでも上昇していく演奏に袖にいたメンバーで歓声を上げながら聞いたことは良い思い出です。そのバンド、GatewayのCDはそれから数年後の1995年に『Homecoming』(ECM)としてリリースされましたので、すぐに買い求めて何度も何度も繰り返し聞きました。

その後も数々の名演を残して、後世のドラマーに多大な影響を与え続けたジャック・ディジョネットさん。
ジャズそのものを前進させ押し上げた功績に感謝するばかりです。

RIP.

【参考記事】
特集『ECM: 私の1枚』〜井上陽介『Ralph Towner / Batik』
追悼、ゲイリー・ピーコックさん by 井上陽介


井上陽介 いのうえようすけ
ベーシスト。1964年7月16日、大阪生まれ。大阪音楽大学作曲科卒。91年よりニューヨークを拠点に活動。97年には初リーダーアルバム「スピークアップ」を発表をリリース。在米中、ドン・フリードマン、ハンク・ジョーンズなどの数々のグループでのレコーディング、ライブハウス、ヨーロッパツアーでの演奏など国際的に活動。2004年には活動の拠点を日本に移す。2004年には活動の拠点を日本に移す。2019年の「New Stories」まで9枚のアルバムをリリース。2021年9月に武本和大 (p) 濱田省吾 (ds)とレコーディングした10枚目の新しいアルバム「Next Step」をリリース。なお2007年度から3年連続スイングジャーナルの人気投票では1位など常に上位にランクされる。現在、自己のグループ他、塩谷哲、大西順子、渡辺香津美、古澤巌&山本耕史 Dandyism Banquetのレギュラーメンバーとして活動の他、佐藤竹善、JUJU、小野リサなど数々のセッションに参加し日本のみならず海外でも精力的に活動。毎年、春から夏にかけて自己のトリオでツアーを敢行。5月には東北方面、6月には中部、四国、九州方面へ。詳しくは井上陽介ウェブサイトをご覧ください。

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