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R.I.P. ジャック・ディジョネットNo. 332

ひとつの時代の余韻 — Jack DeJohnette に寄せて by 利光玲奈

Text by Rena Toshimitsu 利光玲奈

Jack DeJohnette の訃報を知ったのは、ライブの休憩中でした。
つい数日前には、SNS に元気な姿が上がっていたというのに。あの穏やかな笑顔を画面越しに見たばかりだったというのに。

SNS では「誤報かもしれない」という声も流れ、
その一文を握りしめるように祈りましたが、
胸の奥では、ひとつの大きな灯りが静かに消えてしまったことを、ゆっくりと理解していました。

まるでひとつの時代が静かに終わってしまったようで、その実感に言葉が追いつきませんでした。

私が Jack DeJohnette の音に初めて出会ったのは、
『Bill Evans At The Montreux Jazz Festival』。
あの日、自分の中で「ジャズドラム」という概念が全く別のものへ変わってしまいました。今まで自分が信じてきたものはなんだったのだろう、と。

彼のドラミングは、ただ楽器を叩くというより、語りかけるようで、対話をしているようで、たった一打で空気の密度が変わっているように感じました。
そしてビートが立ち上がると、音楽全体が渦を巻くように動き出す。

強引さはひとかけらもないのに、迷いなく前へ進んでいく推進力。その背中に寄り添いながら、共演者が自然と「この渦に身を預けたい」と思ってしまう理由が、
聴きながらはっきりと分かるような気さえしました。

私は普段、音楽全体を聴いていても、いつの間にか“ドラマーの耳”で音楽を聴いてしまうことがあります。
でも Jack DeJohnette の音に触れているときだけは、いつも共演者の立場で音を浴びていました。
その不思議で幸福な感覚は、他の誰の音でも味わえなかったものです。

そして、私にとって彼の音楽は“理解しようとして一度に掴める”ものではありませんでした。
Jack DeJohnette の音は、聴くたびに“今の自分が受け取れる分だけ”そっと差し出してくれるような音でした。その度に、自分が少しだけ成長しているように思えて、それが嬉しくて、また彼の音へ戻っていく。
そんな時間の積み重ねでした。

繰り返し聴く中で、最初はただ圧倒されるばかりだった音の連なりが、ある日ふと、ほんの少し輪郭を持って近づいてくる瞬間がありました。
その時、自分の中のどこかが静かに育っていく音がしました。そのゆっくりとした変化こそが、私にとっての確かな喜びでした。

一度でいいから、彼の生の音を浴びてみたかった。それだけが、どうしても残ってしまう小さな悔いです。

彼が生涯をかけて紡いだ音楽は、ジャズの歴史そのものを新しい方向へと導き、無数のミュージシャンに新たな可能性を示しました。

あれほど豊かで自由な音楽を、この世界に惜しみなく与えてくれたことに、ただ感謝しています。
Jack DeJohnette の創造の軌跡に、深い敬意と感謝を捧げます。

Jack DeJohnette, Pat Metheny, Herbie Hancock and Dave Holland – Shadow Dance


利光玲奈 Rena Toshimitsu
埼玉県出身。ソプラノ歌手である母の影響により、幼い頃から音楽に親しんで育つ。埼玉県立大宮光陵高校音楽科卒業。打楽器専攻としてクラシックの音楽教育を受ける。スネアドラム、マリンバを村本寛太郎氏、鷹羽香緒里氏に師事。大学からジャズドラムに転向。洗足学園音楽大学ジャズコースに入学し、ジャズドラムを大坂昌彦氏に師事。大学在学中に、六本木アルフィーや南青山ボディアンドソウル、銀座スウィングなどの老舗ジャズクラブに出演を果たす。2018年3月、洗足音楽大学を首席で卒業。同時に卒業研究優秀者に選出される。5月、クラシックの祭典、ラ・フォル・ジュルネTOKYO出演を果たす。現在、中村誠一氏(ts)、山本剛(pf)、天野丘氏(gt)、田辺充邦氏(gt)、岡崎正典氏(ts)などのバンドに加入。サイドメンだけでなく、自身のリーダーライブも定期的に開催しており、首都圏を中心に精力的に活動中。bf Jazz School ジャズドラム講師。

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