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R.I.P. ジャック・ディジョネットNo. 332

ディジョネットの総合力 by 吉田隆一

Text by Ryuichi Yoshida 吉田隆一

そうと知らず初めて聴いたジャック・ディジョネットの演奏は、私がジャズを聴き始めた高校2年生の頃、町田のレコファンでジャケ買いしたジャッキー・マクリーン『Demons Dance』でした。
ジャズ初心者の私の感想は「すごいアルバムだな」で、すなわち個々のミュージシャンのどこがどうすごいのかはまだ認識できませんでした。従ってこのアルバムでディジョネットを「知った」とは言えません。

ディジョネット個人を「すごい」と認識したのは大学生の頃に聴いた『1969 Miles: Festiva de Juan Pins』です。マイルス・デイヴィスの(いわゆる)「ロスト・クインテット」によるこの演奏は、トランペッターとしてのマイルスを含めて個々の「すごさ」が分かりやすい音源ですよね。若輩者にとって記憶に残る聴覚体験でした。
しかしながらこうした「すごい」演奏での「すごさ」は、あくまで音楽家の能力の極く一部にすぎません。評価すべきは総合力なのです。そしてディジョネットはまさにその総合力に於いて群を抜いた人物でした。

「音楽家の総合力」を認識したいなら、リーダー作を聴くのが分かりやすいですよね。
例えばECMの名作『New Directions』や『SPECIAL EDITION』は必聴と言えますが、それらについてはどなたかが書いてくださりそうなので、他の方が触れなさそうなアルバムを紹介します。

ミック・グッドリック『In Pas(s)ing』 (1979年/ECM1139)です。
ミュージシャンは以下の4人。

Mick Goodrick
John Surman
Eddie Gomez
Jack DeJohnette

本作は、名ギタリストにして教育者であるグッドリックの初リーダー作ですが、一歩引いて、音楽全体のコントロールに徹する貫禄すら感じさせます。そしてマルチリードのジョン・サーマン、ベースのエディ・ゴメスが抑制を効かせつつ印象的なプレイを聴かせます。
このアルバムでのディジョネットのプレイこそ本当に「すごい」です。グッドリックと共に、広い音楽の場を作りだしています。
ここで注目すべきはサーマンの在り様です。米国のミュージシャン3人に対し、ロックとフリージャズが渾然一体となったブリティッシュ・ジャズの代表格とも言えるサーマンの押し出しは強く、(米国勢も各々フリージャズを経由した面子とは言え)ややもすればサーマンが浮いてしまっていたでしょう。しかし本作では……無論、各々のミュージシャンシップあってのことですが、そうはなっていません。その立役者がディジョネットです。
ドラムに耳をそばだてると、例えばサーマンのソロパートでは、単にボリュームを上げたりプッシュしたりではなく(無論プッシュしている場面も幾つもありますが)、前後の文脈を踏まえ、サーマンをサウンド全体に馴染ませるプレイをしているのがわかるでしょう。
結果、アルバム全体を通して極めて自然かつ繊細なダイナミクスと音響の変化が生じ、飽きることがありません。それはまさしくディジョネットの「音楽家の総合力」に由来しています。

それに先立ち、かつ録音年の近いケニー・ホイーラー『DEER WAN』(1977年/ECM)と聴き比べると面白いかも知れません。こちらは英国勢(カナダ出身で英国での活動歴も長いホイーラー含む)、米国勢、そしてノルウェーのヤン・ガルバレクという多国籍セッションです。その中でディジョネットはアグレッシブなプレイを聴かせます。ここではロスト・クインテットのディヴ・ホランドとのコンビネーションも聴けます。

様々なセッションを通じ、ディジョネットは英国ジャズのイディオムも理解していたはずです。それが『In Pas(s)ing』でのプレイに影響していたのかも知れません。

サーマンとディジョネットは2002年、やはりECMからデュオ作『INVISIBLE NATURE』を発表しています。本作では2人とも、管楽器/打楽器というメインの楽器以外に(以前から用いていた)シンセサイザーの多重録音も加え、ディープな音響を作りだしています。「音楽家の総合力」で勝負できる点で、この2人は共通しているのです。


吉田隆一 Ryuichi Yoshida
バリトンサックス&フルート奏者、作編曲家。SF+フリージャズトリオ『blacksheep』(吉田隆一bs,スガダイローp,石川広行tp)を中心に、ジャンルを横断する音楽活動を行なっている。バリトンサックス無伴奏ソロをライフワークとして継続。”SF音楽家” を名乗り、SFやアニメに関するコラム/解説の執筆を手掛ける他、SFトークイベントの主宰や出演、SFと音楽のコラボ企画を継続して行なっている。一般社団法人 日本SF作家クラブ会員/第4期理事。

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