JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 ...

R.I.P. ラルフ・タウナーNo. 334

RIP ラルフ・タウナー 坂本 信

ラルフ・タウナーは、ギタリストとして文字通りのユニークな存在だった。そもそも、22歳でギターを始めたという事実からしてユニークだ。
作曲を専攻していたオレゴン大学の最終学年の時にクラシック・ギターのコンサートを観に行って興味を持ち、それまで触ったこともなかったクラシック・ギターを手に入れ、ウィーンでクラシック・ギターを学んだ。先生はウィーンの由緒ある音楽出版社Universal Edition社からギター用の楽譜も出しているカール・シャイト。1日8~10時間という猛練習を重ねて、1年後にはリサイタルを開けるまでになっていた。
タウナーはクラシック・ギターばかりでなく、12弦ギターの使い手としても知られている。彼がリーダーを務めたオレゴンの母体となったポール・ウィンター・コンソートでジョニ・ミッチェルの曲を演奏することになり、ウィンターから12弦ギターを弾いてほしいと言われたのが、彼がこの楽器を手にするきっかけだった。金属弦のギターを弾くと爪がボロボロになるが、生まれながらの厚くて丈夫な爪にモノを言わせて、その後は積極的に使うようになった。1970年前後のことで、ミロスラフ・ヴィトゥスやアイアート・モレイラとやっていたバンドで12弦ギターを演奏したのをウェイン・ショーターが耳にして、その後結成されたウェザー・リポートの2作目『I Sing The Body Electric』に参加することになった。ちなみに、アルバムを録音する時には、クラシック・ギターの曲を先にして、12弦は最後にしたという。
個人的に好きなタウナーのアルバムはいくつもあるが、ソロ・ギターの作品はどれも素晴らしい。最初に聴いたのは『Solo Concert』で、演奏はもちろん、広がりのあるサウンドにも強い印象を受けた。ECMのプロデューサーのマンフレート・アイヒャーに、この時の録音について聞いたことがあるが、ステレオ・ペア・マイクを2組使用し、ひとつのペアをギターの近く、もうひとつのペアをギターから離れた位置にそれぞれ設置して音を拾ったそのままの音で、人工的なリバーブ処理などは一切していないとのことだった。
個人的に好きなタウナーの曲もこれまたいくつもあるが、ひとつ挙げるならアルバム『Ana』に収録された<Joyful Departure>*ということになるだろう。軽快なメロディーと進行感あふれるテンポが、「嬉しい旅立ち」というタイトルにぴったりだ。途中に「一末の不安」を暗示するような部分もあり、作曲家としてのタウナーの巧みなストーリー展開も楽しめる。とはいえ、素人目に見てもテクニック的には超が付くほどのテクニックを要求する曲のようで、YouTubeで本人のライブを観ても大変そうだ。一度に5つの音を鳴らすところでは、「できれば小指も使って」という指示もある。この曲はクラシックのギタリストたちのチャレンジ精神もかきたてるようで、日本を代表する福田進一をはじめ、何人かが録音している。
タウナーには2000年に来日した際にリットーミュージックのギター・マガジン誌の取材の通訳をしたことがあり(記憶が正しければ、お台場にあったTribute To Love Generationでの公演だったはず)、有料の読み放題に登録すればオンラインで読めるはず。ゲイリー・ピーコックとのデュオでの来日で、土産物を買うということでふたりを銀座に連れて行って、松屋デパートで買い物をしたり更科そばで食事をしたりしたのが、良い思い出だ。ピーコックは2020年に他界しており、今はタウナーが後を追ってしまった。ご冥福をお祈りします。
*『Ralph Towner Solo Guitar Works Volume 1』(Guitar Solo Publications SF)
♫ 本編は、1月20日にFacebookに掲載されたテキストを筆者の同意を得て転載するものです。


坂本 信  Akira Sakamoto
札幌市出身。音楽出版社やレコード会社、楽器メーカーの記事執筆、英文翻訳、数百人のアーティストの取材や通訳を行う。翻訳書は『ビートルズ・ギア』、『ジェームズ・ジェマーソン:伝説のモータウン・ベース』、『レッド・スペシャル・メカニズム』など。また、ベーシストとしては高崎晃やマイク・オーランド、伊東たけしなどと共演。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください