渋谷毅さんのこと 渡辺 徹
渋谷毅が主宰したカルコ・レーペルの第一作『LIVE1989/渋谷毅オーケストラ』が新宿ピットインでライヴ録音されたのが1989年1月で、これはDAT音源。渋谷さんより “これ、編集できるかな? ” と言われたものの、マルチ録音ではないので多少の整音などをして、ほぼそのままCDとしたもの。手元にあるインナーには渋谷の自筆で“武田さんがいいですヨ”とのメモが記してある。
これが、武田和命の公式な最後の録音で、様々な意味で記念碑的な作品となったのである。
さらに、1988年に福岡県柳川市で録画された武田和命カルテット (渋谷毅p/川端民生b/渡辺文男ds)の演奏をDVD『Live at 柳川ファンクール』として発表。これは家庭用カメラで撮影されたもので、映像のコンディションに難があり、作品として発表することをかなり迷っていたが、どうしても武田の映像を残しておきたいという強い想いが作品化を決断させたようであった。
何しろ、武田とは若い時に高尾山でハイキングを楽しむほどの仲で、武田が亡くなった時は、遺品を整理して武田の実家まで届けているのだから、とても深い友情で結ばれていたようである。その後、カルコ・レーベルではオーケストラの作品を4作発表しているが、『ライヴ’91』が出色の出来で、“ライヴなのにどうしてあんなに上手く出来たのだろう” と人ごとのように話していたのが思い出される。3枚のスタジオ録音を発表して以降は、オーケストラ・メンバー個々とのデュオ・シリーズを作り続けることになったのは周知の通り。
この間にも、渋谷はプーさん (菊地雅章) と全曲エリントン曲のピアノ・デュオ『タンデム』を録音、ファンの皆さんならご存知のようにプーさんとは、東京芸大附属高校二期生の同級生で、録音中の二人は延々とエリントンについて語り、音楽よりも、二人の会話の方を録音しておけばよかったのでは、と思われるほど濃密で貴重な時間であった。
“シブヤ、あそこのコード、おかしいと思わないか?”
“んーん、そうだね....多分、エリントンが弾き間違えたんだよ”
“えーっ、そうなのか!?”
等々。
それはまさに二人にしか分からない禅問答。
さらに同時期には、名プロデューサーであった故望月由美さんのレーベルで『エッセンシャル・エリントン』を録音して、エリントン愛を結実させたと言えるかもしれない。この作品は、たった4人編成でエリントン・サウンドを再現。いや、“再現” 以上の成果を記録した作品としてジャズ史に記録されるべき名作で、もし、エリントンが生きていたなら、渋谷を編曲者として迎えたくなっただろう、とさえ思われる大傑作である。
渋谷はNHKの児童番組にはたくさんの作品を書いたものの、渋谷毅オーケストラのためには一曲も書かず、“なぜ、渋谷さんは曲を作らないのですか ?”と尋ねられると、“優れた作曲家は沢山いるし、名曲がたくさんあるのだから、わざわざ作らなくてもね” と。これが、いまだに解けない謎のまま、彼方へ行ってしまった。
追記
渋谷は年明けから、新しい作品に取り組み続け、特に数年前に発見された幻の映画『京都 in 京都』(1969年) のDVD化にあたっては、病床にありながら映像のチェック、音源のダビングまでを見届けました。この作品には渋谷本人の絶筆となったライナーノーツを付けて、今秋の発表を予定しています。(2026/08/04)
渋谷毅主宰カルコ・レーベル
管理者 渡辺 徹



