最初にもらった千円札 さがゆき
それはちょうど携帯電話…ガラケーが出始めた頃。私は法政大学の校内を歩いてた。1994年10月大阪・旧梅田東小学校体育館での公演に続き翌1995年11月東京・法政大学大ホールで行われた松本雄吉率いる維新派「ヂャンヂャン☆オペラ」【青空】 音楽監督/内橋和久、 楽隊/坂本弘道、さがゆき、塩谷博之 に音楽隊で出演していた時の事。まだ使い慣れていないガラケーが初めて鳴った。「渋谷と申しますが」と聞き慣れない声。どちらの渋谷さんですか?と私。「ピアノの渋谷と申します。今度ライブご一緒したいのですが。あ、Fax番号教えて下さい。西荻窪グッドマンと言う所です。」 そして帰宅して届いていたFaxには地図が。 当日そこへ向かうと、なんとお寿司屋さんではないか。ヤァヤァ、と初めましての渋谷毅さんが座っている。挨拶もそこそこにお酒が注がれる。え!ライブじゃなかったの!? まぁまぁ、まずは飲みましょ、と言われてもその頃なんて飲む習慣無かったから…チビリ…と。お寿司つまんで、色んな話して…「僕はね〜エリントンと可愛い女の子が居れば生きて行けるんだ」へぇ、そうなんだ。私もエリントン好きでよかった…笑。 そして徐ろにグッドマンへ。ライブはそれはそれはとても楽しかった!お客さんは少なかった…ような気がする。なんと言っても31年も前…古い話だからね。ライブ終わって渋谷さん、もう一件行こう!…って、終電無くなりますよぉ。そしたらタクシー代上げるから!って千円札1枚くれて…向かい側だったかな、飲み屋さんでまた一杯…笑。 それからは頻繁にご一緒する事になる。まだお酒飲んでなかった私は酒量分からずに、でも「飲まないで演ったって面白くもなんともないじゃない」と言われ、一度名古屋のライブハウスで演奏前に飲んで悲惨な状況になった事も…。でもそれでも懲りずに…かなり鍛えられましたよ!それから 潮先郁男さん/gとのトリオが生まれ、アルバムも出し、宮崎から東北各地まで津々浦々…随分ツアーしたなぁ。 渋谷さんは旅仕事の時も、いつも譜面やら何やら、バッグやキャリー一切使わず、手に持って、バラバラ落としたりしてて、仕方ないから私のゴロゴロに全部入れてもいいよと。しかし…! 移動の際、電車乗り換えに階段しか無いやうな所を渋谷さんはずんずん歩いてっちゃう!潮先さんと私はゴロゴロ重いから、必死で付いて行くのだが、「何やってるの!?電車行っちゃうよ!」…出た…渋谷節。潮先さんに、まぁまぁ、さがさん、僕が半分持ちますから…って、渋谷さんよりかなり年上の潮先さんにそんな事させられない!頑張るしか無い…汗。 そんな事は序の口で、本当に、まぁ天真爛漫と言うか、渋谷毅と言う宇宙に…長年かかって随分慣れましたね。 でもね、悪気が全く無いのね。【素】なんですわ。分かってる…でも何度大喧嘩したか分からない。もう貴方とは二度と一緒に演らない!と怒り狂って…なん日か経って家に帰ると、ドアノブに神戸の美味しそうなパンが掛けてあったりする。もう…怒れなくなっちゃうよね…。 だいぶ前に面白い事があった。横浜エアジンでまだ年越しオールナイトセッションがあった頃、ピアニストの南博さんが面白がって、色んなピアニストの真似をして弾くという余興。Bill Evans、Oscar Peterson 、Chick Corea 、Keith Jarrett…似てる似てる、上手いうまい!誰かが、じゃあ渋谷毅、って。そしたら南君、ぽつんと…それは無理…って。場内大爆笑。分かってるねぇ!渋谷さんの真似は…無理。皆んなが渋谷毅さんの素晴らしさを、渋谷さんが居ない所で再認識した良い夜でした。 渋谷さん実は、客席に居てくれた率1番高いミュージシャンでした。菅野邦彦さん、八木のぶおさん、助川太郎さんと土井徳浩さん、続木徹さん…とご一緒してる時、ふといらっしゃる。 お顔見たら、なんか一曲是非、ってなるじゃない?菅野さんとは親しいお友達だから、演奏スタイルは全く違ってお互いの音が大好きで、ふたりともとても嬉しそうだったな。 続木さんの時…三曲目くらいに弾いてもらったんだけど…もうその後もずっと。続木さんが気になったんだけど、彼も聴いていたい、みたいな空気になって…なんとその後もずっと。メンバー紹介まで!アンコールは2人でやろうか、ってずっと2人でやっちゃって来たよね…続木さんごめんなさい。でもなんかニコニコ聴いてて下さって。 あ、そうそう、神戸のBig Appleで清野拓巳さん/gとの、ライブレコーディングな日、居たっ!客席に渋谷毅さん!僕もやる!って。神戸まで! 全曲私のオリジナルで、渋谷さんともよくご一緒していた曲ばかりで。実は渋谷さんをテーマにして書いた曲もあり、清野さんもニコニコして下さり…結局3曲渋谷さん入りのアルバム『Mimicry』(Crab Apple 2014) となりました。 助川太郎、土井徳浩、さがゆきのアルバムは、ライナーを書いて下さった。 私の音楽生活、どこを切り取っても渋谷毅さんが散りばめられてる…。想い出、とか言うレベルじゃなく…ね。 今では私も自分のお酒の量も知り尽くし、ライブでは必ずグラスを…という習慣に…これは渋谷さんの置き土産ですね。多分生きてる限り。 大嫌いで、大好きで…元気な時から、1番死なれたら悲しい人だな、って思ってた。 約ひと月の台湾ツアーから、台風で4日間飛行機とばず、日本に帰れたのは7/16のライブにギリギリ間に合った15日の夜遅く。 その日のライブ終わって、打ち上げで、何故だか分からないけど、今ここに書いたみたいな、渋谷さんとの出逢いからの話に、何故かメンバーの関島岳郎さん、中尾勘二さん、北海道からのご夫婦…皆んなで渋谷さんの事ばかり話した。その日に亡くなって居たなんて…。帰って来るの待っててくれたのかな…。 お通夜もお葬式も国内ツアーと重なった。来なくていいよ、なんて言いそう。だから、こんな事書いてるけど、最後の姿に会ってないし…まだ実はピンと来てない…。 渋谷さん、最初にもらった千円札、私まだ大切に取ってあるんだよ……
さがゆき(vo) 潮先郁男(g) 渋谷毅 (p) 2007年録音
<銅の犬> 2015年2月11日 渋谷・公園通りクラシックス

さがゆき シンガーソングライター/ LapTop guitar /Percussion
北村英治のバンドでデビュー、中村八大のバンドの専属歌手を経てソロ。
海外活動を含め共演、アルバム多数。
最新作『中村八大作品集』(地底)の好評を得て、共演の八木のぶお (harp)と全国各地を巡演。
さがゆき, 渋谷毅



