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R.I.P. 渋谷毅No. 340

君は君 我は我なり されど仲良き 平口紀生

photo & text: Norio Hiraguti 平口紀生

「君は君  我は我なり されど仲良き」 といったお二人だったように思います。
演者としてはかなり古くからお互いに知り合ってはいたものの、ジャズメンとしての共演歴は比較的近年になってから、という話はお二人其々から伺っていました。その中でもプレイの中心となったのは国立「ノートランクス」のデュオではないかと思います。

ここ数年ムレさんは体力も記憶持続力も徐々に下がっており、以前は自力で向かっていた「ノートランクス」も往復送迎になっていました。車内ではその日共演する方やつながりの深いプレーヤーのCDを聴きながら行くことがなかば習慣となっており、渋谷さんとの時はデビュー作『ドリーム』や近作『カーラブレイが好き』、そして一番よく掛けたのが川端民生さんとのデュオ『蝶々在中』でした。聴きながらムレさんから「このピアノはどなたですか」と毎回問われ、「渋谷さんです」とお答えすると「渋谷さんはまだ芸大の学生のころから知ってるんですよ、当時は着物姿で袴がよく似合ってました」と毎回のようにおっしゃるのですっかりそのイメージを覚えてしまいましたが本当だったのでしょうか。また、「一番忙しい時期は六本木に事務所があってBMWを何台も乗り回してましたよ」ともよく言われました。

この「ノートランクス」での渋谷さんとのデュオは早い時期から毎回、ムレさんが秘密裏に選曲し演奏直前にピアノ前に座る渋谷さんに一曲ずつ提示するというスタイルで進行してきました。渡される渋谷さんも全くの初見だったりはるか昔にやったきり数十年ぶりに見る譜面だったりと意外性に富んだものが多かったです。

プレイスタイルとしては、多くの場合渋谷さんが融通無碍かつ探るような感じで単音を発し出して始まり、なんとなく曲の形が見え始めたあたりからムレさんが調和させるでもない風にちょっと意外な感じの音を加えていき、たとえとして適当かはわかりませんが、二人で組み上げる(あの俳諧の)連句を見ているようでした。そして気が付けばその曲らしい、しかしこの二人にしか作ることのできないサウンドの渦中に連れていかれているという風でした。

僕は最初に渋谷さんの撮影許可をいただくとき「好きに撮っていいけどポーズとか整列とかの注文はご免蒙る」といわれていましたので、毎回渋谷さんの左袖側に密着するように位置し無遠慮に撮らせていただいてきましたが、実際のところ照明の具合、また渋谷さんご自身の演奏中の何か深く思索しながら弾くかのような姿勢(と動作)などの諸条件からなかなか満足いく演奏写真にはならず、いまでも自分の拙さを残念に思っています。

演奏の間、譜面の受け渡しで少しのやりとりをする以外ほとんど会話もなく淡々とプレイに耽溺していたお二人ですが、演奏前や休憩中は何かよくわからないながら大変親密な雰囲気で話し込んでいました。残念ながら会話の中身は記憶にありませんが、そういう時の様子の一片はお二人のライブCD『Our Long Road』のカバーフォトに使用しましたので是非どんな話をされていたのかご想像ください。

渋谷さんとの最後の演奏になったのは2025年11月ブルーノートならまちでの渋谷さんバースデイライブでした。ムレさんもこの頃は一層体力も低下してきて十分に弾き切る事が出来るか心配でしたが、満席のお客様の熱い応援もいただきどうにか完遂し、うち何曲かは素晴らしい演奏だったように記憶しています。

よく逝去に際し「向こうでは心置きなく共演されていることでしょう」みたいなことを言われるようですが、僕はこのお二人は向こうではそれぞれ我関せずといった感じに自分の演奏に没頭したり、周りにかまわず好き勝手に弾いたり飲んだり寝っ転がったりしている様子しか想像できません。
でもやっぱり、もう一回お二人の共演、聴いてみたかったなあ….。


平口紀生 ひらぐちのりお
主な撮影業務; 働くひと(主に演奏家)のポートレイト撮影、 CDジャケット撮影(近作;キングレコード 小室等『love song』)
その他注文撮影各種。
主要掲載媒体; リットーミュージック「Jazz Guitar Magazine」誌。月刊「JAZZ LIFE」誌。
運営・管理; 「中牟礼貞則ピクトリアル」(Facebook)
https://www.facebook.com/SadanoriNakamurePictorial/?locale=ja_JP

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