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R.I.P. 渋谷毅No. 340

渋谷毅さんと落とし文 仲野麻紀

だから、渋谷さんはあの曲をコンサート終了後、いつもひとりステージに残って、ひとりで弾いた。
「僕が旅立っても、いつもピアノが、囁いているからね。」

その曲とは_。
Danny Boy、あるいはLotus Blossom、あるいは_。

あのひと時に、何か全てが肯定されるような包容感をどれだけの人々が立ち会っただろう。
ジェンダーをあの時代に生きて優に超えた母性。
その母性という原型の源に渋谷さんのピアノの音が宿っている。
どんな挑発も見栄も悠々と躱し、
あるとしたら”自我”というものがこれほどまでに清廉なものだったのかという気づき。

伊香保、茅野くるみ、京都、滋賀、名古屋、河口湖、盛岡、東京、クラブクアトロ、レディージェーン、公園通りクラシックス、玉川学園 Jia Jia House、新宿裏窓、第五福竜丸、茶会記、諏訪湖_。
渋谷さんが運転する黒とオレンジのRenault Twingo ZEN MT リヤ。
土筆を摘んで、きのこ、山菜、はたまた花の種に水芭蕉、を共にした方は特に一番近きしご家族であると思う。

盛岡の瀬川さんと交わす笑顔。
地方にも本当に多くのファンがいらして、その度に笑顔で
「久しぶりだねえ」
あのたまらない溢れる笑顔。
そしてあのピアノの一音を待っている人々。

諏訪湖畔のあるチャペルでの演奏がわたくしにとっては最後となりました。
「自分を大切に」という言い回されたフレーズは、渋谷さんとの演奏によって体現することになりました。
それは、謙虚さの中に真実がある、と。

あまりにも自己顕示に満ちた一句、お許しください。
「落とし文逝き人と色重なりて」

西尾賢さんによる作詞作曲「アマドコロ摘んだ春」。
この楽曲との出会い、そして伊香保でのライブ、録音。
このアルバムの誕生がなければ、きっと渋谷さんとの演奏の時間はこれほどにはなかったと思います。
その音の中に佇むことができる多幸感。

「落とし文」とはあの儚いみどり色、緑の葉に包まれた夏の命であり、そう落とし文_。
アマドコロの色もまさに山菜である春の命。
色に命を感じたい。
逝き人の命は今音となって_。

 

 

仲野麻紀

2002年渡仏以降m、エリック・サティの楽曲を取り入れたユニット”Ky”、西アフリカ&フランスの音楽家たちによる”Bala Dee”、モロッコ スーフィー教団とのプロジェクトなどを並行し、ジャズとワールドミュージックを横断。2017年非営利団体「Art et cultures symbiose -芸術と文化の共生-」をブルターニュに設立。多分野の講演会、展覧会を欧州で企画。 音の生まれる空間、トラッド・ミュージシャンたちとの演奏を綴った『旅する音楽』で第4回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。最新作は二ヶ国語による俳句 CD『古今』、エリック・サティ没後100年作品集LP、「月の山」ソロピアノEP等アルバム多数。 渋谷毅とのアルバムは『アマドコロ摘んだ春 〜 Live at World Jazz Museum 21』(NADJA 21)。 ふらんす俳句会友。

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