「歌わなきゃ、だめです」 纐纈之雅代
渋谷毅さんの訃報を知った。最後の演奏は2026年2月9日、アケタの店でした。近年、渋谷さんと一緒に演る時は、1stはDUO、2ndはそれぞれのSOLOを、最後にまたDUOというステージになっていた。ここ1年半程、私は自作曲の弾き語りをはじめていたので、SOLOコーナーではギター弾き語りをやるようになった。前回のライブ終演後、渋谷さんが、「雅代さんは歌わなきゃだめです。今度、僕も (ギター弾き語りと)一緒にやりたいな。」と仰ってくださった。信じられないほど嬉しかった。そして、2月9日、私はギター弾き語りの譜面を一式家に忘れた。譜面など必要ないようなシンプルな曲ばかりなのだが…。唯一、譜面があったのが「海のワルツ」。この曲は、2011年に作って『Band of EdeN』にも収録されている。最近、歌詞をつけて、ギターで弾けるようにしよう…って生まれ変わった曲だ。奇しくも、「海のワルツ」が渋谷さんと一緒に演奏した唯一のギター弾き語り曲になった。
渋谷さんの葬儀の翌日、如意ン棒のライブで、あたしは、渋谷さんと最後に演奏した浅川マキさんの「夜」の詩を追悼をこめて、朗読にかろうじてメロディがついてる調子でうたってみた。
また翌日、ギター弾き語り祭りがあった。7人出演した。私は4曲歌った。2曲目に「海のワルツ」..途中から涙が止まらなくなった。『きらきら、笑い声が、ゆらゆら、消えてゆく、こぼれた、白い砂、海に還す』という歌詞、昔の恋人との記憶を書いた詩だったが、渋谷さんの最後の「お骨の白」が頭の中に突然重なって..。次の「消えない虹」は大切な人を想い続ける歌詞で、ここでも、涙が止まらない..そんなつもりじゃなかったのに、こんなことになるなんて..恥ずかしい、結局最後まで涙が止まらないまま歌うことになった...。帰宅して、ひとり部屋で、そうか、あれは、追悼だった、と気がついた。オリジナル曲は、作った時の意味を超えて、感情の受け皿になってくれるんだなあ..人生に寄り添って共に成長してくれているんだなあ、と、それを、渋谷毅さんに気づかせてもらったような、気がした。「歌わなきゃ、だめです」って渋谷さんの優しい声が、頭の中で、何度も、木霊した。
渋谷毅さんと初めてご一緒したのは、2012年6月の渋谷毅オーケストラでした。そして、2026年2月9日も、渋谷さんの、畏敬の念を感じるほどの、穏やかに静かで、且つ、バキバキにスピード感のあるピアノは健在でした。ずっとずっと、渋谷さんのことが大好きです。ありがとうございます。これからも。
纐纈之雅代(こうけつ まさよ)
岐阜県生まれ。サックス奏者。2008年、Ssony Musicより『鈴木勲 Solitude feat.纐纈雅代』でデビュー。2015年8月、自身のオリジナル曲を集めた1st アルバム『Band of EdeN』(SUISUI) をリリース。リトアニア NoBusiness Recordsより2020年5月、『フランソワ・キャリリール|纐纈雅代|不破大輔|井谷享志/Japan Suite』、2021年、『リューダス・モツクーナス/イン・レジデンシー・アット・ビッチェズ・ブリュー feat. 坂田明、梅津和時、林栄一、大友良英、纐纈雅代』をリリース。2025年2月、新バンド如意ン棒による『ぜんぶ流れ星のせい』(Somethin’ Cool/DIW)をリリース。国内に限らず、メルスなど海外公演も多い。『著書に、自伝『音の深みへ』(2019 彩流社)。



