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R.I.P. 渋谷毅No. 340

“生きる” とは? 関口滋子

正直にいうと、私はまだ、渋谷さんの不在を受け入れていない気がします。
ピットインで、アケタで、ピアノの前にすわって、ポロんと弾いてくれそうな気さえしています。
でも、あのピアノを聴けた当たり前の日常は、遠い昔のようになってしまいました。「音楽の神様」ということを時々話していた渋谷さん。その神様が訪れる “とっておきの瞬間” に触れたくて、都合がゆるす限り見に行っていました。結果的に最後になってしまった耕心館のライヴまで、30年あまり、何度足を運んだことかと途方にくれます。

 そんな中、“今日はよかったね” と渋谷さん自らが口にしたのはわずか数回だったように振り返ります。もちろん照れや謙遜がありつつも、誤解を恐れずにいえば、渋谷さんはとても理想の高い人だったと思います。ピアノを弾く時は、“ただ自然に美しく” と瞬間に向き合いながら、決して満足はしない人だった、と思うのです。「僕はあきらめが悪いから」とも何度も口にされていた記憶があります。
ただ、渋谷さんのピアノは、どんな時だって、渋谷さんそのもので、ふとした時の絶好調のピアノはなにものにも替えられない特別なものでした。優しく、温かく、繊細に美しい。淡々と衒いもなく、聴いている人の心に響いて満たしていく音楽、あれは、魔法のようだったなぁ、と。魔法と言えば、どんなコンディションのピアノも渋谷さんが弾いたら違う音が生まれる、というのもありました。

思い出はたくさんながら、ひとつ、とあるユニットのレコーディングのことを書いてみたいと思います。
その日の録音は順調に進んだり、なやんだり…。つかれた渋谷さんは、ちょっとひとやすみ、というと、スタジオに置かれていた簡易ベッドにゴロン、横になるとお昼寝タイム (笑) に突入しました。しばし経っても起きそうにない渋谷さん。どうなることかと思ったら……
起き抜け最初に弾いたソロ・ピアノの、なんとまあ、美しいこと!その曲は別のテイクもとったけれど、渋谷さん本人をはじめ、全員一致で最初のテイクが採用となりました。俗称 “お昼寝一番 (テイク)”! いかにも渋谷さんらしいお話です。
渋谷さんのそんな音楽に対して、わたしは自分の能力や語彙力が追いつかず、知るほどに歯痒くなったこともありました。仙人のようなところもありながら、どこまでも人間らしい姿に、おおげさでなく、“生きる” とは?ということも考えさせられ、今も霧の中です。

でも、いろいろなことに感謝しています。
「音楽の神さまは滅多に現れないけれど、顔を見せることがある、そんなことが “ある” というのが頼り」というように語っていた渋谷さん。私にとっては、渋谷さんの音楽を頼りにしてきた日々で、これからもそうだと思います。
個人的に病気のことを聞いたのは2月のこと。そこから数度の演奏を聴けたことも大変貴重でした。本当はしんどかったはずなのに….最後まですばらしい演奏でした。ありがとうございました。
※言葉の語句は正確ではありませんが、そんなニュアンスだったというものです。


関口滋子 せきぐちしげこ
WAVE、 Disk Unionといったレコード店、キングインターナショナルでの卸、プロモーション業務を経て、2021年、Free Flying Productionsを立上げ。音楽好きを原点とするスタンスを頼ってくださる方に支えられながら、レーベル運営&パブリシストとして活動中。Resonanceとのビル・エヴァンス・モントルー・トリオの発掘盤等の仕事を良き思い出としつつ、日々出会う音楽と、ご縁に感謝の日々。

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