ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま 第29回 言葉と旋律の真の力〜登るべき丘〜

閲覧回数 1,547 回

激動の一年が幕を閉じた。パンデミックと政治的混乱により情報が錯綜する中、私達は、ただ嵐に吹かれる木の葉のように翻弄されるしか為す術がなかった。新年が訪れたからといってウイルスが消滅する訳ではないと頭では理解しながらも、私達は新しい年の幕開けに何か曖昧な期待を抱かずにはいられないでいたように思う。そんな一縷の望みも、1月6日に起きた国会議事堂の襲撃事件により一瞬でガラガラと崩れ去り、私達は再び不安定な現実に引き戻された。一寸先は闇と言ってもおかしくない状況の中、アメリカの大統領就任式は予定通り開催された。遅く起きた朝。就任式を見ておこうと思い、パソコンのスクリーンを立ち上げた。そこに映し出されたのは、鮮やかな黄色のジャケットと、髪に編み込んだ金色のビーズ、そして赤い帽子が印象的な若い女性がスピーチを行う様子だった。彼女が誰なのかも、どんな背景でスピーチを行っているのかも、私はまったく知らなかった。だけど、時折美しいジェスチャーを加えながらリズムに乗せて言葉を謳う様子を眺めながら、私はあっという間に、その世界に引き込まれていた。彼女が誇らしげな表情でステージに立っている間、アメリカ全土でどれだけの人々が安堵と感嘆の溜息をついたのだろうか。

若き詩人、アマンダ・ゴーマンの言葉とその優美な佇まいは、私達に深い印象を与えた。韻を踏みながらリズミカルに彼女が紡いだ言葉は、まるで朝露に濡れた緑の草原のような瑞々しさで私達の心を満たし、分断、批難、錯乱、暴力、無慈悲、絶望の渦の中から私達を引き上げてくれたのだ。以下は、私が自分なりに選んだ言葉で彼女の詩を訳したものだ。言葉そのものの視覚的美しさだけでなく、朗読の圧倒的な音楽性を解釈した楽曲も添えたので、是非一聴してみて欲しい。

 

登るべき丘 ~The Hill We Climb~

その時が来たら 私達は自らに問うだろう
終わりなき闇に 光差す時は来るのかと

失ったものを抱え
私達は海を渡らねばならない

獣の腹にも 果敢に立ち向かい
沈黙は平和と同義ではないこと
ただ そこにあるもの
その常識や概念が
必ずしも 正義ではないことを
私達は学んだ

それでも 夜明けは
音も立てずに 私達のもとを訪れる
手探りで 私達は進む
手探りで生き抜いた 私達が目撃したその国は
崩壊してなどいない
ただ 未完成なのだ

私達が引き継ぐ
この国の この時代には
華奢な黒人の少女が
シングルマザーに育てられた
奴隷の子孫でもある少女が
大統領になる事を 夢見ることができる
大統領のために 詩を朗読することができる

私達は承知だ
洗練からも 無垢からも
ほど遠い場所にいることは

しかし私達は 「完璧な統合」を
目指しているわけではない
私達が形成しようとしているのは
文化 人種 特徴 条件
あらゆる背景を持つ人間と
約束を交わすことのできる国
そんな国を築くための
「目的ある統合」だ

だからこそ 
互いを分断するものでなく
目前に立ちはだかるものに
私達は眼差しを向け
分断を堰き止めるのだ
なぜなら 
互いの相違に惑わされることなく
私達は未来に
目を向けねばならないから

両腕を下ろし
他者に手を差し伸べよ

誰をも傷つけず
誰もに調和がもたらされる
そんな時代を 私達は求めている
他でもない この地球が
その事実を証明してくれるだろう

哀しんでなお 成長した
傷ついてなお 望み続けた
疲弊してなお 努力を重ねた
私達は 永遠に一本の束となり
勝利を味わうだろう

敗北はもう決して訪れないと
確信するからではなく
再び分断の種を撒くことはないと
確信するからだ

それぞれの
葡萄の木の下
無花果の木の下に
すべての人々が腰を下ろし
何にも恐れを抱くことがない
そんな情景を思い描けと 
聖書は謳う

私達が生きる時代
この時代に見合う生き方をするならば
勝利を決めるのは 刃(やいば)ではなく
私達が建てた すべての橋なのだ

約束された森
登るべき丘
勇気さえあれば

アメリカ人であること
それが意味するのは
誇りを受け継ぐこと
それだけではない

それが意味するのは
過去に足を踏み入れ
過去を修繕するということ

国を分かち合うのでなく 粉々に分断し
民主主義を軽視し 国を破壊する
そんな道へ向かう勢力を
私達は目撃した

その企みは
あと少しで成功するところだった
しかし 民主主義は
時に軽視されることはあれど
決して 永久に淘汰されはしない
この真実 そして 私達の信念
その名のもとには

私達が未来を見据える時
歴史は私達を見守っている

正義を取り戻す時代が来た
その時代の始まりは恐ろしくもあった
あれほどまでに恐ろしい時代を
引き継ぐ心の準備はできていなかった
その時代の最中に
新たな章を 書き記す力を
私達は見出したのだ
希望と喜びを
自らに差し出すために

かつて抱いた疑問がある
私達はいかにして 破滅を凌げるのか?
今なら声高に言える
破滅がいかにして 私達を凌げるというのか?

過去に向かい 行進するのではなく
あるべき未来に 私達は向かうだけだ

痣はあれど 完全な国
情け深くも 堂々とした国
獰猛な情熱と 自由を手にした国

私達は 脅威を前に
踵を返すことも
目を眩まされることもない

私達の不実行と惰性の結末は
次世代が受け継ぐのだということ
私達の失策は
次世代が背負うのだということ
それを 
私達は十分に理解しているから

一つ確かなことがあるとすれば
それは

慈悲と力を そして 力と権利を
融合させた時

愛は 私達の遺産となり
子供達が生まれ持つ権利に
変革をもたらすことができるということ

私達が託された国から
一歩前へと進むのだ
私達は さらに前へ進むのだ

ブロンズ色の 誇り高き
私の胸が呼吸するたびに
傷を追った世界は
素晴らしい世界へと生まれ変わり
金色の肢を持つ 西の丘から
我々の祖先が 最初に革命を実現した
風吹き抜ける 北東から
湖に縁取られた中西部の都市から
太陽の焦げつく南部から

私達は 立ち上がり
再建と和解と回復を目指すのだ

私達の国家の隅々で
私達の国の名のもとにある
あらゆる場所で
ありとあらゆる 美しい人々が
打たれ抜かれた 美しい人々が
その姿を現すだろう

その時が来たら 暗闇から足を踏み出すのだ
炎のように 恐れを物ともせず
新たな夜明けは 解放とともに花開く
そこにはいつも 光があるのだから
私達が光を見ようとする限り
私達が光であろうとする限り

アバター

蓮見令麻

蓮見令麻(はすみれま) 福岡県久留米市出身、ニューヨーク在住のピアニスト、ボーカリスト、即興演奏家。http://www.remahasumi.com/japanese/

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。