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From the Editor’s Desk 稲岡邦彌No. 320

From the Editor’s desk #21 「ECM55周年」

Text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

ECMが55周年を迎えた。1969年11月、ミュンヘンでスタートしてから55年。スタート以来リリースされたアルバムが1,800作に及ぶ。ジャズからクラシック、コンテンポラリーに及ぶ。最大のヒット作はキース・ジャレットの『ケルン・コンサート』で累計450万枚に及ぶ。しかも二枚組である。クラシックで100万枚を超えたアルバムもある。ヒリヤード・アンサンブルとヤン・ガルバレクが共演した『オフチィウム』。どちらもプロデューサー、マンフレート・アイヒャーが創造した演奏形態である。1943年7月生まれの81歳。聴覚に異常をきたさない限り制作を続けると宣言している。彼のプロデュースを待つアーティストが列をなしている。今月もジャズ系で3作、コンテンポラリー/クラシック系で2作の新譜がリリースされた。
創設時、誰がこの結果を予測しただろうか。アイヒャー70歳を祝ってミュンヘン市をあげて大回顧展が催された。人生、70歳は大きな節目である。日本でも70歳は「古希」だが世界共通である。あれから11年。ミュンヘン市も「まさか」という思いだろう。
日本のディストリビュータ、ユニバーサル・ミュージックもいつになく積極的である。25年の節目には「アニバーサリー・コンサート」と銘打ち、東京、名古屋、神戸の三都市をめぐるちょっとしたシリーズ・コンサートが開催された。3ヶ月にまたがって2グループが来日、三都市を順延した。今年も55周年を機に、ノーマ・ウィンストンやヤコブ・ブロなど何組かが来演しているが25周年ほどではない。それでも過去の周年よりは多いのか。
映画の公開。『Sounds and Silence』。これはECMの一つの側面にしか過ぎない、という意見がある。キース・ジャレットやチック・コリア、パット・メセニーが出てこない。というより、アメリカのシーンがひとつもないではないか。いや、これがECMなのだ。マンフレート・アイヒャーの思想そのものなのだ。冒頭、教会のシーン、職員が大きなボードを床に落とす。教会中に鳴り響く反響音。世にいう「ECMのリヴァーブ」を象徴するシーンである。アルヴォ・ペルトの音楽が教会で鳴っている。この音がECMの音なのだ。ECMの音は教会の音、と何度も書いてきた。拙著『新版 ECMの真実』の刊行イベントでピーター・バラカンに同じ答えを返した。ピーターは「目から鱗(うろこ)』と反応した。さすがである。彼もイギリスで教会の響きを知悉しているのだ。キース・ジャレットは音楽でしか参加していないが、変わらずECMの象徴であり続ける。アルヴォ・ペルトは「New Series」の象徴である。映画を締めるのもペルトである。
日本での55周年が従来の周年と異なるのは12 月に予定されている「ECMエキシビション〜Ambience of ECM」の開催である。但し、これについては仕組みがよくわからないので関連サイトを参照されたい。

https://www.universal-music.co.jp/jazz/ecm55th/news/2024-11-08/
https://ambienceofecm.peatix.com/
https://dublab.jp/show/ambience-ecm-kudan-house24-12-13-21/

そして、少し先になるが来年の2月にはドキュメンタリー映画『Music for Black Pigeons』が公開予定だ。日本ではサントラのリリースが先になったが、マンフレート・アイヒャーとECMをプラットフォームとするミュージシャンのインタヴューと演奏で構成されるミュージシャン視線のドキュメンタリー。リー・コニッツやポール・モチアンなど故人となったミュージシャンの貴重なフッテージも含まれ、ファンには見逃せない映画だ。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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