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From the Editor’s Desk 稲岡邦彌No. 291

From the Editor’s Desk #7「Straight, No Chaser!」

text & photos by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

6月19日、新宿 PitInnに「シャボテン幻想」を聴きに出かけた。田村夏樹(tp)、藤井郷子(p)、モリイクエ (electronics) に 巻上公一 (theremin他)が加わったカルテット編成。こういう場合、どの順番に演奏者の名前を列記すべきか分からない。田村夏樹のトランペットはフロントなのでトップに持ってくるのが自然だろう、次いでパートナー同士でペアで活動することが多い藤井郷子が続き、トリオでも演奏する機会が多く、何より去年アルバム『Prickly Pair Cactus』(ウチワサボテンの一種ということだが覚えにくいこと甚だしい)をリリースしているので3番目にはモリイクエ(昔からイクエモリと呼んでいるので、イクエモリと表記したいところだが、日本ではモリイクエと表記しているようだ。それならいっそ漢字表記はいかがでしょう?)が来る。僕から見ると巻上公一はゲストで参加の立ち位置なので最後に来てします。いや、ゲストなら最初にリストすべきか? でも年功序列に厳しい業界のこと、それならイクエモリさん(いや、モリイクエさんだった!)からリストすべきか...。あとで聞いた話では、イクエさんと巻上さんは時々デュオで演奏することがあり、そのデュオにNatSat(夏樹+郷子)のペアが加わったらしい。しかも「シャボテン幻想」というタイトルは巻上さんのネーミングらしい。そうすると正しくはモリイクエ、巻上公一、田村夏樹、藤井郷子が正しい表記なのだろうか。表記はともかく僕のいちばんの興味はモリイクエにあった。イクエさん以外は何度もナマに接しているが、イクエさんは初めてだから。なんと言っても70年代 NYパンク/オルタナ・シーンの女王的存在だったし...。

PitInnはコロナ渦中は一度も顔を出していないから (PitInnと言わずどのクラブも。ホールには数回)3年ぶりくらいになるのか。受付で「ゲスト(招待)扱いになっていますよ」と告げられたが木戸銭を支払い、赤ワインをオーダーする。集客は数十人と言ったところか。
田村のトランペットと藤井のピアノがアコースティック、モリのMacと巻上のテルミンがエレクトロニクス(テルミンは電気楽器ではなく史上初の電子楽器だそうだ。認識を改めよう。)。モリのMacはシーケンサーのように予めプログラミングされた音形をリリースしているのか、巻上のテルミンは空中での手の動きの変化で電圧を変え音を変化させる。傍目にはゴールデン・ボンバーも真っ青のエア演奏の元祖に映るだろう。極論すれば、リニアなアコースティックとサウンドスペース的なエレクトロニクスで音楽を即興的に構成していくと言ったら良いだろうか。同じエレクトロニクス系でもイクエさんにはテルミンには成し得ない鋭いアタックや切り込み、極端なノイズなどいわゆるパンキッシュな演奏を予想、期待していたのだが。なんだか遠慮がちに聴こえた。田村と巻上がヴォイスを駆使するシーンがあったがヴォイス・パフォーマーでもある巻上に田村が果敢に挑戦する姿勢が頼もしかった。それにしてもテーブルを前にしたお行儀のいいイクエ姐さんではなく、ドスの効いた姐さんのドラムを聴きたかった!

ところで、音楽について論じるのが本稿の目的ではない。終バスに乗り遅れ、駅から20分くらい歩いて帰宅した。即興の場合、セットを長めにしてインターミッションなしで上げることはできないのか? ロックの場合、一度上がったテンションを下げないためにストレートで一本勝負が多い。ジャズの場合はどうか。インターミッションを入れるケースがほとんどだ。トイレの必要もあるだろう。バンドの場合、1stセットを振り返って、2ndセットで修正することあるだろう。クラブにとってはインターミッションでドリンクの売り上げを増やしたいというビジネス上の問題もあるだろう。しかし、ジャズの場合も盛り上がったテンションのまま一気に突っ走って駆け抜けたい、ということはないのだろうか。今夜の「シャボテン幻想」も徐々に4者のテンションが上がり音楽も白熱化、それにつれてオーディエンスの意気も上がっていた。そこでインターミッション。果たして2ndセットは、その再現もないまま終わってしまった。あのまま、1stセットを続けていればさらに音楽は内容の濃いものに発展、展開していったのではないか。そして、僕もなんとか終バスに間に合った...? そんなことを考えながら眠れぬままに藤井郷子のブログをのぞいてみた。6月10日。ダルムシュタットでの藤井郷子(piano)、齊藤易子 (marimba)、大島祐子(drums)、大和撫子3人 による「SAN」のコンサート。長めの1セットで行きたいというバンドの申し出に、主催者がオーディエンスの意見を問う。長めの1セットを希望するオーディエンスが過半を占め、インターミッションなしのワン・セットで臨み、成功を収めたという!
ストレート、ノー・チェイサー! 生一本でね、口直しはいらないよ!

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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