From the Editor’s Desk #12「生き残りをかけて〜配信」

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text & photo by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

(2022年)9月30日から8日間、1日のオフも無く東京と近郊8ヶ所を駆け抜けた来日グループがいた。リトアニア2人とノルウェー1人で結成されたMMBトリオ;リューダス・モツクーナス、アルナス・ミカルケナスとホーコン・ベレのトリオである。日本人ゲストを加えてパートを分けたギグもあった。本誌コントリビュータ齊藤聡の協力を得てブッキングに手を貸したこともあり、半分の4箇所に顔を出した。合羽橋なってるハウス(9/30)、荻窪 VelvetSun (10/03)、横浜エアジン (10/06)、新宿ピットイン (10/07)。コロナ禍の余波を受けてどこも集客は楽ではなかったけれど、その中で副次的なビジネスを必死にトライしているクラブが2軒あった。横浜エアジンと新宿ピットインである。

ジャズ・クラブが手がける「配信」については、賛否両論あるようだ。ミュージシャン・サイドとオーディエンス・サイドから。しかし、この2店に関しては事前に出演者の了解を得ており、僕の知る限り状況を把握した出演者も協力的である。エリック・ドルフィーの言葉 “When you hear music, after it’s over, it’s gone in the air. You can never capture it again.” (一度演奏された音楽は空中に消えていき、二度と捉えることはできない)を金科玉条とし、ジャズクラブで演奏された音楽を固定されることを良しとしない演奏者がいることも知っているが、しかし彼らとて消えていく演奏に生命を賭していることに代わりはないはずだ。

表現者である以上、国境を超えてひとりでも多くのリスナーの耳に届いて欲しいはずである。そこから新たな展開や可能性が芽生えることも充分考えられる。オーディエンスの中にはそれなりの代償を払って「生」を聴きにきた演奏が自宅で簡単に耳にすることができる配信に対して消極的な態度を取る例もあると耳にするが、この意見も狭量に過ぎはしまいか?それなりの代償を払って聴いた「生」の演奏は、聴覚のみならず、視覚、嗅覚など五感を総動員して体感したものであり、現場で演奏者や限られたリスナーと共有したかけがえのないものであるはずである。それは「代償」に応えて余りあるものではないだろうか。例えば、コルトレーンの『Live in Japan』は誰でもいつでもどこでも耳にすることができるが、多くのリスナーが口にするのは「この演奏を“生”で聴きたかった!」という言葉だ。仮にその場に”生”で聴いたファンがいたなら「俺、“生”で聴いたんだ!」と告げ、ひとり優越感に浸っているはずである。

さて、エアジンの配信の現場である。スタッフは3人。スタッフといっても音響を担当するのはオーナーの梅本實さん、8台のカメラのスイッチャーは梅本さんの奥方。システムのテックは(おそらくは)ヴォランティアの男性である。この男性の無形の報酬は配信のたびに体感する素晴らしい演奏だろう。このテック氏、MMB3のリューダスが自前の録音用にピアノ線の上にマイクやデジタル・レコーダーを追加セットすると「困るんだよなあ。画面に色々映り込んで...。エアジンがこんなダサいシステムで配信してると思われると...」、と僕に向かってクレームらしきぼやきを。確かにテック氏が配信用にセットしているのは小指の先ほどのチップのようなカスタム・メイドで、画面では目視できないほどのマイクロ・マイク。梅本さんはカウンターの中でヘッドフォンを装着し、バーテンと一人二役だ。映像のモニターは客席最後部の一角。演奏が始まると奥方が8面のモニターを睨みながらスイッチングする。まさに長年連れ添った夫婦による絶妙のコンビネーションだ。配信ツールはツイキャス。

一方のピットイン。こちらはフロア背面の中2階に特設されたブース。禁断のスペースに特別に招じ入れてもらった。狭いスペースに配信用システムが効率よく収納されている。専任のオペレーターは渡辺貴彦さん一人だが、フロアにオペレーターの指示を受けてカメラのアングルなどを調整するスタッフが二人いる。それでもオペレーターは両手だけでは手が足らず足元のフットスイッチでスイッチングする必要があるという。中2階なのでフロアやステージを180度見渡せて客観的な視野を得ることができる。配信は基本的に2ndセットだけなので、1stセットの演奏をチェックして本番に備える万全の態勢だ。この日の2ndセットは、MMBのトリオに仲野麻紀のサックスと大友良英のギターがゲスト参加したので配信はぶっつけ本番となった。後日、アーカイヴを観る機会があったが、さすが当日の緊張感に富んだ演奏をリアルに伝える映像と音質だった。

最後に、配信の楽しみ方について。エアジンの場合は、ネットのYOKOHAMAエアジン商店でチケットを購入してパスワードを教えてもらう。プログラムによって価格は異なるが、バクシーシという心付けタイプもある。ライヴ配信を楽しみたい場合は余裕を持ってチケットを予約しないと直前はオーナーが多忙なため対応が遅れる場合があるようだ。
https://umemotomusica.stores.jp/
ピットインは独自の配信システムを構築しており、基本的にはサブスク(サブスクリプション)で定額見放題だが、コンテンツ配信(都度課金)もある。詳細は、ピットインネットジャズから。
https://streaming.pit-inn.com/
もちろん、他にも有料ストリーミングはいろいろあるが、ここでは自分が目と耳で確認できた上記2店に絞って取り上げてみた。配信(ストリーミング)は、大都市に偏り勝ちなライヴ(特に来日演奏者による)を地方でも楽しめる、あるいは都市居住者にとっても時間や場所に依存することなく自由に楽しめる手段として今後ますます普及していくものと思われる。もちろん、ジャズ・クラブの理想はライヴ自体で店を維持することだろうが、コロナ禍の余波が続く以上、有効活用することにより配信というメディアが生き残りの手段のひとつとなり得るのではないかと思われるのだ。

追)エアジンの配信では各プログラムの5分ほどの無料視聴サービスが設けられている。ちなみに、上記のMMB3のサンプル動画は;
https://twitcasting.tv/f:3699368336770832/movie/747462665

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『増補改訂版 ECMの真実』(河出書房新社)編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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