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From the Editor’s Desk 稲岡邦彌No. 302

From the Editor’s Desk #13「ECM、ふたたび」

巻頭文を担当するのは隔月なので今回は話題が少々時期遅れになるのをお許し願いたい。テーマは再びECMである。
JazzTokyoが300回を迎えるに当たって、4月号で記念特集「ECM:私の1枚」を組んだ。結果は編集部の予想をはるかに超えて136人から投稿をいただいた。企画を提案してくれたコントリビュータの努力も大きかったが、ECMに何らかの興味があればこその結果だろう。そのうちミュージシャンは6割を超えていた。年齢層はECMと同時代を生きてきたベテランから20代の若手まで広範囲。対象ミュージシャンではキース・ジャレットが2割を超え、長いキャリアと広いジャンルでやはりECMを象徴するミュージシャンであることを再確認する。次いでパット・メセニーが多く、ギタリストが多いこともあるだろうが、パットが開いた新しいギター・ミュージックもまたECMならではの感が強い。その他、どの投稿もミュージシャンであれ音楽人であれECMの1枚にどれほどの影響を受けたか、1点1点読み進めるうちに胸を熱くしたものだ。すべての投稿に通底するのは、ECM=マンフレート・アイヒャーが創立時から持ち続けたヨーロッパの視点から捉え直したジャズ(即興音楽)、クラシシック(ニューシリーズ)に対する驚き、開眼、感動といったところだろうか。この特集はアーカイヴとしていつでもアクセス可能なので折りに触れて慈しむように読ませていただいている次第である。
続いて拙著『新版 ECMの真実』刊行に際してのトーク・イベント(神楽坂・赤城神社)があった。これまた想定外の反応で、2日合わせて200人近い参加があった。但し、想定外と受け取ったのは筆者のみで、主催・制作の openmusic は計画通りと得心、たしかに協力をお願いしたユニバーサル・ミュージック宛の企画書には「見込集客数」として2日間で200人と記されてあった。ゲストによる反応の差も想定していたのだが、両日共参加された方も多く、ECMに対する関心の高さが要因として考えられた。まさに、50有余年の歴史、1800作を超える実績の底力だろう。それから数週間後に企画されたミュージシャンとの対談(三鷹・Scool)でも20人近いコアなファンの関心を呼び、今さらではあるがE CMに対する深く、静かな愛情に感動に近い感懐を覚えたものだ。
『新版 ECMの真実』を刊行した理由として、今年が旧トリオレコードによるECMレーベルの国産プレス50周年があった。これは一般のリスナーには馴染みが薄いかもしれないが、チック・コリアの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』までは、各社がそれぞれ単発で契約し、発売会社のレーベルでリリースされていた。トリオレコードが1973年にECMと独占契約し、ポール・ブレイの『オープン・トゥ・ラヴ』以降、初めてECMのレーベルを使って国産プレスが開始されたのだ。それから今年で50年。当事者にとってはやはりアニヴァーサリー・イヤーなのだ。さらには、今年7月にオーナー・プロデューサーであるマンフレート・アイヒャーが80歳の誕生日を迎える。アイヒャーの生誕記念は70歳の時にミュンヘン市が肝いりでECM展を開催しているので、80歳の生誕祝いはどうなるのだろうか。
ところで、今年の上半期はコロナ禍の沈静化を待っていたかのようにECMのリリースが多い。1月20日のアンデルス・ヨルミン、レナ・ヴィレマークの『Pasado en claro​​』(ECM2761)に始まり、6月30日リリース予定のキース・ジャレット『C.P.E.バッハ』(ECM2790/91)まで、何と21作である。異常な新作数と言って良いだろう。その間、ヴァイナルの「Luminessence 」シリーズがスタートし、額装入りのカヴァー・アートワークをシリーズ化した「Fine Art Prints」も始まった。もちろん、すべてアイヒャーのアイディアかアイヒャーの同意を得てのマーケティングである。
じつは筆者が関わっているプロジェクトもある。来年11月には55周年を迎えるECM。どこまで進み続けるのだろう。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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