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Monthly EditorialFrom the Editor’s Desk 稲岡邦彌No. 339

From the Edior’s Desk #28『打てば響く〜音の力、鍼の力』

text:Kenny Inaoka 稲岡邦彌

手元に『打てば響く〜音の力、鍼の力』という本がある。2015年、NHK出版。著者は竹村文近と大友良英。いつ、どこで、どのように入手したのか覚えがない。2年前 (2024年) の12月27日、新宿ピットインで大友良英と山下洋輔、山崎比呂志のトリオのライヴ録音(『Old and New Dreams~Chapter 2 破』DiskUnion) に立ち会った。その時、楽屋で山下さんと大友の間で鍼灸師竹村先生の話題で盛り上がった。竹村先生は二人の共通のかかりつけの鍼灸師で二人のキャリアにとってかけがえのない施術師ということだった。そのとき興味を覚えて買い求めたのかもしれない。
実は筆者も東洋医学の信奉者である。新卒まもなく社用で乗っていたタクシーが日比谷でタクシーと正面衝突、ひどい頚椎捻挫(むち打ち症)を受け、救急病院で1ヶ月半ブロック注射や懸垂などの治療を受けたものの一向に回復せず自主退院、自己判断で東洋医学に切り替えた。自宅近くの老鍼灸師に身を預け、鍼灸と漢方薬を続けること半年、寛解を得たのち完治に至った。最近、おそらくは金属疲労で膝や腰に疼痛を自覚、鍼やマッサージの治療を受けている。盲目の鍼灸師は筆者の質問に対し「鍼を打つことで筋肉の緊張を解いている」と答えた。

 

さて、著書のタイトル『打てば響く』だが、「反応が早い、理解力が良い」という原意と「鍼や楽器を打手羽効果がある」のダブル・ミーニングであることは容易に察しが付く。大友は永らく重い偏頭痛に悩み、薬も効力を失い演奏にも支障が出るほど。思いあまって山下さんの紹介を受け竹村先生の鍼の治療を受けたところ1回の施術で偏頭痛が嘘のように消えたという。以来定期的な施術を欠かさず度重なる海外ツアーにも耐えているという。著書は、両者のエッセイを随所に含みながら両者の問答を中心に編まれている。
施術の際、竹村先生はいわゆる経絡にこだわるよりも自らの手が動くままに自由に針を打っていくという。経絡の流れは個体差があり、今では患者の身体が鍼を打つべきところを導いてくれる。1回の施術で打つ鍼は平均100本くらい。山下さんコンサートには時々出かけ耳を傾けるが<ボレロ>がお気に入り。山下さんに鍼を打つときは<ボレロ>のリズムに乗って打つという。ジャズは好きだが大友のライヴにはほとんど行ったことがなく、大友も竹村先生の好みを知っているからあえて声をかけない。施術のBGMはほとんどクラシックだという。ノイズミュージックは施術には合わないことは分かっている。
竹村先生の趣味は高地トレッキング。4、5千メートル級のヒマラヤやアンデスに出かけ、現地で請われるままに鍼を打つ。休暇に出かけても患者を見たら放っては置けない。
山下さんや大友がハード・スケジュールをこなしていけるのも竹村先生の施術の助けがあったようだ。もちろんお二人以外にも有名無名の患者が溢れ、新規の場合には独立した弟子が担当しているそうだ。
なお、著書の中では教えを請うた高柳昌行との確執、独立、劇伴、とくに「あまちゃん」(2013 NHK) の劇伴制作についてなど大友のキャリアの詳細が語られている。ミュージシャンとしての大友良英の生き方、音楽観などを知りたいファンにはぜひ一読をお勧めしたい。初版は10年以上前だが、冒頭に記したように山下さんと大友の竹村先生との関係は2年前に知ったことなので現在でも状況は変わっていないものと思われる。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。最新刊に訳書『キース・ジャレットの真実』(DU BOOKS)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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