#11 サブスクリプション方式の音楽ストリーミング、音盤の行方は…

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text by Kazue Yokoi  横井一江

 

前号(No. 251)に悠雅彦主幹による宮嶋みぎわインタビューが掲載されていた(→リンク)。彼女の活動には今後着目していきたいところだが、それはさておき、インタビューの最後の部分で私は目が止まったのだ。悠氏が彼女のオーケストラの次のプロジェクトについて問うたところ、「2020年から準備を始めて2021年にリリースできるかどうか」という答え。さらに「具体的なプランはありますか?」という問いに「私の想像では、その頃にはもうCDはこの世から無くなっているだろうと思います」との言葉が返ってくる。それに対する悠氏の「えー」という反応には驚きを隠せないという気持ちが現れていた。

この二人の会話から、アメリカに住み、そこで音楽活動をしている宮嶋みぎわさんと日本に住む悠主幹とでは、音楽レコード業界の現状に対する受け止め方が違うことがよくわかり、それがそのまま日米の差を表しているように思った。私自身もあと2、3年でCDが無くなるという発想があること自体驚きだったことも確かである。

では、実際はどうなのだろうか。奇しくも「米音楽業界、3年連続の2桁成長 ストリーミングがけん引」というニュースがAFPBBニュースで3月1日に流れていた(→リンク)。全米レコード協会(RIAA)が2月28日に発表した報告書によると(→リンク)、総売上高を押し上げたのは有料ストリーミング・サービスの契約増で、その対前年比は32%増だった。反面ダウンロードやCD販売枚数の低下は続いている。また、その報告書によると音楽産業の売上の75%はストリーミングによるものだった。宮嶋さんがCDがこの世から無くなってしまうと思うのもさもありなんである。興味深いのはアナログ盤の売上高が対前年比8%増で1988年以降で最高を記録したということだ。昨今のヴァイナル盤ブームを反映しているのだろう。

他方、日本の現状はどうなのか。日本レコード協会が発表している統計(→リンク)からもオーディオレコード(CD+ヴァイナル+カセットテープ)の生産は下がり続け、音楽配信は伸びている現状がわかる。さらに音楽配信の内訳を見るとストリーミングは年々伸びているもののダウンロードは漸減している。しかし、2018年度の売上の52%はオーディオレコードであり、ストリーミングは11%程度だ。ドイツでも2018年度上半期にストリーミングの売上がCDを抜いている(→リンク)。データの取り方がバラバラなので単純に比べられないが、少なくとも日本ではいかにCDが根強いかということがわかる。

とはいえ、サブスクリプション方式による音楽ストリーミングに新たなビジネスモデルを見出す流れは、日本でも今後加速していくに違いない。最初にSpotifyやApple Musicなどに加入したのは音楽好きで新しもの好きなファンだったが、CDプレーヤーを必要とせず、スマホで常時聴ける利便性もあり、音楽ストリーミングは今後より広まっていくだろう。実際に私の友人・知人でもiPhoneで始終音楽を聴いているが、CDは暫く買っていないという人がいる。コアな音楽ファンはともかく、一般的に一年に購入するCDは数枚〜10枚程度ではないだろうか。これについては適当なデータが見つからなかったのであくまでも推測であるが…。そのような一般の人達が定額制のストリーミング・サービスに加入することで売上が上がることは容易に想像つくし、それゆえに業界の期待も大きいことは想像に難くない。また、そこにはモノを購入するのではなく、サービスの提供を受けることに対価を払うという生活スタイルの変化が窺える。よく知られたところではAdobeやMicrosoft Office、映像配信のNetflixなどがある。それ以外にも「定額利用」というビジネスモデルによる様々なサービスが登場してきている。この動きが今後どこまで広がるのかどうか、その成否は不明だが、これもひとつの流れである。

ところで、メジャーな音楽業者はさておき、独立系のレーベルにとってこの動きはどうなのだろうか。ジャズや即興音楽、ノイズなどのCDを多くリリースし、音楽シーンを下支えしてきたのはメジャーに組み込まれていない独立系のレーベルである。それらのレーベルも、2017年11月にECMもストリーミングを開始したように、時流の流れに逆らえないのか、音楽ストリーミングを行なっているところは少なくない。とはいえ、ミュージシャン・レーベルによるCDなどと同様にライヴ会場での販売がやはりメインで、小さなレーベルではBandcampでダウンロード配信をすることはしていてもストリーミングはやっていないケースもまだまだある。それらのレーベルにとって、ストリーミングは魅力あるビジネスモデルなのだろうか。なかなかそうは思えないものの、著作権に反する形でタダでストリーミングされるよりはマシである。そしてまた、フィジカルのみだと特定のファン層以外にはなかなか広がっていかない。メジャーレーベルと違って、現実に「録音」を売ることで収益を上げることはどんどん難しくなっているのではないだろうか。また、現行の著作権のままで対応しきれているのかどうかという過渡期ならではの疑問もある。

とはいえ、個人的にはApple MusicやSpotifyは重宝しており、よく利用している。最初からCDとして購入したいと思っていた作品は別だが、取り敢えず聴いてみようという時にとても便利なのだ。資料として1曲聴いておきたいという時にCDまるごと購入しなくてよくなったのは助かる。多くのコアなファンやマニアは、上手く使い分けしているのではないかと想像する。これはあちこちで言われていることだが、やはり総合的な作品性、コレクターズ・アイテム性を強く打ち出したもの、あるいは高音質のフィジカルとそうでないもの、ミュージシャンの活動を伝える音源の配信とに峻別されていくことは容易に想像がつく。昨年発売されたビートルズの『ホワイトアルバム』50周年記念の再発盤が全米トップ10に入ったが(→リンク)、これはフィジカルの売上によるものである。ジャズはここまでメジャーではないが、まだまだフィジカルで販売する余地があると私は考える。だから、宮嶋さんが言うように、CDがなくなることはまだない。少なくても日本では、と思う。

アルバム(CD、LP)では音楽がメインではあるが、アートワークあるいは添付されるブックレットなどを含めた総合的な作品だと私は考えている。ところが、ストリーミングで得られるのは「音楽を聴くこと」だけである。しかも、プレイリストがあちこちで作られるようになることから、「アルバム」としての作品性は失われた形で消費されることもある。そのようなことについて音楽家はどのように考えているのか、そしてどう制作に反映させていくのだろうか。音楽家もアルバム制作者もより多くの人に聴いてもらいたいと考えていることは間違いない。Apple Music、Spotify、Amazon Music UnlimitedやYouTube Musicなどでは世界各国のあらゆる音楽を配信している。誰でもどのような音楽にもアクセス可能なのであるが、その膨大な量ゆえに、なんらかの道しるべが求められるのではないか。情報もまたネット上に玉石混淆状態で溢れているが、それゆえに道しるべがますます必要になってきているのではないか、音楽ジャーナリズムもそれに対応していかなければならないと考えるのである。

 

photo by Alberto Bigoni on Unsplash

横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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