#18 続コロナ禍の中で 〜 プランBとしてのストリーミング

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とある雑居ビルに入ろうとしたら、入り口に疫病退散のお札が貼ってあった。上野にある寛永寺のお札だ。新型コロナウイルスが蔓延し始めると、疫病退散にご利益があるという妖怪アマビエの画像がTwitterから広がり、今では様々なグッズが販売されている。寛永寺のお札に描かれている角を持つ夜叉は、平安時代の天台座主の角大師(つのだいし)と呼ばれた良源大僧正が祈祷する姿で、魔除けの護符として民家などで貼られるようになったのだという。安心を求める人の心理は、テクノロジーが発達した現在も千年以上前と変わらぬということか。

*コロナ禍の中で生き延びるには

誰しもこの数ヶ月で生活が変わってしまった。そして、それぞれに不安や悩みを抱えている。とりわけ深刻なのは収入が途絶えた人や営業自粛によって資金繰りがままなくなりつつある中小零細の経営者たちだ。先々の仕事が飛んでしまったミュージシャン、休業せざる得ないライヴハウスやヴェニュー、営業時間を短縮しているジャズ喫茶などは、その最たるものだろう。やっと生活福祉資金貸付制度における 緊急小口資金等の特例貸付も始まり、昨日からは持続化給付金の受付がスタート、1人10万円の特定定額給付金の受付も間もなく開始されるだろう(前倒しした自治体もある)。手続きが煩雑ということもあり、ハローワークの相談窓口が溢れ、不興を買っている雇用調整助成金もある。ちなみにこのお金の出どころは雇用保険だ。事業者は保険料を支払っているのだから、本来ならばすぐに支給されなければいけないものである。しかし、このように既にあった制度の要件を広げたものは使い勝手がすごく悪い。住宅確保福祉金もそうで、その対象にフリーランスも加えたが条件が実態にそぐわないものだった。これについては、内橋和久氏がその問題をFacebook上に書き込んだことからTwitter等でも広まったため、共産党議員の目に留まり、その尽力もあって運用が改善された(→リンク)。また、東京都の要請に応じて営業自粛した期間にライヴハウスが無観客配信をした場合、当初は営業とみなされて感染拡大防止協力金の対象から外されるということだったが、 SaveOurSpace が署名活動を行うなど反対の声が上がったので回避された。また、話は変わるが、医師が新型コロナウイルスの感染者を確認した際に提出する用紙もファクスからオンラインよる届け出も5月から可能になる。これもTwitter等での声が多少なりとも反映されたのだろう。小さくとも声をあげることは決して無駄ではない。国の制度とは別に自治体で独自に支援策を出している場合もある。東京都は「アートにエールを!東京プロジェクト」と題した芸術文化活動支援事業を立ち上げ、募集した動画作品を専用サイトで配信し、出演料相当として一人当たり10万円を支払うという(→リンク)。使える制度はどんどん利用すべきだ。よく世界に発信などというが、根っこの部分で支えているミュージシャンや関係者がいてこそなのである。そこを潰しては決してならない。
註:まとめサイト 
コロナウイルスにともなう あなたが使える緊急支援
https://www.jimin.jp/covid19/
生活を支えるための支援のご案内(厚労省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000622924.pdf

各国の政権がどのような対策を出しているかを見ると、国民の生活をどう考えているのか、何を守ろうとしているのかがわかる。たまたまドイツの動向が目に入りやすいだけかもしれないが、財政規律をいったん放棄し、医療体制を整え、いちはやく給付金を支給するところなど、その地に住んでいる人が羨ましくなる。もっとも、不正受給が問題になっているし、住民は住民で言いたいことは山ほどあることは想像に難くない。しかし、不正受給をなくすために手続きを煩雑にすることでハードルが上がってしまい、申請したくても出来ない人が出たり、公務員の事務処理量もまた増えることから、結果的に支給がどんどん遅くなるのと、多少の不正受給は止むなし(後で摘発する)ということで迅速な支給を行うのとどちらがいいのかというと絶対的に後者である。収入が途絶えた人や、資金繰りに困っている中小零細企業/個人事業主にとっては時間がないのだ。1ヶ月、2ヶ月待たされているうちに所持金がつきたり、倒産しかねない。もし緊急事態宣言が長引き、経済活動が縮小された状態が続けば、どんどん苦境に追い込まれる人も増える。にもかかわらず、相変わらずグダグダな国会での討論を見ていると腹が立つよりも先に呆れてしまう。そして何よりも、皆の関心が新型コロナウイルスに向かっている時だけに、しれっとショック・ドクトリン(参事便乗型資本主義)が行われることを恐れている。と同時に、結局自分の身は自分で守るしかないと痛感するのだ。

ついでに言えば、ドイツでは著作権協会 GEMA が緊急援助プログラムを用意している(→リンク)。日本の JASRAC は徴収にはご執心でも、このような発想のカケラもなさそうだ。文化的に貧しい国なのだなと感じるのはこういう時である。ちなみに、ドイツジャズユニオンは様々なメッセージを出している(→リンク)。こういう時にユニオンがあるのは心強いと思う。

*プランBとしてのライヴ・ストリーミング

世界各国でフェスティヴァルやイベントが軒並みキャンセルされている。JAZZ ART せんがわの交流先であるケベック州ヴィクトリアヴィルの Festival International de Musique Actuelle Victoriaville (FIMAV) も中止となった。そのような中で、6月上旬開催であるのに、なかなか発表がなかったフェスティヴァルがあった。メールス ・フェスティヴァルである。もしかして、という予測も頭の片隅にはあったのだが、4月22日のプレス・カンファレンスでプランBを選択するという発表がなされた。つまり、4日間全日ライヴ・ストリーミングで配信するということである。これは思い切った選択だ。かなり前から Arte によってメイン会場でのコンサートをライヴ・ストリーミングで配信していたからこそ可能だったともいえる。もっとも、ジャズの大規模国際イベントでは毎年4月30日に行われるガラコンサートを毎回全世界に同時配信してきたインターナショナル・ジャズ・デイが今年はオンライン・バーチャル・コンサートを配信している。だが、それは世界ジャズ・デイいうコンセプトがあってのものだ。あくまでもフェスティヴァルは観客が居てこそ成立する空間なのである。そこをどう埋めるのか。昨年のメールス ・フェスティヴァルでは、会場のセッティングにもさまざまな工夫がなされていた(→リンク)。主催者側もタダでは起きないだろう。今年はどのようなフェスティヴァルになるのか興味津々である。それが可能なのも予算が確保されているからだ。これは是非とも観なければなるまい。
註:メールス ・フェスティヴァルのサイト
https://moers-festival.de/en/

コンサートやイベントは中止され、ジャズクラブやライヴハウス等も休業になったことで、動画配信が盛んになっている。ミュージシャンの YouTuber も増えた。 Facebook は簡単に動画を配信できることから、自宅から演奏を配信したり、トークを交えたりと種々な映像がアップされている。私はたまにしか Facebook にアクセスしないので、見る度に随分皆いろいろやっているなあと感心するばかりだ。また、荻窪ベルベットサンのようにライヴ・ストリーミングを行なっているお店もある。ライヴ・ストリーミングには国境はないので、各国のそれの多くを無料で見ることができるのは、外出自粛で自宅にいる時間が増え、余裕のあるファンには嬉しいことに違いない。だが、その品質は様々である。ライヴが出来ないからライヴ・ストリーミングという発想はよくわかる。短期的にはそれもOKだ。だが、果たしてライヴ・ストリーミングはライヴの代わりになり得るのか。ある程度感染が収まり、非常事態宣言が終わったとしても、暫くはかつてのように行動は出来ない可能性もある。そうなると、ライヴハウスのあり方も変わるかもしれない。ミュージシャンがそこで演奏することで収入を得ていたように、ライヴ・ストリーミングでいくばくかの収益を上げるとなると、課金に値する音質、映像で配信しなければならない。そうなると諸経費もかかるだろうし、業者による課金システムも取り入れないといけない。また、DVDやサブスプリプションで販売されている映像ビデオとの差異化はどうするのか。解決すべきことは多々あるが、メディアとしての可能性もまたあるに違いない。そしてまた、リアルとバーチャルそれぞれのライヴ・シーンも変容していくのだろう。

*ダウンロードという選択肢

ライヴに行くと決まって出演ミュージシャンのCDが並べて売られていた。ジャズや即興音楽の音盤の中にはライヴ会場の手売りでしか買えない盤もあるし、レコード店やネット通販よりも売れていたように思う。だが、それが出来なくなったことから、ミュージシャン自ら自分が制作したCDをネット通販で売り始めるようになった。確かにこれはよいアイデアである。そのようなサイトから購入する方がミュージシャンの助けになるので勧めたい。だが、それはあくまで日本国内での話だ。コロナ禍で国際線が止まったり、大幅に減便したことは物流にも影響している。飛行機は人を運ぶだけではない。その多くは貨客混載便なのである。今までは何の問題もなく入手できた海外のCDも飛行機が止まったことで入手しずらくなっているのだ。そうなると選択肢はダウンロードとサブスクリプションになる。マイナーレーベルからリリースされている音源は Apple Music や Spotify で入手可能とは限らない。売上が低下していたダウンロードの需要が出てきそうだ。音楽ダウンロード販売サイト Bandcamp は、コロナ禍で苦境にあるミュージシャンをサポートする目的で、昨日(5月1日)一日(24時間)の売上は手数料を取らず、全てをミュージシャンに渡すというキャンペーンを行なっていた。これは6月と7月の第1金曜日にもまた行われる予定である(→リンク)。思わぬところに音楽ダウンロード販売の生き残る道があるのかもしれない。

 

渡辺白泉のよく知られた句に「戦争が廊下の奥に立ってゐた」というのがある。それを今に例えるならば廊下の奥に立っていたのはコロナだが、その向こうのポストコロナはまだ見えない。その全ては現在の試行錯誤なくしてあり得ないだろう。それも生き延びてこそ、なのである。(2020年5月2日記)

横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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