#20 不確実性の中で
〜”SAVE THE CLASSICS FOR THE NEW ERA”を見ながら

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text by Kazue Yokoi  横井一江

 

今日もまた東京での新型コロナウイルスの感染者数が過去最多であったと報じられていた。コロナ禍はまだ暫く続きそうで、長期戦となりそうである。まさに不確実性の時代に入ってしまい、政府の施策も期待出来ない状態で生き延びる術を見出さないといけない時代に入ってしまった。

そのような中で今夜もライブハウスなどでは演奏が行われているが、あくまでガイドラインを遵守し、入場者数を制限するなどの方策を行った上での営業である。そのような状態ではさぞかし経営面で大変だろう、果たして損益分岐点をクリアできるのだろうかと余計な心配をついしてしまう。営業を再開後もライヴと同時に有料配信に取り組む店が次々と出てきたのは納得がいく。新たなサービスも出てきているが、その方法も試行錯誤の段階といえる。決定的な打開策にはならないが、暫くは平行させていくのが賢明な選択肢であることは確かだ。新宿ピットインでは8月に定額のネット動画配信をスタートさせる(→リンク)。まだまだ、各ヴェニューにとって生き延びていくための模索が続くだろうし、それは音楽家の創造活動にも関わってくるに違いない。

7月26日に渋谷にあるヴェニュー、公園通りクラシックスを支援する目的の “SAVE THE CLASSICS FOR THE NEW ERA vol. 1” と題した無観客イベントが配信された。主催者はピアニスト、作編曲家の林正樹で、彼の参加するグループ、そして林と交流のあるミュージシャンによるプログラムが組まれていた。新型コロナウイルス感染が広がった影響でライヴ活動を自粛せざる得なくなったことから、ミュージシャンによるライヴ・ストリーミングが激増したし、国内外で寄付やクラウドファンディングを呼びかけているヴェニューはあるが、ミュージシャン個人がヴェニューを支援する趣旨でフェスティヴァルを行うということは知る限り初めてである。ましてや公園通りクラシックスは、私も高瀬アキ・佐藤允彦デュオ他でブッキングやライヴを撮影させていただいたりとお世話になっているハコである。これは応援するためにも閲覧することにした。

林はこのイベントの開催にあたり、配信元のイマチケのページにこう書いている。(→リンク

誰もまだ聴いたことのない未知の音楽が「公園通りクラシックス」からたくさん生まれてきました。
既存の音楽ジャンルに属さず、独自の道を開拓している音楽家にとっては特に、この空間が持つ果てしなくニュートラルな状態が、演奏者の精神を解き放ってくれるからです。

お客さんが安心して足を運べる状態にならない限り、全てのライブハウスにとって苦境が続いていくと予想されます。
クラウドファンディングも行わず、個人で経営されている公園通りクラシックスはもちろんその例外であるはずがなく、存続の危機に直面しています。

そこで今回、公園通りクラシックスがいかに素晴らしい場所で多くの音楽家、お客さんに愛されている場所なのかをより多くの皆様に感じていただきたく、大規模な配信フェスティバルを企画させてもらいました。

出演者は下記のとおり。

伊藤志宏 (piano)
salle gaveau:鬼怒無月(guitar) 佐藤芳明(accordion) 鳥越啓介(contrabass) 林正樹(piano)
琴鼓’n管:小林武文(drum) チェ・ジェチョル(chango, vo) 鈴木広志(sax) 木村仁哉(tuba) 相川瞳(vibraphone) 上原なな江(marimba)
クアトロシエントス:会田桃子(violin) 北村聡(bandoneon) 林正樹(piano) 西嶋徹(contrabass)
徳澤青弦 (cello)
藤本一馬カルテット:藤本一馬(guitar) 福盛進也(drums) 林正樹(piano) 西嶋徹(contrabass)
喜多直毅クアルテット:喜多直毅(violin) 北村聡(bandoneon) 三枝伸太郎(piano) 田辺和弘(contrabass)
のぶまさき with 佐藤允彦:佐藤允彦(piano) 田中信正(piano) 林正樹(piano)
吉田篤貴EMO Strings:吉田篤貴(violin) 青山英里香(violin) 梶谷裕子(viola) 島津由美(cello) 西嶋徹(contrabass)
間を奏でる:林正樹(piano) 堀米綾(irish harp) 磯部舞子(violin) 織原良次(fretless bass) 小林武文(percussion)

全部で10ステージだが、セットチェンジの時間もトークやマレー飛鳥(金子飛鳥)からのビデオメッセージを入れ、途切れなく10時間に亘って中継された。さすがにMacの前にずっと座り続けるのはキツイので、ラジオをのように聴きながら、時々映像を観ることにした。こういうことが可能だったのも音質が優れていたからだろう。また、中座しても後からストリーミングで観ることが出来るのは便利だった。

前身である代官山クラシックスの移転によって公園通りクラシックスがオープンしたのは2004年、クラシックスという名前の通り、ホール以外の場所でクラシック/現代音楽のライヴが行われるヴェニューの先駆けだったと記憶している。いつの間にか即興演奏家のライヴも多く行われるようになり、ここで演奏した外国人ミュージシャンも多い。ジャンルに拘泥されない間口の広さはオリジナルな音楽を演奏を追求するミュージシャンにとっては貴重な演奏の場となったのだ。公園通りクラシックスではどちらかというと即興音楽のライヴを多く観てきた私にとっては、この企画で随分と久しぶりに観たグループやまだ聴いたことがなかったバンドの演奏に触れることが出来たのが嬉しかった。そして、音楽シーンの層の厚さを改めて認識したのである。これこそフェスティヴァルのメディアとしての機能と言っていい。今回のイベントの価格設定を1000円と低く抑えたのは、出来るだけ多くの人に観てもらって、公園通りクラシックスという場所を知ってほしいという気持ちがあったからだというが、その効果があったことを期待したい。

小規模なヴェニューではあるが、公園通りクラシックスにはピアノが2台ある。これは本当に貴重で、他のヴェニューでは出来なかった高瀬アキ・佐藤允彦による2台ピアノによるデュオを実現できたのも公園通りクラシックスがあったからなのだ。 “SAVE THE CLASSICS”でも伊藤志宏のセットで林正樹との2台ピアノによるデュオが披露されたり、師弟ピアニスト3人による共演、のぶまさき with 佐藤允彦はまさにその2台のピアノで、片方に師匠、もう片方に田中と林と、このようなシュチュエーションによる6手の演奏もあるのだなと感心したのである。また、アコースティック演奏に向いたハコであることから、演奏自体はPAなしで行われた。トークでも場との関係性ということが語られていたが、やはり演奏環境はサウンドそのものや音楽の深化にも深く関わってくる。特に即興演奏やオリジナルな音楽を演るミュージシャンにとっては活動の場なくしては、音の冒険もありえないだろう。そして、リスナーにとっても時空間を共有し、まさに現在進行形で音楽を体験できるライヴは、完成品としてのCDあるいは録音を聴取するのとは別の楽しみがある。しかし、コロナ禍で通常の形態でのライヴがままならなくなった今、改めてそのことを実感しているのではないだろうか。

公園通りクラシックスのような小規模なヴェニューが実は音楽活動の現場では重要な役割を果たしてきていることは中々認識されていない。しかし、ライヴ・ミュージシャンにとっては演奏する場があってこその音楽なのである。この状況下、そのような小さなヴェニューで苦境に立たされているところは少なくないと思う。では、経営的にどうすればいいのか。不確実性の時代の中、正解は誰にもわからない。ただひとつだけ言えることがある。事情が許すのなら、出来るだけライヴに足を運ぶということ、それはヴェニューにとってもミュージシャンにとっても助けになるということだけは確かである。(2020年8月1日記)

横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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