#30 「未来への芸術」というが…
文化庁AFFについて思うこと

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text & photo by Kazue Yokoi  横井一江

 

1月中旬、令和3年度補正予算566億円を投じた「コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業」が「ARTS for the future!2」(AFF2)として募集を行う予定だということが公表された(→リンク)。昨年のArts for the future (AFF)に続き、今年も同様のコロナ対策としての補助金事業がほぼ決定したということだ。

昨年9月30日に緊急事態宣言が解除され、ライヴやコンサートも息を吹き返したように活況を取り戻りしつつあった10月以降、特に11月、12月に開催された公演のフライヤーや宣伝等でAFF Arts for the future! のロゴマークがついているのを見かけた人は多かっただろう。これは文化庁の令和2年度補正予算事業で、「コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業」AFFの採択を受けて多くの公演が開催されたからである。しかし、なぜその時期に集中したのだろうか。9月6日から17日にかけて第2次募集(第1次募集は4月26日から5月31日)が行われたが、その事業実施期間が12月31日までだったのだ。これまでも秋から初冬にかけては音楽に限らず、演劇、ダンス等の公演も多く、さぞかし会場を押さえるのが大変だったと想像する。と同時に、さまざまが公演が重なる週末はコアなファンならば観たい公演やライヴが重なりまくり、さぞかし悩ましかったことだろう。

コロナ禍で仕事が減り、収入も減った音楽業界や他の芸術関係の仕事に携わる人たちにとって、このような補助金事業があることはとても有難い。しかし、前年にコロナ対策として打ち出された個人(フリーランス)も応募できた「文化芸術活動の継続支援事業」とは違い、AFFは団体しか応募出来ないという難点があった。それでも表現活動を継続させるために、実行委員会を立ち上げるなどして、慣れない申請書類作成に多くの時間を費やした人たちの中には少なからぬジャズ関係者もいたに違いない。9月に申請しても結果がなかなか来なかったことでやきもきした団体は多かっただろう。なにしろ第1次募集の時に交付決定を受けたのは約半数だったのだから、果たして結果がどうなるのかという不安もあったと想像する。審査に非常に時間がかかったことで、リスクを取って、会場を予約し、出演者などとのギャラの交渉など、採択/不採択の結果を待たずに見切り発車で公演の準備を始めたり、実施した団体も少なからずあったに違いない。結果的に第1次募集ほど不採択は多くなかったが、採択されたのは申請件数の約74%。なかには適当ではない事案があったかもしれないが、不採択や準備が間に合わずやむなく取り下げた団体の心情を思うとやりきれなくなる。これは通常の文化関係の助成金事業とは違い、コロナ対策として策定された支援である以上、余程の不備がない限り採択されるべきであったと考える。

採択されても、事業者の苦労は続いた。事業期間は12月31日までだったが、報告書提出期限は今年1月10日、12月に公演を行なった団体にとっては、一息つく間もなく書類作成に追われることになった。たぶん、お正月どころでなかった人も多数いたと想像する。私もメンバーとして関わった実行委員会の文書関係を手伝ったため、大掃除は延期、新年の飾り付けもお雑煮もおせち料理も七草粥も何もなし、というかお正月は知らぬ間に終わっていた。その経験を踏まえて、思ったことを少し記しておこう。申請や報告の細かい点など部外者にはわかりずらいところがあるが、読み飛ばしていただいて構わない。

困ったのは、申請時と報告時で事務局が言っていることに齟齬があったり、言っていることがもやっとしていて曖昧だったり、コールセンターの答えとメールで問い合わせた時の回答が異なっているケースがあったことだった。例えば消耗品、どうやら公演後にも形が残っているものは対象外、そうなると消毒液ぐらいしか補助対象経費として認められないのだろうな、ということがわかったのみ。それに限らず、線引きが曖昧、かつ一般的な答えしか出来ないと電話口で何度も呪文のように繰り返すので参ってしまった。手引きに書いてあることは読んでいて、はっきりわからないから問い合わせをしているのだから、それでは混乱させられてしまう。FAQは後出しで公開されたが、とても十分な内容ではなく、報告前のオリエンテーションもマニュアルの読み上げ時間が長く、Q&Aの時間が少なすぎた。

所定のフォーマットで提出する収支報告書(エクセル)は、事細かに出費を記載した出納帳を丸ごと提出するようなもので、旅費や交通費も企業の出張費精算時のように明細を書くように要求された。フォーマット自体、あらかじめ関数が入れられているため、新たに行の挿入・削除が出来ないようになっていたので、2、30行ならまだしも100行を超える行数だとすごく使いづらかった。これがMacとは相性が悪く、音楽・芸術関係者はMacユーザーが多いだけに、苦労していた人も多かったと想像する。加えて、全ての証憑書類をPDFまたはJPGで添付、たとえ少額レシートであってもスキャンするという手間も加わり、私に限らず担当者が費やした時間と労力はかなりのものだっただろう。同じことが審査する側にもいえる。案の定、2月3日に「実績報告の確認について」というお知らせがAFFのサイトに掲載され(→リンク)、実績報告の内容を提出順に確認しているが連絡するまでに時間がかかっているので待ってほしいということだった。きっと問い合わせがかなりあるに違いない。なにしろ、収支報告書をチェックした上で正式な交付金額が決定されるので、採択時の金額が必ずしもまるごと支払われるわけではなく、さらに振込は決定から一ヶ月後ぐらいになる。公演を行なった以上、主催者はあちこちに支払わねばならない。団体や事業者にもよるが、立て替えられる金額に限界はあるのだ。なかには支払いを待ってもらったり、借り入れをした事業者もいるかもしれない。確定した金額と支払い時期を誰もが早く知りたいと願っているだろう。公金を使っている以上、不正があってはいけないので厳密にチェックするのは理解できる。だが、送られてきた書類をチェックする人員の人件費も税金である。人員を増やせば増やすほど、時間をかければかけるほど、必要な予算も増えるのだ。費用対効果、そのバランスをどうとるのか、例えば少額の経費の証憑書類添付は省いてもよいなど、もっと合理的に考えるべきではないだろうか。申請→審査→採択決定→事業を行う→報告書提出→審査→金額決定→振込、という一連のプロセスももっと工夫して、簡略化できる部分は簡略化すべきだ。

申請システムにも問題があった。第2次募集では団体情報登録に際して、第1次募集では必須ではなかった構成員名簿が加わったのだが、団体情報登録ページの添付ファイル「必須」となっていなかったので、うっかり添付し忘れた申請者もいたに違いない。ここは第2次募集に際して、申請ページを修正しておいてほしかった。また、実績報告の時も区分I(補助上限額600万円以下)の場合は従事人員報告書が不要なのに、それをアップロードしないと報告できないので、慌てて電話したら空の従事人員報告書をアップロードして下さいということだった。コールセンターが繋がったからいいものの、ここで戸惑った人もいたと思う。こういうところは改善してほしい。申請システムについては、経済産業省の事業復活支援金や、最初オンライン申請システムが上手く動作せず苦情が出て後に改善された厚労省の持続化給付金の申請システムと比べて使い勝手が悪かったというのが正直な感想である。

AFFは個人ではなく団体向けの補助金だった。AFF2もまだ具体的なことはわからないが、団体向けの支援事業である。個人に対しての補助を行うと一件あたりの金額は少ないものの数が膨大になる。事業者にお金を与えることにより、その事業に関わる人員にお金を回すほうが、手続きとしても楽で合理的だと考えたとしてもおかしくない。しかし、演劇やダンス、あるいはクラシック音楽のオーケストラなどの団体と違い、ジャズなどのライヴ・ミュージシャンや個人でコンサートの主催やコーディネイトに携わっている人は、このような制度に馴染みがない人が多く、その恩恵は受けづらい。政府は文化芸術立国ということを随分前から謳っているが、平時の文化に対する公的支援ではなく、延々とコロナ禍が長引く中でその対策の一環としての補助金事業を行うのであるならば、個人(フリーランス)も申請できるような事業もまた検討されるべきだろう。なぜならば、草の根でシーンを支えているのは彼ら/彼女らだからだ。と同時に、当事者たちも意識を変えていく必要がある。そしてまた、周囲の人たちが文化事業に対して関心を持つことも大事なのではないだろうか。

現在、オミクロン株の蔓延によって、再び多くの自治体でまん延防止等重点措置が適用されている。これに伴って、飲食店だけではなくライヴを行うお店の営業時間も再び午後9時までとなったため、開演時間を早めざる得なくなっている。これによって、お店やミュージシャンにも影響が出ないわけがない。なぜならば、会社員を始めとして昼間フルタイムで働いている人たちは毎日定時に帰宅できるような人、あるいはヴェニューの近くに勤務先がある人でないと、行きたいライヴがあってもなかなか開演時間に間に合わない/駆け込まないといけないという事態が生じる。これによって客入りが減れば、お店の収益やミュージシャンの収入も減ることになるからだ。小さなヴェニューでの活動は独立独歩ゆえに補助金制度とはなかなか縁遠い。とはいえ、マイナーなジャンル、音楽コミュニティほどDIY精神としたたかさでこれまで生き延びてきたことは確かだ。身近な音楽の現場も忘れてはいけない、と一言付け加えておこう。そこにこそ次なる創造活動、「未来への芸術」への萌芽があるのだから。

 

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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