映画『ジョアン・ジルベルトを探して』〜8/24より順次公開

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©Gachot Films/Idéale Audience/Neos Film 2018

映画『ジョアン・ジルベルトを探して』
Bo bist Du, João Gilberto? / Where Are You, João Gilberto?

8月24日(土)より新宿シネマカリテYEBISU GARDEN CINEMA、愛知・名演小劇場、ほか全国順次公開。劇場情報はこちら

監督:ジョルジュ・ガショ Georges Gachot
脚本:ジョルジュ・ガショ Georges Gachot、パオロ・ポローニ Paolo Poloni
出演:ミウシャ、ジョアン・ドナート、ホベルト・メネスカル、マルコス・ヴァーリ
音楽:ジョアン・ドナート João Donato
2018年/スイス=ドイツ=フランス/ドイツ語・ポルトガル語・フランス語・英語/111分/カラー/ビスタ/5.1ch
字幕翻訳:大西公子 字幕監修:中原仁 配給:ミモザフィルムズ 宣伝協力:プレイタイム
©Gachot Films/Idéale Audience/Neos Film 2018

“ある狂った男を探し求めた、別の狂った男が作り上げた、1人の狂った男の映画です。”  ―ミウシャ 『GLAMURAMA』

2019年7月6日、ジョアン・ジルベルトがリオデジャネイロで亡くなった。6月10日に88歳の米寿を迎えたばかり、親友として連絡を取り合っていた元妻のミウシャは、2018年12月27日に亡くなっていた。葬儀は、8日、リオデジャネイロ市立劇場で執り行われ、参列した全員で<Chega de Saudade>が歌われる。ブラジル中が、世界が悲しみに包まれた。訃報についてはこちらを、追悼特集はこちらを、ヒロ・ホンシュクによる楽曲解説はこちらをご参照いただきたい。

1950年代のボサノヴァの成立には、アントニオ・カルロス・ジョビン、ヴィニシウス・ヂ・モライスらが大きな役割を果たす一方、そのサウンドの確立にはジョアン・ジルベルトひとりの力によるところが大きく、ボサノヴァの最初の一曲と言われる<Chega de Saudade>(想いあふれて/No More Blues)をはじめ、<Garotade Ipanema>(イパネマの娘)、<Águas de Março>(三月の水)など、トム・ジョビンによる名曲の数々も、グループによる賑やかなサンバを原点にしながら、1人で穏やかに爪弾き出されるギターに凝縮されたサウンド、ジョアンの甘い歌声によって生命を与えられ、世界に羽ばたいていった。そして、ジャズファンにとっては、『Getz / Gilberto』の印象はあまりにも大きい。

2003年、名プロデューサー宮田茂樹がミウシャから相談されたことに始まり、不可能と思われていたジョアンの来日公演を実現し、奇跡的に2004年、2006年にも来日する。この模様は『ジョアン・ジルベルト ライブ・イン・トーキョー 2006』としてリリースされ、上映された。2008年8月26日にリオデジャネイロで開催されたボサノヴァ誕生50周年記念コンサートへの出演を最後に人前から姿を消し、リオデジャネイロのレブロン海岸付近に密かに暮らしていた。この間、人前に出ること自体がほぼなく、その生活は謎に包まれていた。

フランス生まれのジョルジュ・ガショ監督は、1962年、パリに隣接するヌイイ=シュル=セーヌ (Neuilly-sur-Seine)生まれ、フランスとスイスの国籍を持ち、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語、英語などを自在に話す。この映画はドイツ語でまとめられている。CMに俳優、音響アシスタントとして参加したことから映画のキャリアをスタートさせた。1990年の「Journey of Hope」に参加したことで知られ、アカデミー賞外国語映画賞を受賞するが、マンフレート・アイヒャーが音楽を担当しECMの音源が多数用いられている。

1997年以降、クラシック音楽にまつわるドキュメンタリー映画を手がけ、『アルゲリッチの音楽夜話』等がある、やがてブラジル音楽に傾倒し3つの関連映画を世に送り出した後、ドイツ人ジャーナリストのマーク・フィッシャーが、ジョアン・ジルベルトに会うため、リオデジャネイロに出向いた顛末を描いた1冊の本「オバララ〜ジョアン・ジルベルトを探して」(HoBaLala,Auf der Suche nach João Gilberto)と出会い、衝撃を受ける。その懸命な追跡にも関わらず、マークはジョアンに会えないまま、最後のブラジル旅行の3ヵ月後、本が出版される1週間前に亡くなり、自ら命を断ったと推定されている。監督が本を手にするのはその3年後だ。

ジョルジュは、マークの旅に強く共鳴し、彼の夢を実現すべく、ジョアンゆかりの人々や土地をブラジル中を尋ね歩く。ミウシャ、マルコス・ヴァーリ、ジョアン・ドナートらの有ミュージシャン達、レブロン周辺の人々。ジョアンが数年間籠ってボサノバサウンドを生み出した、ジアマンチーナにある姉の家のバスルーム。トークイベントで、監督がそっと教えてくれた。「マークは遺書のような手紙に、葬儀では<Águas de Março>(三月の水)をかけて欲しいと書いていました。私はバスルームのシーンにその曲を選びました。」

10年以上、公の場に姿を現していない彼に会いたい一心で、ドイツ人作家とフランス人監督が時空を超えてリオの街をさまよい歩く。ジョルジュは、マークと旅を共にすることもあってか、ストーリーはドイツ語で語られ、トークイベントでもドイツ語で話した。リオデジャネイロ、ブラジル好きには、ビーチまわりだけではない、リオの街角の普通の時間と空気が流れているのが凄く心地よくてそれだけで、何度も見たくなる。奇遇にも筆者が学生旅行でリオで過ごしたのはレブロンだった(蛇足だが私の故郷はHobala町だ)。ジョアンが映像で活躍する訳でもなく、見終えて爽快になったり、涙が溢れたりという訳ではないが、十分な見応えと伝わる想いがあり、惹き付けられる不思議な魅力のある素晴らしい映画となっている。ぜひお勧めしたい。

 


ジョルジュ・ガシュ監督と中原仁のトークイベントから

オリジナル=ドイツ語版 予告編

『ジョアン・ジルベルト ライブ・イン・トーキョー』予告編

Martha Argerich, Evening Talks 予告編

Journey of Hope (1990) 予告編

神野秀雄

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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