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international(海外)NewsR.I.P. ヨン・クリステンセン

ヨン・クリステンセン 逝く〜ECM50年間をリードしたノルウェーのドラマー

Cover photo: Ellen Horn’s Facebook
Photo by Ryo Mitamura 三田村 亮
Text by Hideo Kanno 神野 秀雄

R.I.P. Jon Ivar Christensen (March 20, 1943 – February 18, 2020)
ノルウェーのジャズドラマー、ヨン・クリステンセンが、オスロ市内Sagenehjemmetの自宅で亡くなった。76歳だった。ヨンのパートナー、女優で元ノルウェー文化大臣のエレン・ホーンがFacebookに訃報を寄せた。ECM Recordsからも追悼メッセージが出された。

1943年、ドイツ占領下のオスロに生まれる。やがて独学でドラムスを始め、ジャズクラブで演奏するようになり、ノルウェーを訪れたアメリカのミュージシャンたち、バド・パウエル、スタン・ゲッツ、デクスター・ゴードン、ケニー・ドーハム、ソニー・ロリンズらと共演、デクスター・ゴードンは、「君はハーレム出身ではないし、まだ20歳だ。感じたままを叩きなさい。」と励ましたという。ヤン・ガルバレク、ボボ・ステンソン、テリエ・リピダル、アリルド・アンデルセンらと活動しながら、ジョージ・ラッセルと共演するようになり、1969年、ジョージをプロデューサーに『Jan Garbarek / Esoteric Circle』(Flying Dutchman)を録音する。

1970年、ECMを創設したばかりのマンフレート・アイヒャーが『Jan Garbarek / Afric Pepperbird』(ECM1007)録音をきっかけにエンジニアのヤン・エリック・コングスハウクを見出だし、オスロに録音拠点をおいたこともあり、ヨンにとっても幅広い気鋭のミュージシャンたちとの録音とライブの機会が増え一気に活動の幅を広げた。ECMにおけるディスコグラフィーは、そのままECMミュージシャンの一大リストの様相すら呈している。ECMにリーダー作を残していないミュージシャンに『Selected Recordings – Jon Christesen』(:rarum 20)が2004年にリリースされる特異な例となっている。ECM以外となるが、ヨン名義となるアルバムでは、1976年に『Pål Thowsen & Jon Christesen / Time for Time』(Panorama)を、テリエ・リプダルとアリルド・アンデルセンとともに録音している。

ヨンの名前を世界に広く知らしめたのは、特にキース・ジャレット”ヨーロピアン・カルテット”への参加、1974年に『Belonging』(ECM1059)を録音、1978年の『My Song』(ECM1115)はECM史上で最も売れ続けているアルバムのひとつらしく、また好きなアルバムに名前を上げる人は多い。1979年4月に来日。東京・中野サンプラザ公演があまりにも素晴らしかったために、マンフレートは急遽、ヤン・エリック・コングスハウクを呼び寄せ、及川公生をアシスタント・エンジニアに録音。『Personal Mountains』(ECM1382)、『Sleeper』(ECM2290/91)として、それぞれ、時を経て、1989年、2012年にリリースされた。その後、1979年5月、ヴィレッジ・ヴァンガードでの『Nude Ants』(ECM1171)ライブをもって、カルテットは解散する。カルテットの1曲でヨンの軽快なプレイが聴ける<Windup>を、21世紀になってスティーヴ・ガッド・バンドがテーマ曲に採用し、<Country>もレパートリーにしているのも興味深い。

この時期のヤン・ガルバレクとジョン・テイラーとの共演で、『Jan Garbarek / Photo With Blue Sky, White Cloud, Wires, Windows And A Red Roof』(ECM1135)があり、筆者にとってはヨンのドラミングが最も印象に残る思い出の一枚だ。参考動画はアルバム録音直前の時期を捉えた貴重なものだ。なお、1974年に遡るが『Ralph Towner / Solstice』(ECM1060)も人気の一枚だ。

2014年にはヤコブ・ブロ・トリオとして、トーマス・モーガンとともに来日し、渋谷の公園通りクラシックスなどでライブを行った。その際にフォトグラファー三田村亮が撮影した写真は『Jacob Bro / Gefion』(ECM2381)のインナーフォトに採用された。ECMとしての最後の録音も、ヤコブ・ブロとトーマス・モーガンに、パレ・ミッケルボルグのフリューゲルホーンを加えた録音で、『Jacob Bro / Returnings』(ECM2546)で、2018年にリリースされている。最近では、ロシア出身のピアニスト、エレーナ・エケモフとのコラボレーションがあり、2020年1月24日に『Yelena Eckemoff / Nocturnal Animals』がリリースされた。オスロ・レインボー・スタジオでの録音風景の動画もご覧いただきたい。

ヨンとエレンの娘であるエミール・ステーゼン・クリステンセンは、女優・ミュージシャンとなり、ヨンとも共演している。

ECM50年間を通して、そのサウンドをリードし、暖かい人柄を感じる素晴らしい音を聴かせてくれたヨン・クリステンセンに深く感謝したい。


Photos: Ryo Mitamura (2014)

Keith Jarrett “European” Quartet
Keith Jarrett (piano), Jan Garbrek (sax)
Palle Danielsson (bass), Jon Christensen (drums)
NRK Studio, Oslo 1974

Passing – Spansk Samba (原題)
Jan Garbarek (sax) John Taylor (keyboards)
Jon Christensen (drums) Bill Connors (guitar)
1978.3.12 Paris

Strands
Jakob Bro (guitar), Palle Mikkelborg (flugelhorn)
Thomas Morgan (bass), Jon Christensen (drums)
Recorded at The Village Studio Copenhagen in February 2018

Nocturnal Animals
Yelena Eckemoff (piano), Arild Andersen (bass)
Jon Christensen (drums and percussion), Thomas Stronen (drums and percussion)
At Rainbow Studios, Oslo.

Variasjoner Over Olines
Emilie Christensen (vocal), Harald Lassen (sax), Mats Eilertsen (bass)
Eyolf Dale (piano), Jon Christensen (drums)

Sonny Rollins at Kongsberg Jazz Festival,Norway. June 25 ,1971
Bobo Stenson (piano), Arild Andersen (bass), Jon Christesen (drums)

Mike Stern at Jazz Baltica 1994
Peter Weniger (sax) Arild Andersen (bass), Jon Christesen (drums)

死亡記事
https://www.nrk.no/nyheter/jazzmusiker-jon-christensen-er-dod-1.14907698
https://www.vg.no/rampelys/musikk/i/OpJWKw/jazzmusiker-jon-christensen-er-doed


Photo: Hideo Kanno

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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