R.I.P. チック・コリア (1941.6.12 – 2021.2.9)
60年間の音楽の旅

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Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Takehiko Tak Tokiwa 常盤武彦

R.I.P. Armando Anthony “Chick” Corea (June 12, 1941 – February 9, 2021)

ピアニスト、作曲家のチック・コリアが、2021年2月9日、79歳で亡くなったと公式ウェブサイト公式Facebookで発表された。ごく最近、珍しい形態の癌が発見されて、治療する間もなく亡くなったという。Concordからの追悼文ECM Recordsからの追悼文も寄せられている。ユニバーサルミュージックも追悼記事を掲載した。

2020年のCOVID-19感染拡大の下ででは、3月から約40回にわたり自宅スタジオからのインタラクティヴなライヴ配信を続け、その先にChick Corea Academyというオンラインで学べるコース(有料)を立ち上げた。8月にピアノ・ソロ・アルバム『Chick Corea Plays』をリリース。とても元気そうで、2020年秋に「来年は日本に行って、小曽根真、上原ひろみと共演するからね。」と嬉しそうに語っていただけに、残念でならない。いや、生涯を通して現役で最先端に立ち、長生きされたと思うべきなのかもしれない。これまでチックから受け取った素晴らしい音楽の数々とファンへの深い愛に心から感謝したい。

●チック・コリアからのメッセージ
公式発表はチックからのメッセージで結ばれている。チックなら、音楽自体が言葉よりも多くを伝えているから、、とまず言うだろうが、、と前置きした上で。チックが知り、チックが愛し、そしてチックを愛した全ての人へ。

「私と旅をともにし、音楽の火を明るく燃やし続けるために協力してくれた、すべての方へ心から感謝します。いま演奏したい、書きたい、パフォーマンスをしたい、その他どんな形でも表現をしたいと思っている人には、ぜひそうして欲しいと願っています。あなた自身のためでなくても、他の誰かのために。世界にはアーティストが必要であるというだけではなく、ただ楽しむというだけでも。」

「大切なファミリーのような素晴らしい音楽家の友人たちへ。みなさんから多くを学び、一緒に演奏したことは喜びであり光栄でした。私のミッションは、できる限り世界のどこででも、創造する歓びを届けることであり、私の心から尊敬する音楽家と共にそれを届けることでした。それは私の人生を豊かなものにしてくれました。」

“I want to thank all of those along my journey who have helped keep the music fires burning bright. It is my hope that those who have an inkling to play, write, perform or otherwise, do so. If not for yourself then for the rest of us. It’s not only that the world needs more artists, it’s also just a lot of fun.”

“And to my amazing musician friends who have been like family to me as long as I’ve known you: It has been a blessing and an honor learning from and playing with all of you. My mission has always been to bring the joy of creating anywhere I could, and to have done so with all the artists that I admire so dearly—this has been the richness of my life.”

チック・コリア 60年間の音楽の旅

チック・コリアは、60年間のキャリアで、100作以上を録音し、グラミー賞を23回受賞している。チックの音楽の旅を振り返る記事を書いたが、あまりに多作すぎて網羅など無理な上に、訃報をニュースとして届けるという時間の制約上、不完全なものであることをお許しいただきたい。

●ラテンバンド、巨匠との共演、そしてファーストアルバム
チックは1941年2月9日にマサチューセッツ州チェルシー生まれ。父はトランペッター。4歳からピアノを始め、ニューヨークのジュリアード音楽院で学ぶ。初期に影響を受けたのは、ホレス・シルヴァーとバド・パウエル、そして、モーツァルトとベートーヴェン。
プロとして最初のメジャーな仕事はキャブ・キャロウェイのバンド、ついで、モンゴ・サンタマリア、ウィリー・ボボなどラテン系のバンドで経験を積んだ。ブルー・ミッチェル、ハービー・マン、スタン・ゲッツ、サラ・ヴォーンなどのサイドで演奏し、カル・ジェイダー、ドナルド・バード、ディジー・ガレスピーなどともレコーディングを行う。
1966年にファーストアルバム『Tones For Joan’s Bones』(1966)をリリースする。この時期、注目しておきたいサイドマンとしての録音として、『Stan Getz / Sweet Rain』を挙げておきたい。ロン・カーター、グラディ・テイトとのカルテットで、<Windows>も収録されている。

●『Now He Sings, Now He Sobs』〜『Trio Music』
1968年に『Now He Sings, Now He Sobs』をミロスラフ・ヴィトウス、ロイ・ヘインズとともに録音し、名曲<Matrix>を含み、インタラクティヴな先進性を魅せ記念碑的作品となった。ヒロ・ホンシュクによる<Matrix>楽曲解説もご参照されたい。
このトリオは、1982年に再結成され『Trio Music』(ECM1232/33)として即興演奏とセロニアス・モンクの曲を収録している。

Tones for Joan’s Bones

Matrix

●マイルス・ディヴィス・バンドからECMへ
マイルス・ディヴィス・グループへ参加、フロントにはウェイン・ショーターがいて、エレクトリック・マイルス初期は、ハービー・ハンコック、ジョー・ザヴィヌル、チック・コリア、キース・ジャレットと1970年代以降にジャズを切り拓くピアニスト/キーボーディスト、その他のミュージシャンが出揃う。『In a Silent Way』(1969)では、ジョー・ザヴィヌル、ハービー・ハンコックと重なり、『Bitches Blew』(1969年)にも参加。その後のECMでのキーパースンとなる、ジャック・ディジョネット、デイヴ・ホランドらもいる。チックとキース・ジャレットのツインキーボードは3カ月ほどで、1970年8月29日の伝説の「ワイト島コンサート」を経て、チックはデイヴとともに脱退する。

●ECMとの出会い〜サークル、ピアノソロ
チック、デイヴは、バリー・アルトシュル、アンソニー・ブラクストンとともにサークルを結成し、1971年2月に録音したコンサートが『Circle / Paris Concert』(ECM1018/19)としてECMからリリースされた。このピアノトリオだけで録音した『A.R.C.』(ECM1009)がチックのECM初リリースとなった。
1971年4月にはマンフレート・アイヒャーとともにオスロへ向かい、ヤン・エリック・コングスハウクのもとでソロピアノを録音、『Piano Improvisations Vol.1』(ECM1014)、『vol.2』(ECM1020)としてリリース。『Keith Jarrett / Facing You』(ECM1017)とともにECMにはじまるソロピアノ文化を築く。


(c) Roberto Masotti

●チック・コリア&ゲイリー・バートン・デュオ
2歳年下のヴィブラフォンのゲイリー・バートンとのコラボレーションは、1972年の『Crystal Silence』(ECM1024)から。そして1979年のライヴ盤『In Concert Zurich, October 28 1979』(ECM1182/83)でECM初のグラミー賞を獲得する。その後も晩年まで共同作業を続け、2012年には『Hot House』をリリースした。NPRでのスタジオライヴもご覧いただきたい。

●リターン・トゥー・フォーエバー
サークルから一転して、結成された透明感、ラテンフレーバー、エネルギーと歓びに満ちたサウンドのリターン・トゥー・フォーエバー(RTF)を結成し、ニューヨークで『Return to Forever』(ECM1022)を録音。オリジナルメンバーは、スタンリー・クラーク、ジョー・ファレル、アイアート・モレイラ、フローラ・プリム。同メンバーでセカンドアルバム『Light As a Feather』を。チック作曲の超スタンダード曲となる<La Fiesta>、<Spain>はこの2枚で生まれた。なお、日本限定発売の『ECMスペシャルI』に『Return to Forever』の未発表テイクとして<Captain Marvel>が収録されている。また、『Stan Getz / Captain Marvel』もRTFスタン・ゲッツ版と見ることもできる。
『第7銀河の賛歌』以降はビル・コナーズをはじめギタリストを迎えロック色を強める。アル・ディメオラ、スタンリー・クラーク、レニー・ホワイトでRTFの絶頂期を迎え『浪漫の騎士』は50万枚を売り上げた。

●ハービー・ハンコックとのデュオ
1978年にハービー・ハンコックとの2台ピアノプロジェクトを行う。『Corea/Hancock』、『An Evening with Herbie Hancock and Chick Corea』の2枚をリリースし、現在は2枚組として販売されている。

●ソロ・プロジェクト〜エディ・ゴメス&スティーヴ・ガッド
RTF直後の名作の数々はバンドではなくソロ活動ではあるが、チック、エディ・ゴメス、スティーヴ・ガッドのピアノトリオがコアになっているアルバムが複数ある。ジョー・ファレルも参加した『Mad Hatter』、『Friends』。マイケル・ブレッカーとのカルテット『Three Quartets』。これらは非常に人気が高い名盤だが、オリジナル・メンバーでの『Three Quartets』は日本でのライブはなかったと記憶しており、筆者はブルーノート・ニューヨークでの再結成を見に行った。また、ジョー、マイケルの没後もブルーノート・ニューヨークでの75歳記念ライヴシリーズで演奏された。なお、このメンバーは、オリジナル・ステップス(・アヘッド)と重なることにも注目だ。

●パコ・デ・ルシア、スペインとの繋がり
ライブ・アンダー・ザ・スカイ(田園コロシアム)では、チックのさまざまなプロジェクトが演奏され、前述のスリー・カルテッツ(ロイ・ヘインズのドラムス)と合わせて、熱狂のコンサートとなったのが、ホルヘ・パルド(fl)、カルロス・ベナベント(b)などを擁したパコ・デ・ルシア・バンドとのコラボレーション。その後もパコ、そしてパコ没後もこの種のプロジェクトは続いて、チックの大切な一部となり続けた。この主のプロジェクトでは、日本での知名度の薄いホルヘ・パルドが置き換えられてしまい、これも75歳記念シリーズでニューヨークを訪れて見ることができた。

●フリードリヒ・グルダとの共演とクラシックへの接近
1984年には、『Chick Corea & Friedrich Gulda / The Meeting』をリリース、クラシックピアノの巨匠フリードリヒ・グルダとともにクラシックとジャズの垣根を超える。この直後、鯉沼ミュージック主催、武満徹監修の「Tokyo Music Joy」でモーツァルトのピアノ協奏曲を演奏、キース・ジャレットと2台のピアノのための協奏曲を演奏した。

●エレクトリック・バンドとアコースティック・バンド
とカタカナで書いても普通だが、Elektric、Akousticと、文字通りだけではない意気込みを見せており、その高い音楽性とバカテクでフュージョンファンを魅了した。チック、ジョン・パティトゥッチ、デイヴ・ウェックルのトリオがアコースティック・バンド。エリック・マリエンサル、それにギタリスト1人〜スコット・ヘンダーソン、カルロス・リオス、フランク・ギャンバレが加わって、エレクトリック・バンドになる。Tokyo Jazz 2019のライヴレポートもご参照いただければ幸いだ。チックはここで「ずっと以前に、クリスマスの時期に家族で6週間を京都で過ごしました。おそらく、私が人生でとった唯一のバケーションです。」語っており、そのとき生まれた曲が<Silver Temple>、<Japanese Waltz>が生まれた。

●小曽根真との共演
小曽根真は、1982年、バークリー音楽大学在学中にチックに出会い、作曲面でも深い影響を受け、またゲイリー・バートン・グループ当時の交流も含めて、深い友情を築いてきた。小曽根が特に影響を受けたのが、1982年のゲイリー・バートンと弦楽四重奏が参加した『Lyric Suite for Sextet』(ECM1260)だという。1996年に2人でモーツァルトを弾くという機会があり、2010年にはルネ・マルタンがプロデュースするフランスのラ・ロック・ダンテロン国際ピアノフェスティバルでビッグバンドNo Name Horsesを交えてのコンサートが開催された。2016年に尾高忠明指揮、NHK交響楽団とのモーツァルト<2台のピアノのための協奏曲>演奏を含むデュエットツアーを行った。アルバムでは、2002年に『小曽根真/Treasure』にチックがゲストで参加、2016年は『Chick Corea & Makoto Ozone / Duets』をリリースしている。

●上原ひろみとの共演
上原ひろみが17歳のときに彼女の演奏を聴いたチックが自分のコンサートに急遽呼び初共演。東京ジャズ2006で10年振りに再会共演を果たす。2007年のブルーノート東京公演のライヴ盤として『Duet』がリリースされた。2008年には日本武道館でデュオコンサートを実現した。

●”トリロジー” ピアノ・トリオ
2014年、クリスチャン・マクブライド(b)とブライアン・ブレード(ds)とのピアノトリオで3枚組アルバム『Trilogy』をリリース、2015年のグラミー賞を受賞している。2019年には『Trilogy 2』をリリースしている。
ヒロ・ホンシュクによる<All Blues>楽曲解説もご参照されたい。異なるメンバーでもトリロジー名義でツアーを行っており、2016年には、アヴィシャイ・コーエン(b)、マーカス・ギルモア(ds)で来日している。2016年ブルーノート東京でのライヴレポートもご参照いただきたい。

●スパニッシュ・ハート・バンド
チックの音楽においてスペインの響きは大切な要素となって来た。アメリカ、スペイン、キューバ、ヴェネスエラ出身者からなるこのバンドで、2020年グラミー賞の最優秀ラテン・ジャズ・アルバム賞を受賞している。
『Chick Corea & The Spanish Heart Band / Antidote』

2020年にチックが、スパニッシュ・アプローチのハーモニーとスケールを解説している動画をご覧いただきたい。リアルタイムでの筆者の質問に答えてくれていて、私の名前からいきなり始まるのに驚いた。最後のそして最高の思い出になった。
Spanish Harmony and Scales

●最後のピアノ・ソロ・アルバム『Plays』
COVID-19下で、2020年8月28日に発売された『Plays』は、2018年にパリのフォンダシオン・ルイ・ヴィトン、ベルリン、フロリダでのピアノソロ演奏から、さまざまな作曲家の曲を演奏するアルバムだった。取り上げているのは、モーツァルト、スカルラッティ、スクリャービン、ショパンなど、300年の音楽史に名を残すクラシックのレパートリー、さらにビル・エヴァンス、セロニアス・モンク、アントニオ・カルロス・ジョビン、グレート・アメリカン・ソングブック、スティーヴァ―・ワンダー、そして自身のオリジナルやインプロヴィゼーションまで。チックは以下のように語っている。

「私はある種の血統の一部なのです。私がやっていることは、モンクがやったこと、ビル・エヴァンスやデューク・エリントンがやったことと似ていて、また別の音楽の時代に戻って、バッハやモーツァルト、ベートーヴェンがやったことと似ています。これらのピアニストは皆、心の底から作曲家であり、自分たちの音楽家を集めて演奏していました。その伝統の一部であることを誇りに思います。」

Hommage à Chick Corea – Piano Jazz Session at Fondation Luis Vuitton

●自宅からのライヴ配信
最後に2020年4月に行われていた、自宅からのライヴで、インタラクティヴなチックとの時間を味わって欲しい。

Welcome to Day 21 of my piano workshop

神野秀雄

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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