#133 小沼純一著『リフレクションズ〜JAZZでスナップショット』
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
書名:リフレクションズ〜JAZZでスナップショット
著者:小沼純一
版元:彩流社
初版:2024年7月10日
体裁:4-6版 237頁
定価:¥2,750(税込)
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音楽は、そのときどきに生まれて、消える。こちらとおなじく生きているものとおもう。
音楽もヒトも、生のたびに記憶をたずさえ、去ってゆく。
音楽をめぐってコトバを、文章を書くのは、このわずかな痕跡をとどめたいとののぞみかもしれない。
早稲田大学の教職に身を置きながら音楽から文化全般に幅広く評論活動を展開する小沼純一の新著。ジャズが最も豊かであった70年代を中心に一枚のアルバムから世相の断面を語る。と、同時にこれは著者自身の「ジャズ事始」、ジャズとの馴れ初めのメモワールでもある。キース・ジャレット『ソロ・コンサート』から富樫雅彦『スピリチュアル・ネイチャー』まで70年代を彩る内外の名盤55作がスナップショットを見返すようにように独特の語り口で思い出を交えながら繙かれる。多くの著作の中にあって、これは著者にとって初めての「ジャズ本」。私的ブログを通して公開されたものもあるようだが、それらにも手が加えられ陽の目を見ることとなった。
多くの著作を誇る著者の中にあって、このような私小説的な内容の出版は珍しく、ほぼ同時期に刊行された大部の著作はその名も『小沼純一作曲論集成〜音楽がわずらわしいと感じる時代に』で、アルテスパブリッシング創業15周年記念出版。版元のサイトのコピーを借りると「〈作曲〉は、音楽のはじまりだろうか──
“contemporary music”をかたちづくる180人を超える作曲家とその周辺。40年におよぶ思考を辞典形式で再構成する。」上製函入り12,000円で200部限定。ミニマルのA:ジョン・アダムスからウェザー・レポートのZ: ジョー・ザヴィヌルまで180余人。クラシックが中心だが、ビリー・ジョエル、ポール・マッカートニー、邦人インプロ系では喜多直毅や藤井郷子の名も見え、同時代の音楽「コンテンポラリー・ミュージック」で括られる著者の思考の野辺は果てしなく広い。それにしても、アレン・ギンズバーグと音楽の関係は?など、思わず手にしたくなる(実際には未だ購入はしていないが)人選ではある。
ところで、本題の『リフレクションズ』だが、寺島靖国氏の『ジャズ健康法入門』の紹介の際にも指摘した著者の同じ思い違いをここでも公平に指摘しておきたい。アルバート・アイラーの溺死体が発見されたのはハドソン川ではなくイースト・リヴァーである。おそらく、中上健次が『破壊せよ、とアイラーは言った』の中で犯した思い違いを二人の著者が揃って参照したのではなかろうか。