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BooksReviews~No. 201R.I.P. 松坂妃呂子

#078 松坂妃呂子『ジャズ古今往来~ビバップの心と技を受け継いだ日本人ジャズ・アーテイスト』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦弥

書名:ジャズ古今往来~ビバップの心と技を受け継いだ日本人ジャズ・アーテイスト
著者:松坂妃呂子
版元:ジャズ批評ブックス/株式会社松坂
初版:2014年4月5日
定価:1,300円+税

腰巻きコピー:
すてきな音楽ジャズに出会って
毎日聴きたくてみんなでいつも聴きたいと銀座1丁目裏通りに
ジャズ喫茶「オレオ」を開きました。そしてジャズをもっと深く
知りたくて「ジャズ批評」誌を創刊、編集と発行を続けて47年
です。ふと気づいたら81歳です

年季の入ったジャズ・ファンはよく銀座の「オレオ」を口にするのだが、大学に入ってからジャズを聴きだした僕は「オレオ」を知らない。「オレオ」が開店したのは1965年で1970年1月まで続いたという。僕の学生時代とも同期しているのだが、僕の道場は地元の吉祥寺、新宿、渋谷、高田馬場。銀座までは足を延ばせなかった。
松坂さんと出会ったのはレコード会社に入社してから。松坂さんが「オレオ」開店2年半で創刊した『ジャズ批評』の取材や広告出稿を通して。創刊以来5、6年を経過して『ジャズ批評』はすでに立派なジャズ・メディアとして市民権を得ていた。爾来40有余年、編集長は何度か変わったが(ジャズ・ライター/評論家の登竜門的ポジションの感さえあり)、発行者はひとり松坂さんがその孤塁を死守してきた。
この著書は、松坂さんが2012年2月から月例で14回にわたって東京商工会議所発行の東商新聞に書き綴ったエッセイに新たに書き下ろした3編を追加して再構成したものである。松坂さんは編集者らしく年間のテーマを決めて書き進めたようで、楽器別に8本、アーティスト編6本、レーベル編2本、加えて「オレオのこと」。嬉しい驚きは、「ECMとトリオレコード」に1編を割いていただいたこと。新聞執筆中にヒアリングを受けたのだが、こういう形で著書に再録されるとはまったくの想定外。これは永年ジャズを愛し、ジャズを聴き続けてきた松坂さんにとってECMの登場が如何に鮮烈であったかという証左。ジャズを中心に日本のレコード会社の動きを見守ってきた松坂さんは、レーベル編でブルーノートとスリーブラインドマイスを取り上げることも忘れない。ブルーノートは創立者アルフレッド・ライオンの引退後、日本の東芝EMIと担当の行方均の尽力によって完全に息を吹き返し、日本のジャズはその多くが藤井武が起こしたジャズ・インディ、スリーブラインドマイスにその精華が刻まれた。
楽器編、アーティスト編共に松坂さん自らの体験に基づいて書かれ、海外の状況とともに必ず日本の状況やアーティストが加えられ、松坂さんの視点に揺るぎがない。語り口はとても柔らかく、ジャズの四方山話を聞く風情で、初心者も安心して手にすることができるだろう。読了後、内外のジャズの歴史がバックボーンのようにしっかり読者の脳裡に刻み付けられているのを知り、驚く読者も多いのではないだろうか。
バックボーンといえば、女学校時代に校舎の床が抜け1階に墜落、背骨、腰椎、頸椎他20ヶ所を骨折、不治の傷として負っておられることを初めて知った。
半世紀にわたってバックステージで日本のジャズを支えてきた功労者。数年後の『ジャズ批評』創刊50周年には何を措いても駆け付けたいと、今から楽しみにしている。

*初出:2014年3月30日 Jazz Tokyo #196

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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