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BooksReviews~No. 201

#072 田中啓文著『聴いたら危険!ジャズ入門』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

書名:聴いたら危険!ジャズ入門
著者:田中啓文
版元:アスキー新書
初版:2012年2月10日
定価:本体743円+税

腰巻きコピー:
ピアニストも笑った!目からウロコの入門書。
読んで聴いたら、きっとアナタもハマるw

“フリージャズがこんなに面白いものだったなんて!?”山下洋輔

(前略)本書は、そういったジャズに関する誤解を解く本です。現在進行形のジャズは、じつはパンクと同じぐらい過激で、ポップスと同じぐらい楽しく、ヒップホップと同じぐらい身体に感じる、かなりヤバくて激アツで全身を直撃する音楽なのです。


現役の若手ジャズ担当A&Rから教えられた一冊。「ジャズの過去を振り返る歴史書はあっても現在のジャズ・シーン、とくにフリージャズ・シーンを切り取ったガイドブックがなかったんです」。
なるほど。紹介されるミュージシャンの最初に登場するのは現役バリバリのペーター・ブロッツマンである。1941年生まれのドイツ人リード奏者。彼には“サックスの破壊獣”というニックネームが献上されている。その意味するところを体感したい向きはすぐさま彼のHPにアクセスされたし。基本的には、現役のミュージシャンが俎上に上げられているが、ブロッツマンを含む『Part1:海外の歴史的巨匠』15名(組)の中にはデューク・エリントンを始め物故者も何人かいる。エリントンが選出されている理由は、「ポップを装っているが中身のあちこちに前衛性が」。同好の士としてセロニアス・モンクとマイルス・デイヴィスにも言及されているものの、エリントンで代表されている。ことほど左様に人選は小気味良いほど恣意的。Part 2は「現代のジャズ・シーンを支えるプレイヤー」19名。欧米中心だが、ひとり韓国のアルトサックス奏者・姜泰煥(カン・テー・ファン)が選出されている。因に姜泰煥に冠せられたキャッチは「どうやっとるのかさっぱりわからん」。Part 3は「日本のアーティスト」で29名。この19名、29名という半端な枠が大いに気になるところだが、あとの1名は読者のレコメンに委ねている、ということだろうか。であるとするなら、僕は「海外の歴史的巨匠」にセシル・テイラーを、「日本のアーティスト」に菊地雅章を加えたい。セシルは言わずもがな、菊地もつねにその姿勢、音楽は「前衛」であり続けており、影響力も内外に及んでいる。と、思わず脱線してしまったが、プレイヤーの紹介は極私的であるとはいえ、手際良く、具体性に富んでおり、このあたりが若手読者に支持されている所以だろうか。“永遠なる「噂の女」”藤井郷子、“度肝抜かれる凄い音”早坂紗知に加え、“フリージャズ+エロス”秘宝感を選出するなど女性への気配りも抜け目がない。
しかし、Part 2の劈頭を飾る“テナーの音が煮えたぎる”デヴィッド S.ウエアが昨年10月62才で急死してしまうなど、生きたジャズ・シーンを切り取る書物ほど、その鮮度を維持するのが難しい。NYダウンタウン・シーンでも若手が相次いで登場するなど近いうちに更新の必要に迫られるかも知れない。しかし、現時点ではフリージャズの現在に関心のある日本のファンの最大公約数を満たすガイドブックとしては格好の書といえるだろう。
なお、著者の田中啓文は1962年生まれの作家、ジャズ・エッセイスト。加えてジャズ・プロデューサーの沼田 順、ミュージシャンの吉田隆一など4名が執筆に参加している。

* 関連リンク
http://www.archive.jazztokyo.org/column/editrial01/v55_index.html
https://jazztokyo.org/reviews/books/post-6012/
https://jazztokyo.org/reviews/books/post-12963/

*初出 JazzTokyo #189 (2013.8.25)

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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