#061 星野秋男著「ヨーロッパ・ジャズ黄金時代」
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
書名:ヨーロッパ・ジャズ黄金時代
著者:星野秋男
発行:青土社
初版:2009年11月15日
定価:2,800円+税
腰巻きコピー:
ジャズ史にそびえる金字塔コアなファンのみならずクラブシーンからも注目のヨーロッパ・ジャズ。独特の美学・手法・サウンドを生み出し、空前絶後の隆盛を極めた全貌を、第一人者が満を持して世に問う本邦初の本格的解説書。歴史・国別・ミュージシャン別にその詳細を集大成。名盤・名演・問題作そして入門盤まで網羅の決定版。
ここ10年ほど、ヨーロッパ・ジャズの“ブーム”が続いているという。しかし、買われているのは耳当りの良いピアノ・トリオがほとんどで、あとはクラブ・ミュージックのファンが好みに応じてつまみ食いしている状況。
40年近くヨーロッパ・ジャズを研究してきた著者が願うのは“ヨーロッパ・ジャズ”の正しい理解と、“ヨーロッパ・ジャズ”の良さを知るための黄金時代に制作された名盤への熱い視線。
著者によれば、「ヨーロッパ・ジャズはアメリカのジャズとかなり異なる環境の中で発展し、クラシックや現代音楽だけでなく、それぞれの地域に固有な民族音楽や大衆音楽、さらにはユーロロックなどとも相互に影響を与え合っている」という。そして、本書で焦点の当てられた“ヨーロッパ・ジャズの黄金時代”とは、「最も創造的であり、同時代性を体現した」「六〇年代から七〇年代初頭まで」をいう。
著者が「初めてヨーロッパ・ジャズのアルバムを購入したのは一九七三年のこと」で、マクラフリンやジョン・サーマンを含む六枚だったが、その中には筆者がカタログ独占契約に先立って初めてECMと直接ライセンス契約を交わした4枚の中の1枚、テリエ・リプダルの『ソング・オブ・ノルウェー』が含まれていた!この『ソング・オブ・ノルウェー』というタイトルは筆者が国内発売にあたって名付けたいわゆる邦題であり、著者が購入したのはトリオレコードが製造・販売した国内盤と推察される。つまり、著者はオリジナル盤に執着するコレクターではなく、あくまで“聴く”ことを目的にアルバムを購入する愛好家もしくは資料としてアルバムを購入する研究家なのだ。著書の中でも「安い再発ものがあればそれでOK」と記されている。口絵にはファン垂涎の稀少盤が何枚も掲載されているがこれとてブームになる前に必要に駆られて妥当な値段で入手したものだ。
本書では、情報すら入手が困難であった時代にあらゆる手段を講じて収集した貴重な資料としてのアルバムを基に“ヨーロッパ・ジャズの黄金時代”が縦横に語られる。各国のミュージシャン別に、そして付随するディスク紹介。すでに一家を成したミュージシャンの数十年以上前の写真が微苦笑を誘う。
ヨーロッパ・ジャズに対する誤解や偏見を正そうとする著者の強い義務感に思わず襟を正したくなるファンも多いのではないだろうか。
1998 年に著者も係わって刊行された『ヨーロッパのジャズ・ディスク1800』(ジャズ批評社)が絶版になって久しい。ヨーロッパ・ジャズ・ファンには待望のガイドの刊行である。
*初出 JazzTokyo #130 (2010.1.26)