JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 43,841 回

BooksNo. 279

#109 『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

書名:『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』『Anthology of Open Music 1981~2000』
企画編集:ChapChap Records 末冨健夫 河合孝治
執筆者:末冨健夫 金野吉晃 河合孝治 齊藤聡 漆館登洋 川口賢哉 小森俊明 織田理史 近藤秀秋 牧野はるみ 田中康次郎 大木雄高
版元:TPAF
判型:B5半 ペーパーバック オンデマンド
初版:2021年6月16日
定価:2,497円(税込)

山口県防府市のちゃぷちゃぷレコードが企画制作するディスクガイド『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック』の 1981~2000年判。2019年10月に刊行された『1960~1980』年編に次ぐ20年間にリリースされた内外のアルバムから381枚を厳選、ジャケット写真にアルファベット表記のデータと日本語の紹介文が含まれる。判型がA5からB5にひとまわり大きくなり、フォントも大きくなったので読みやすい。
これは同ディスクガイド・シリーズの4冊目にあたる。熱心な読者はすでに承知の事実だが、このシリーズでは「1960~80」編が3冊刊行されている。2016年9月に刊行された『Free Music 1960~80』(赤い表紙の通称赤本)は、日本におけるフリージャズの泰斗・副島輝人 (1931~2014) を筆頭に中堅〜若手10人のエッセイと166枚のディスクの紹介を掲載。翌2017年1月に『Free Music 190~80』(ディスクガイド編)として刊行されたのが青い表紙を持つ「青本」である。「赤本」で紹介された166枚のディスクに新たに234枚を追加、400枚のディスクを紹介する続編が誕生したのだ。さらに、2020年1月、青本「ディスクガイド」に録音データを追加した決定版が刊行された。ちなみに3冊とも表紙に登場するミュージシャンはアート・アンサンブル・オブ・シカゴとアレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハである。
今回刊行された「フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』は、前記決定版をモデルに、表紙には時代を象徴するミュージシャンとして高木元輝とデレク・ベイリーを登場させた。1960~80の20年間をフリージャズの時代として捉えると、1981~2000年の20年間は、ポスト・フリー、ポスト・モダンの時代ということになる。口絵写真として登場するミュージシャンは、バール・フィリップスから高柳昌行まで25人。

今回特に目を引くのは、巻頭を飾るふたりの編者、末冨健夫と河合孝治による「ごあいさつにかえて〜即音・無分別」と題された対談である。末冨は冒頭、「前作の1960~80年はフリージャズと現代音楽の集団即興をメインにすれば、だいたい収まりがついたのでわかりやすかったけど、80年以降となるとジャンルも多様化し、セレクトするのは難しかった」と語っている。河合は「1980年〜2000年はポスト・モダンの時代、「新しさの終焉」「前衛の終焉」、などとよく言われたね、と受ける。さらに、「80年から2000年まではアナログからデジタルへの転換期だろうね。このふたりの20世紀後半の音楽概況を頭に入れながらディスク紹介を読み進めて行くと、この20世紀最後の20年間の「一様な音楽の流れでは捉えきれなくなった」音楽状況が眼前に芒洋と広がる。その大海に自分なりの航路を見出すための羅針盤となるのがこのディスクガイドの役割ではないだろうか。

https://qr.paps.jp/Evhu

♪ 関連記事
https://jazztokyo.org/reviews/books/post-13093/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください