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BooksNo. 286

Books #114「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

書名:「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生
(原題:Ron Carter Finding The Right Notes)
著者: ダン・ウーレット
訳者:丸山京子
判型:A5版
ページ数:584ページ
初版:2021/07/30
定価:¥3600+税
版元:シンコーミュージック・エンタテイメント
腰巻きコピー
ジャズ界を代表するベーシスト本人が全面協力の評伝、遂に邦訳!マイルスら多数の共演者とのエピソードから、自らの音楽論まで。独占最新インタヴューも掲載!
https://www.shinko-music.co.jp/item/pid0649583/


存命中のミュージシャンの評伝、しかもこれほどの充実した内容を持つ著作(キース・ジャレットのような例はあるが)の刊行は、極めて珍しいのではないだろうか。ロン・カーター (1937~) と言えば、誰もが真っ先に思い出すのは ハービー・ハンコック (p)、トニー・ウィリアムス (ds) からなる60年代マイルス・デイヴィスの 「ゴールデン・カルテット」での演奏だろう。さらには、ハンク・ジョーンズ (p)、トニー・ウィリアムス (ds)からなる「グレート・ジャズ・トリオ」。いずれも安定感のあるケレン味のない王道を行く演奏だった。それはロンがクラシックの演奏家を目指していたキャリアにも依るのだが、一方で、ロンがチェロからコントラバスに転向し、クラシックのコントラバス奏者からジャズ・ベーシストに転向せざるを得なかったアフリカン・アメリカン故の人種差別をも想起させるのだ。ロンのようなかけがえのない逸材をジャズ界が得ることが出来たといういわば不幸中の幸いをありがたく思うとしてもだ。
さて、本書の構成だが、プレリュード(大御所ナット・ヘントフが序文を書いている)から始まりパートVIIまで、章立てが第24章に付録が4まで。さらに、日本版の独自企画として村井康司による解説とロンへのインタヴューが付くというまさに至れり尽くせりの内容。基本的には、時系列に沿ったキャリアの紹介だが、ブレイクよろしくインタヴューや座談会が挿入されたり、パートVIではミュージシャンに捧げられた「ベースという楽器の技巧と科学」があるなどさまざまな配慮がなされ大部に関わらず倦むことがない。ラジオNIKKEIの名物番組「Taste of Jazz」で訳者の丸山京子が、「分量の大さになかなか手を付ける気になれなかったが、一旦訳し始めると面白くて仕事がはかどった」とコメントしていたが、読者にとっても同じこと。あまりの厚さにまず気後れしてしまうかも知れないが、とっかりとして興味を引くところから読み進めていくのもありだろう。ロン・カーターというまれに見る真摯なミュージシャンの充実した人生(人種差別という終生避け得ない苦悩を含めて)と実績から得られるものはかけがえのないものであるはずだ。ちなみに僕の場合は、まずはブレイク扱いの「公開ブラインドフォールド・テスト」に目を通した。彼の意見に唖然とし言葉を失ったが、気を取り直し、ロンがそのような音楽観を持つに至った経緯を知ろうと改めて本を手に取り直した次第(「ブラインドフォールド・テストが大好きで、Downbeatやスイングジャーナルを定期購読していたときは、新刊が届くと真っ先に読んでいた)。

♫ 発刊記念イベント・レポート@四谷・いーぐる(村井康司 x 池上信次)
https://www.musiclifeclub.com/news/20211012_04.html

なお、同じ版元からはロン・カーターとマーカス・ミラーをフィーチャーしたムック「jazz bass player Vol.5<シンコー・ミュージック・ムック>」が刊行されている。
https://www.shinko-music.co.jp/item/pid1633369/

♫ 関連記事(常盤武彦:ロン・カーターの想い出)
https://jazztokyo.org/column/post-73761/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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