#123『来日ジャズメン 全レコーディング 1931~1979
レコードでたどる日本ジャズ発展史』
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
書名:来日ジャズメン 全レコーディング 1931~1979〜レコードでたどる日本ジャズ発展史』
著者:小川隆夫
初版:2023年4月9日
版元:シンコーミュージック・エンタテイメント
体裁:A5版 736ページ
定価:3,500円+税
腰巻きコピー;
日本の地を踏んだ海外ジャズメンによる、《日本録音作品・レコーディング・イン・ジャパン》全443点を一挙総覧!
世界が注目したアルバムから知られざる名盤まで彼らが残した刻印は、永遠に消えないーー
コンサートなどで来日した欧米を中心とする海外ジャズ・ミュージシャンが、滞日中にスタジオやライヴで残しアルバム化された作品を網羅した1冊。50年代は主に来日公演だけで終わっていたが、60年代には日本人との共演が増し、70年代になると国際的なレヴェルに達した日本人と共演する機会も増えていく。これらを通し、本邦ジャズの発展史も併せて紐解く。
本書には日本の地を踏んだ海外ジャズ・ミュージシャンによる滞日中の「日本録音作品」全443点が収録され、すでに世界中のファンから注目を浴びた著名なアルバムから知られざる名盤まで、全作品のジャケット写真、詳細データ、筆者の解説までを含む。
Part 1 からPart 5に至るアルバム紹介に加え、ミュージシャン・リストと人名索引付き。日本におけるジャズ発展史上重要なのは70年代までとの著者の判断で収録は70年代までに限られている。ジャズ評論家小川隆夫の労作。
以上は筆者の文責になるJTに掲載されたニュース原稿である。その後、気になった点が2、3。ひとつはタイトルに使われた “ジャズメン”という言葉。現在は死語に近いと言って良いと思うが、女性来日ジャズ・ミュージシャンも含まれる本作のタイトルに相応しいかどうか。身近なところの反応では、「当時の雰囲気を伝えて良いのでは」という意見と、「耳にしたくない」、と極端に別れた。ちなみに、後者はジャズ系ミュージシャン。もうひとつは、記録にプロデューサー名が登場しないこと。承知のようにレコーディングのすべて、バンドの編成からスタジオ、エンジニアの選定、カメラマン、ケイタリング等々まで責任を負うのはプロデューサーである。日本の場合は、ハウス・プロデューサー、つまり会社の社員であるから予算立てをして会社の稟議を通し、録音が終了したら商品化、宣伝販促までをカバーする。とくに来日したミューシジャンのレコーディングは準備期間が短く、来日してから録音の話が持ち上がることも少なくない。会社と掛け合って予算を獲得できるかどうかプロデューサーの腕次第、ということになる。逆に言えばプロデューサーがいなければその録音はこの世に存在していないことになる。そういう意味で、この著書で取り上げられた443点すべての録音はプロデューサーの奮闘の歴史と言っても過言ではないだろう。通常、レコーディングの一つひとつにプロデューサーの名前が表記されているのはそのレコーディングのすべての責任をそのプロデューサーが負わねばならないからだ。但し、ここで言及した2点がこの労作の価値を損なうものではないことは言うまでもない。
ところで、筆者は1973年から旧トリオレコードで制作を始めたので今年で50年になる。海外からの来日ミュージシャンを起用してアルバム制作をしていた先輩プロデューサーには高和元彦、森山浩志などがおり、70年代に活躍した仲間には間章、磯田秀人、鯉沼利成、伊藤潔、伊藤八十八、川島重明、中尾洋一、田口晃、上野勉、五野洋など多士済済である。筆者のデビュー作は1973年5月の『セシル・テイラー・ユニット/アキサキラ』で、翌月には『ジャック・ディジョネット&デイヴ・ホランド/タイム&スペース』、その後7月に国内アーチストによる2枚組『インスピレーション&パワー フリージャズ大祭1』を挟んで、12月に『チャールス・トリヴァー・ミュージック・インク/ライヴ・イン・東京』を制作している。駆け出しプロデューサー、怖いもの知らずである。著者の小川隆夫はトリヴァーのアルバムの紹介文を「ジャズの財産を後世に残す大仕事をしたのがトリオレコードである。これは世界レヴェルの業績だ」と最大限の評価で結んでいる。当時、ECMの導入という大仕事と自社原盤の制作の掛け持ちでまったく家庭をかえりみる余裕などなく人生の危機に瀕していた筆者にとって50年後とはいえこの評価には救われるものがある。(文中の敬称を略します)