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BooksNo. 310

#129 藤田真央『指先から旅をする』

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

藤田真央『指先から旅をする』
株式会社文藝春秋、2023年12月6日
定価:2,200円(税込)  A5判カラー、272ページ
ISBN978-4-16-391784-9
文藝春秋社ウェブサイト

2023年夏、南仏プロヴァンスに初めて足を踏み入れた。ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティヴァルを初めて訪れるためだ。ラ・ロック・ダンテロンでの藤田真央リサイタルを楽しみにしながら、少しでも藤田を知りたいと読み始めたのが、「Web 別冊 文藝春秋」で2022年3月から月2回続けてきた藤田の連載『指先から旅をする』。つまみ食い的に読み始めたが、面白くて止まらなくなった。ラ・ロック・ダンテロンでの藤田真央のコンサートレポートはこちらをご覧いただきたい。

藤田真央は、1998年東京都生まれ、3歳でピアノを始め、東京音楽大学で学び、2017年クララ・ハスキル・コンクール優勝、2018年、チャイコフスキー国際コンクール第2位で注目を浴びる。世界の音楽祭、オーケストラから招聘され、若きスターピアニストの地位を確立している。現在は、ベルリン在住で、博物館島にあるハンス・アイスラー音楽大学でキリル・ゲルシュタインに師事。キリルはロシア出身で史上最年少でバークリー音楽大学に入学し、ゲイリー・バートンらに師事するがクラシックに転向したという経歴を持つ。藤田はヨーロッパを拠点に、全欧を巡り、アメリカへ、中東へ、日本へ旅を続ける。(左の写真: 小野祐次)

藤田は世界の名門オーケストラとの協奏曲演奏など多忙を極めながら、毎月2回(5日・25日)配信のハイペースで充実の文章構成力と内容に富んだ記事を書いてきた。「Web 別冊 文藝春秋」は、「note」の有料購読プラットフォームを使っていて、中南米音楽雑誌「Latina Online」同様だ。いくつかの記事を読んでいたが、藤田の観察眼、論理的思考能力、音楽と旅を愛し楽しむ姿に、感動し驚かされてきた。2022年12月には、連載と関連してライヴトークが行われたので、YouTubeでご覧いただきたい。

藤田真央ライブトーク「世界で弾く、世界を弾く」
〜「文藝春秋 100周年オンライン・フェス」より、2022年12月10日ライヴ配信

藤田と初めて言葉を交わしたのは、COVID-19直前の「ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント 2020〜ベートーヴェン」。このときのコンサートレポートはこちら。2023年8月に、南仏プロヴァンスのラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティヴァルに行くと、「Web 別冊 文藝春秋」の担当者 と、パリ在住のカメラマン小野祐次を含むチームが、藤田真央に同行していた。単行本『指先から旅をする』の表紙はラ・ロック・ダンテロンのフロラン城公園(Parc du Château de Florans)の並木道。ここに事務局の協力を経て並木道にピアノを持ち込んだもの。一見、合成写真に思えてしまうが、実はラ・ロック・ダンテロンでは日常的に農業用トラクターでピアノを牽引運搬しているために、こんな技が可能となっている。また修道院跡の写真、ステージの写真など、懐かしい風景がたくさん。撮影の瞬間に同席していたものもいくつかあって、その時の木々の匂いや風を思い出すほどだ。


L+R: ©Hideo Kanno

確かこの時点では、単行本化は決まっていないときいていた。連載『指先から旅をする』の正確で想いの込もった文章に感動していて、藤田にぜひ「単行本にして出版して欲しいです。」と伝えると「いやー、僕の文章なんかみんな読みたいですかね?」といつもの柔らかい笑顔で応える。「いやみんな読みたいに決まってますよ。」

実際、出版が予告されるとすぐに重版が決まった。このペースで書き続けると2冊目。3冊目の出版もそう遠くないだろう。團伊玖磨「パイプのけむり」、山下洋輔「ピアニストを、、」のような歴史に残る定番シリーズになるのかも知れない。若手の日本人クラシックピアニストの世界での活躍が著しいが、世界のマエストロに愛されて各地で熱狂的に迎えられているという点で、中でも藤田が抜きん出ている。ラ・ロック・ダンテロンでも藤田が意識、無意識に観客と空間と魂に届く音への探求を惜しまず楽しんでいる様子がわかった。これからも連載と単行本を通して藤田の世界の音楽の旅をともにできるという機会に感謝したい。まずは、1冊目を手に取って、藤田との旅を始めていただけたら幸いだ。

ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティヴァル 2023
2023年8月3日(木) 21:00
「藤田真央 / ショパン〜リスト」

Mao Fujita / Chopin – Liszt
Parc du Château de Florans, La Roque d’Anthéron
Chopin:
Deux Polonaises opus 26
Deux Polonaises opus 40
Polonaise en fa dièse mineur opus 44
Polonaise en la bémol majeur “Héroïque” opus 53
Polonaise-Fantaisie en la bémol majeur opus 61

Liszt : Sonate en si mineur

菅野よう子 Yoko Kanno: 花は咲く Hana Wa Saku
藤田真央 Mao Fujita: パガニーニの主題による変奏曲 Variations sur un thème de Paganini

コンサートレポートはこちら


L+R: ©Pierre Morales

ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティヴァル 2020 予告映像

Mao Fujita’s EXCLUSIVE INTERVIEW at the 2023 Verbier Festival

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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