#1290 『Renee Rosnes / Written in the Rocks』

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text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

Smoke Sessions Records SSR-1601

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Renee Rosnes (p)
Steve Nelson (vib)
Peter Washington (b)
Bill Stewart (ds)
Steve Wilson (fl,1,2&3, ss 1&7, as 6&9)

The Galapagos suite
1.The KT Boundary
2.Galapagos
3.So Simple a Beginning
4.Lucy from Afar
5.Written in the Rocks
6.Deep in the Blue (Tiktaalik)
7.Cambrian Explosion
8.From Here to a Star
9.Goodbye Mumbai

Recorded by Chris Allen at Sear Sound Studio C, NYC on June 15 & 16, 2015.
Produced by Paul Stache

アッパー・ウェスト・サイドのジャズ・クラブ“Smoke”のオーナー、ポール・スタッシュが主催するSmoke Session Recordsが、精力的にアルバム・リリースを続けている。アコースティック・レコーディング・サウンドでは定評の高いシェア・サウンド・スタジオでライヴでレコーディングし、CD、重量盤LP、ハイレゾ・ダウンロードの3つのメディアを、ダウンロードと通販、Smokeの店頭でのみ販売というスタイルが2年をかけて定着してきた。今回もSmokeの常連出演者のリニー・ロスネス(p)を起用し、スティーヴ・ネルソン(vib)、スティーヴ・ウィルソン(as,ss,fl)、ピーター・ワシントン(b)、ビル・スチュアート(ds)ら彼女の長年の盟友達でサイドを固めた。

夫君のビル・チャーラップ(p)と並んで、繊細なタッチを持つリリカルなスタンダード・ソング・プレイヤーという印象が強かったリニー・ロスネスだが、本作ではコンセプチャルなオリジナル組曲“Galapagos Suite”に挑んでいる。カナダのブリティッシュ・コロンビア州のヴァンクーバーの郊外で育ったロスネスは、幼少時から、渓谷と太平洋の荒波の風景に囲まれて育ち、大自然の営みから多くのインスピレーションを得てきたと語る。アルバムは、恐竜が絶滅した大隕石落下の“The KT Boundary”で幕を明ける。ダーウィンの進化論に大きな影響を与えた“Galapagos”、単細胞生物の誕生をバラードにした“So Simple a Beginning”までの3曲のシークエンスは、ネルソンのヴィボラフォン、ウィルソンのソプラノ・サックス、フルート、ロスネスのピアノがドラマティックなサウンド・レイヤーのアンサンブルを聴かせ、ワシントン、スチュアートのリズムが大きくうねる。エチオピアで発見された318万年前の二足歩行を始めた人類の祖と考えられる化石人骨ルーシーに捧げた“Lucy from Afar”は、ロスネスとネルソンのインタープレイが美しい。タイトル曲の“Written in the Rocks”は、生命は海の下の岩石の上から始まり、それは化石として記録されていること。また初期の文字記録と言われるロゼッタ・ストーンを、ミステリアスなバラードで描いている。海から陸へと移動した両生類の元祖とも言われるティクターリクの出現を告げる“Deep in the Blue (Tiktaalik)”では、軽快なスウィングにのって、ウィルソンのアルト・サックスが、そのユーモラスな動きを表現する。そして生物が多様化して現在の動物相が完成したと言われるカンブリア爆発を表す“Cambrian Explosion”で組曲は終わる。リニー・ロスネスは、長年の友人のカナダ人の学者ディノ・ロサティとの会話からインスパイアされてこの組曲を完成させたそうである。進化論を提唱したチャールス・ダーウィンも、毎日チャペルでコラールを歌い、妻がピアノで奏でるセレナーデに癒されていたという。このジャズ・ヴァージョンの進化論を耳にしたら、どのような感想を述べるか、想像は広がる。

エンディングの2曲“From Here to a Star”は、“How Deep is Ocean”のコード進行を借用した曲で、ロスネスの卓越したスタンダード・ソング解釈が、垣間見える。リズム・チェンジ“Goodbye Mumbai”、実母のルーツであるインドを初めて演奏で訪れた2013年の体験から生まれた軽快なビバップ曲で、エンディングを飾る。

Smokeでのリリース・ギグの最終日の初日では、スティーヴ・ウィルソンは参加せず、ドラムスはレニー・ホワイトだった。ファースト・セットはウォーム・アップだったのか、スタンダード・ソング中心のセレクションだった。ぜひ次回はGalapagos Suite全曲を、ライヴで体感したい。

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写真は2/7/2016@Smoke.NYC

常盤武彦

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。

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