#1299 『アフリカン・ドリーム/明田川荘之~楠本卓司~本田珠也』
text by 望月由美 Yumi Mochizuki
AKETA’S DISK MHACD-2648 価格2,667円+税
発売:(株)アケタ
販売:(株)メタカンパニー
明田川荘之(Piano, Ocarina)
楠本卓司(Drums)
本田珠也(Drums)
1. アフリカン・ドリーム(明田川荘之)
2. テネシー・ワルツ(Pee Wee King、Redd Stewart)、
3. セント・トーマス(Sonny Rollins)
4. エアジン・ラプソデー~ブルー・モンク(明田川荘之~Thelonious Monk)
プロデューサー:明田川荘之
レコーディング&マスタリング:島田正明
録音:2015年3月9日 西荻アケタの店にてライヴ録音
ピアノとツイン・ドラムという異色の顔合わせがホットでスリリング、三者入り乱れてのリズムの応酬の中からセンチメンタルなアケタのオーラが湧きたっている。
ツイン・ドラムと云えば「クルーパ&リッチ」、「リッチ&ローチ」、「エルヴィン&フィリー・ジョー」など数々の名演が残されているが、全てホーン入りで2台のドラムとピアノだけというのは滅多に聴けない「西荻アケタの店」ならではの顔合わせである。
通常、ドラムが2台いればさぞかし派手なドラム合戦が展開するはずであるが、この夜のセッションは全曲ともアケタのピアノが主導、アケタ色の濃い演奏である。
ジャケット裏面のステージ写真を見るとステージ向かって左に本田珠也、中央に楠本卓司、右手にアケタのピアノという配置で、このジャケ写を見ながら聴くと当夜の演奏ぶりが頭の中に広がる。
<ジャズはドラムだ>というのは辛島文雄(p)の持論である。ジャズはリズム、スイングすることが基本だということを示しているがアケタ、楠本、珠也の3人も正にリズムのかたまり、ここにはリズムの響演が繰り広げられている。
アルバム・タイトル曲の(1)<アフリカン・ドリーム>はアケタの代表曲の一つで、これまでも『明田川荘之&枕/マジック・アイ』1999、『ライフタイム/明田川荘之・斎藤徹DUO』2005、『マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ/アケタ・ミーツ・片山広明』2010、『ライヴ・イン・函館「あうん堂ホール』2013 (いずれもアケタズディスク)とたびたび録音しているアケタの愛奏曲でツイン・ドラム相手という変則トリオであってもアケタのオーラが充満している。アケタのロング・ソロのあと、二人のドラマーの会話が始まる。ここにはリッチ&ローチの派手さやエルヴィン&フィリーの重厚さとはちがったグルーヴがある。二人の対話は穏やかだが時おり激しさも垣間見せる。
楠本卓司はかつて一緒にプレイしていた本田竹広(p)の子息、珠也との共演、しかもドラム同士という奇遇に思いをはせながら、しかし容赦なくパワーを見せつける。
一方の本田珠也は先輩であり、父、竹広のメンバーだった楠本にリスペクトするかのようにスティックさばきも鮮やかにビシバシとスイングする。二人はテクニックを競い合うと云うよりは対話を楽しんでいるようである。ツイン・ドラムがバッキングでもソロ交換でも面白い結果を生み出すこともあるということを二人は示している。
(2)<テネシー・ワルツ>はアケタがパテイ・ページや江利チエミ、綾戸智恵などの歌唱で親しんだ懐かしい流行り曲を独特の唸り声によってアケタの色に塗り替える。
ピアニストがピアノからでる音のイメージに合わせて発する唸り声はバド・パウエルやキース、菊地雅章がよく知られているがアケタの唸り声はいまやアケタ・ミュージックの基盤となっており、掛け声の域を超えている。
アケタはアメリカ南部のテネシーを西荻の哀愁にのせて弾く。と同時にピアノ以上にアケタの唸り声がテネシーの主役である。
(3)<セント・トーマス>もアケタの愛奏曲の一つ。自らのオカリーナ工房で作った「アケタオカリーナ」をフィーチャーする。アケタのステージでは欠かせないレパートリーでこれまでにも『わっぺ』1991、『パーカッシブ・ロマン』2004、『ライフタイム』2005 などで演奏を残しているがどのアルバムもオカリーナをフィーチャーしている。
ジャズ・オカリーナのパイオニアを自称しているだけあってアケタのオカリーナは時には日本の童歌のように、そして時にはアフリカンフルートのように、そしてときにはバロックのブロックフレーテのように素朴な温もりをたたえる。そしてさらにジャズのグルーヴを加えロリンズのセント・トーマスをしっかりと自分のオカリーナ曲にしてしまっている。
(4)<エアジン・ラプソデー~ブルー・モンク>はアケタとモンクのメドレーで、始めの<エアジン・ラプソデー>はこれまでにも『エアジン・ラプソデー』1987、『わっぺ』1992、『パーカッシブ・ロマン』2004 などに録音しているアケタの十八番で、ここでいう「エアジン」はロリンズのではなく横浜のライヴ・ハウス「エアジン」を指す。
ゆったりとしたピアノのカデンツアからインテンポに入ると、曲名はとっさに思い出せないが子供のころ耳に馴染んだ童謡のメロディーを次々と弾き始める、ブルージーでノスタルジックだ。二人のドラムがアケタのピアノに呼応してリズムを刻み、ついには三者入り乱れてソロの応酬を繰り広げる。メリハリの効いたダイナミックな珠也にパワーで押し切る楠本、ひじ打ちを交えて二人を迎え撃つアケタ、その場に居合わせなかったことが悔やまれるほどのクライマックス・シーンである。
これまでにアルバムを出すたびに自己ベストの演奏を更新してきたアケタこと明田川荘之であるが本作『アフリカン・ドリーム』(AKETA’S DISK)にもアケタのベストが記録されている。