JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 3,469 回

CD/DVD DisksNo. 315

#2331 『Otomo Yoshihide and Chris Pitsiokos / Uncanny Mirror』
『大友良英&クリス・ピッツィオコス / 不気味の鏡』

text by 剛田武 Takeshi Goda

CD/DL  Eleatic Records ELEA-007

Otomo Yoshihide: turntables and guitar
Chris Pitsiokos: laptop computer and alto saxophone

1. Original Glitch
2. Slow Glitch
3. Squeak 1
4. Old School
5. Dedicated to
6. Lava Flow
7. Wahoo!
8. Warming up in Cerkno
9. Schritt für Schritt
10. Squeak 2

Tracks 1 3, 4, 5, 6, 7 recorded on May 22, 2023 at Café Oto in London, UK
Tracks 2, 8, 9, 10 recorded at Jazz Cerkno, Slovenia on May 18, 2023

Mixed by Chris Pitsiokos
Mastered by Carlos Quebrada

Album art and design by Katharina Huber

http://www.chrispitsiokos.com/

進化する即興デュオの限界点超えのコラボレーション。

大友良英とクリス・ピッツィオコスの共演アルバム第一弾『Live in Florence』は2020年5月にAstral Spiritsレーベルからカセットテープでリリースされた。2018年5月イタリア、フローレンスでのTempo Reale Festivalのライヴ録音で、大友のターンテーブル&ギターのノイジーなパルスとピッツィオコスのサックスのシャープな刃が、エレクトリカルに触発し合う真剣勝負のスリリングな即興コラボ作だった。

それから何度か共演を経て、2023年5月のヨーロッパ・ツアーでのスロベニアJazz CerknoとロンドンCafe Otoに於けるライヴ録音からなる2作目の共演アルバムがピッツィオコス自身のレーベルEleatic Recordsから発表された。当然ながら前作に満ちていた「寄らば切る!」といった殺気立った空気は消え失せて、お互いの手の内を知ったうえで新たな音の構築を模索する協調性が感じられる。10曲中8曲で聴ける大友のターンテーブルの多彩なプレイが印象的で、レコードから再生するサックスの音が生々しすぎて、まるでサックス奏者が二人いるように聞こえる瞬間もある。ピッツィオコスのアルトサックスをラップトップで変調させたサウンドが、逆に大友のターンテーブルから出ていると聞き違える場面も少なくない。実際のライヴで大友がギターよりもターンテーブルをメインで演奏したのか、それともアルバムの選曲段階でターンテーブル演奏が多く選ばれたのかはわからないが、楽器の特性を超越した音像が、二人のコラボレーションの進化を際立たせていることは確かである。

今年2月に発表された4チャンネル・ソロ・パフォーマンス作『Irrational Rhythms and Shifting Poles』(⇒Disc Review)で数学理論に基づいた音の生成方法を具現化してみせたピッツィオコスにとって、アルトサックスは音楽を演奏するためだけの楽器ではなく、自分の頭の中にある現実世界に存在しない新たな音のイメージを具体化するための装置であり兵器であり手段だと言えるだろう。存在しない音のイメージを分かち合う相手として、本来音楽を再生する装置であるレコードプレーヤーを、聴いたことのない音を創造する楽器として駆使するターンテーブル奏者こそふさわしい。そしてギターとターンテーブルとを区別せず、先鋭的な感性で鳴らす術を熟知した大友こそ、最も理想的なパートナーだろう。

人々は人間のような性質を持ったロボットやA.I.に好感や共感を抱くが、あまりに人間に近づきすぎると逆に違和感・恐怖感・嫌悪感・薄気味悪さといった負の要素を感じるようになる。そのように共感度が正から負へ転換する限界点は「不気味の谷(Uncanny Valley)」と呼ばれる。アルバム・タイトルの『Uncanny Mirror(不気味の鏡)』とは、大友とピッツィオコスの音が鏡のようにお互いを映し合いながら交じり合って、どちらがどちらか区別できない混沌状態に陥る限界点を意味するのかもしれない。しかしそれはロボットやA.I.ではなく、感情を持つ生身の人間が奏でる生命の音だから、限界点を超えた途端に共感度が急降下することは有り得ない。逆に「不気味の鏡」を超えることで二人の、そしてリスナーのシンパシーが増大する。そんな分析に基づいたピッツィオコスの自信のほどがうかがえる命名である。

9月からスタートする大友とピッツィオコスの日本/アジア・ツアーで、進化し続ける二人の限界点越えのコラボレーションを直接体験できることは、2024年即興音楽シーンのハイライト、つまり不気味の谷ならぬ「明快な頂点」となるに違いない。(2024年7月1日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください