#2351『よしだゆうこクインテット(DAZZ DAZZ) / Blue Glow』
Forward Records FRW-1221 ¥2,500(税込)
DAZZ DAZZ (Yuko Yoshida Quintet):
よしだゆうこ Yuko Yoshida (piano, composition)
有本羅人 Rabito Arimoto (trumpet, flugelhorn, bass clarinet)
當村邦明 Kuniaki Tomura (tenorsax)
畠山令 Ryo Hatakeyama (contrabass)
齋藤洋平 Yohei Saito (drums)
1. 10×10stories
2. Blue glow
3. Whirlwind
4. Flushing
5. Twin dolls
6. Cubism
7. Softly as in a morning sunrise (Sigmund Romberg)
8. Golden
9. Parthenope
(All music composed and arranged by Yuko Yoshida except for No.7)
Recorded and Mixed by万波幸治 Koji Mannami, 岸本宏美 Hiromi Kishimoto
Assisted by 小寺拓望 Takumi Kotera
Recorded at Sanwa recording studio on April 24-25 in 2024
Mastered by 万波幸治 Koji Mannami
Cover Art Yuko Yoshida
Produced by よしだゆうこ Yuko Yoshida
text by Ring Okazaki 岡崎 凛
『Blue Glow』は関西拠点のピアニスト、よしだゆうこが率いるクインテット、DAZZ DAZZのデビューアルバム。タイトルは恒星シリウスの和名である”青星”に因むのだという。「ジャズの伝統を大切にしながら、新しくも個性のある音楽の創作」を目指す彼女の作品らしく、現代的でありながら、古きジャズの香りも漂う。當村邦明(sax)と有本羅人(tp, bcl)が味わい深いソロを繰り出し、リズム隊の畠山令(b)と齋藤洋平(ds)はバンドの屋台骨のように頼もしい。よしだゆうこの透徹した美意識がアルバムの隅々にまで感じられる作品であり、丁寧に練り上げた楽曲を収めて、ぎっしりと中味が濃い。
2人の管楽器奏者(當村邦明と有本羅人)にはフレッシュな個性派という印象があり、このクインテットの大きな魅力となる。この2人の共演は何度か聴いたことがあったが、今回のようにきっちりとしたジャズ曲を演奏するクインテットのフロント二管として聴くのは初めてだった。白熱するテナーサックスのソロが不定形に漂いながら高音部に突入していくと、続くトランペットは冷静に状況を受け止めるような反応をしたり、あるいはサックス同様に激情を滲ませたりと、二つの楽器の対話がヴァリエーション豊富で、興味は尽きない。
本作の公式リリースの少し前の2024年9月15日、大阪市の放出(はなてん)駅に近いジャズ喫茶ディアロードでDAZZ DAZZのライヴを聴いた。ピアニストでリーダーのよしだゆうこを聴いたのはそのときが初めてだった。他の4人はそれまでに生演奏を聴いたことがあったのだが、彼女に出会う機会はなかった。そして、これほどの実力者を知らずにいたのかと反省した。
(from left: Kuniaki Tomura, Yohei Saito, Yuko Yoshida, Ryo Hatakeyama, Rabito Arimoto at Jazz Cafe Dear Lord in Osaka, photo by Ring Okazaki)
本作の楽曲について感じたことなど:
よしだの作る曲に、まずは硬派のコンテンポラリージャズの最前線という印象を受けたが、昔ながらのリリカルなハードバップジャズに現代性を移植したような曲には、情感のこもった魅力的なメロディーが息づいている。アルバムの最初の3曲には、特にこうした特徴があると思う。(楽曲について自分の書くことは、印象批評の域に留まるので、近年のジャズに詳しい人にもっと掘り下げた解説をしてもらえればと期待している)
1.〈10×10stories〉は、よしだゆうこにとってとりわけ大切な曲なのだろうと感じる。本作のアルバムジャケットはよしだ自身のデザインであり、「10階建ての建物の中に”空”のコラージュをしました」という説明があったので、この曲を象徴するものだと思う。アルバムの入口にふさわしい瑞々しい曲であり、全力で音楽に取り組むピアニストのファイティング ・スピリットを感じる。
2. 〈Blue glow〉はシリウスの輝きをテーマにした清々しくも重厚なタイトル曲。うねうねとした當村のサックスソロはアルバム前半でひと際異彩を放つ。
3.〈Whirlwind〉では ピアノのソロパートがじわりと熱を帯び、サックス當村のソロに続く。彼のやや粘っこいソロがここでも功を奏し、有村の爽快なトランペットとの対比が面白い。
4.〈Flushing〉はメロディーが美しく力強い曲で有本のミュートトランペットが爽快で心地よく、それに続く畠山令のベースソロの語り口が味わい深い。
5曲目にはセロニアス・モンク愛好家だという彼女らしい曲〈Twin dolls〉がトリオで演奏される。モンクの曲に現代風のリズムを加えたようなオリジナル曲。その後はダークな雰囲気がクインテットを覆う。
6.〈Cubism〉では、有本羅人によるバスクラリネットの奇妙な音づかいがいい味を出し、畠山令のアルコベースをはじめ、全員が不穏なムードの本曲を盛り上げていく。この曲のダークな仕上がりは、次の7.〈Softly As In A Morning Sunshine〉につながっていく。
オリジナル曲中心のアルバムで、唯一のスタンダード曲を演奏するも、ダークさを前面に出し、どこかスピリチュアル・ジャズ風である。おそらくこのクインテットの真骨頂を味わうのが本曲だと感じる。アレンジが秀逸で、管楽器の二人の没入感が圧倒的に高まる。よしだゆうこの楽曲はどれも丁寧に作り込まれ、スリルに満ちるが、5人の野性味もダークな魅力もマックスに引き出されたのはこの曲だと感じる。このシグマンド・ロンバーグによる著名なスタンダード曲〈Softly As In A Morning Sunshine〉には「朝日のごとくさわやかに」という邦題がついているのに、DAZZ DAZZの演奏では全く爽やかさがないという辛口のユーモアにも共感する。この曲では、微かな「シンセ音」があちこちに漂い、神秘的な雰囲気が生まれている。(ここでの「シンセ音」はピアノにつないだエフェクターから流れてくる音であり、シンセサイザーを使った音ではないとのこと)
8.〈Golden〉では、冒頭のトランペットソロに、悲しみを湛えながらそれを乗り越えるような力強さを感じる。その後静かに語り始めるようなピアノの音が美しく、5人が静かに、リリカルに曲をまとめ上げていく。
最終曲に選ぶのが甘く心地よいバラード、とはならないところがこのクインテットらしく、ハードボイルドな映画に似合いそうなクールな曲、9.〈Parthenope〉で締めくくる。齋藤洋平が乾いた音で叩くドラムのリズムが本曲の要となる。
最初に書いた通り、畠山のベースと齋藤のドラムがクインテットの屋台骨の役割を担い、5人が自由に動き回る環境を整えていて、頼もしい。それはジャズクインテットの基本形ではあるかもしれないけれど、DAZZ DAZZではとりわけチームプレイの良さを感じる。
DAZZ DAZZ 『BLUE GLOW』
<よしだゆうこ略歴>
吉田優子 (よしだゆうこ) ピアニスト、作曲家
高等学校卒業後、ヤマハ音楽院大阪に入学。 理論、和声、作曲法、オーケストレーションなどを含めClassic、Pops, R&B, Jazz, Latinなど様々な音楽を学ぶ。 在学中に無限大の可能性を持つピアノの音に魅了されピアノに転向。 卒業後、Jazzの生演奏を聴いて衝撃を受けJazzに傾倒する。
2009年NYに単身短期渡米Jason Moranに師事。
2012年Bucharest International Jazz Competitionにてセミファイナリストに選出されEurope Festに出演。
2013年Kanazawa Jazz Competitionにて準グランプリ獲得。
2014年Forward Recordより自己アルバム。 Yuko Yoshida Trio”Tickle”を発売。
音楽雑誌”Jazz批評”でとりあげられ多方面で好評を得る。 東京、名古屋、京都、大阪にてCD発売ツアーライブを行いフランス、韓国と海外での演奏も大成功に収める。
2015年世界最大級の作曲コンペティションInternational songwriting competitionにて”Tickle”がセミファイナルに選出される。
2017年ドイツPinneberg Jazz Festivalに出演。
かねてから興味を持っていたブリティッシュジャズを学ぶ為、短期渡英。
現在よしだゆうこトリオ、よしだゆうこグループDazz Dazz、デュオユニットotoiloなどで演奏活動中
(ジャズ喫茶ディアロード、ホームページ記載内容(2022年3月)を一部編集)
文中の敬称は略させて頂きました。