# 1030 『山中千尋/モルト・カンタービレ』

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ユニバーサルミュージックUCCJ-2111 2800円(税込)
text by 丘山万里子

山中千尋 (p, melodica)
ベン・ウィリアムス (b)
ジョン・デイヴィス (ds)

1.前奏曲作品40の1(8つの演奏会用エチュードから)/カプースチン
2.トルコ行進曲/モーツァルト
3.ハノン・ツイスト/山中千尋
4.奈ポレオン応援歌/三宅榛名
5.カンタービレ/山中千尋
6.愛の夢第3番/リスト
7.夢のあとに/フォーレ
8.熊蜂の飛行/リムスキー=コルサコフ
9.エリーゼのために/ベートーヴェン
10、即興曲第15番<エディット・ピアフを讃えて>/プーランク

録音:2013年4月 ニューヨーク
エンジニア:ブライアン・モンゴメリー
マスタリング:グレッグ・カルビ

桐朋音大からバークリーに進み、ニューヨークを中心に活躍するピアニスト、山中千尋の新作。メンバーはセロニアス・モンク・コンペティションで優勝したベーシスト、ベン・ウィリアムスとニューヨークを拠点とする若手ドラマー、ジョン・デイヴィス。
山中自身のルーツであるクラシックの名曲のアレンジがずらりと並ぶ。『トルコ行進曲』『ハノン・ツイスト』『愛の夢』『エリーゼのために』など、超ポピュラーな曲をどう弾きこなすのか興味津々だったが、一番楽しめたのは『ハノン』であった。というのも、筆者自身、子供の頃、嫌でたまらなかった機械的な指の練習曲ハノンがこんなにウキウキと楽しく弾けるなんて!というリアルな驚きが大きかったからだろう。疾走する音型にまたがりながら手綱を繰る快感は、辛かった練習の日々へのしっぺ返しみたいで、なにやら痛快である。『トルコ行進曲』は、崩された調性のひとひねりしたメロディラインの間から、モーツァルトのいたずらっぽい眼差しがのぞくようで異彩を放つ。山中のアレンジ・センスの光るところだ。シンプルなメロディが浮かぶ三宅榛名『奈ポレオン応援歌』、オリジナルの『カンタービレ』は文字通りカンタービレで美しい。『愛の夢』は、まったり系かな、という予想に反してリズミックな扱いが新鮮。ベースのイントロから入る『エリーゼのために』も意外性に富む。最後のプーランクはメロディカがいい味を出している。ただ、続けて聴いていると、ある種のパターン化も感じられ、全体の組み立てにもう一工夫欲しいな、と思う部分も。リストやフォーレなどに、あとひとはけ色彩の変化が加わればもっとメリハリの効いた一枚になったろう。(丘山万里子)

*初出: JazzTokyo 2013.9.29


丘山万里子 Mariko Okayama
東京生まれ。桐朋学園大学音楽学部作曲理論科音楽美学専攻。音楽評論家として「毎日新聞」「音楽の友」などに執筆。2010年まで日本大学文理学部非常勤講師。著書に『鬩ぎ合うもの越えゆくもの』『からたちの道 山田耕筰論』(深夜叢書)『失楽園の音色』(二玄社)、『吉田秀和 音追い人』(アルヒーフ)、『波のあわいに』(三善晃+丘山万里子/春秋社)他。東京音楽ペンクラブ会員。

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