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CD/DVD DisksNo. 325

#2378 『関谷友加里 (Yukari Sekiya) / DUETS Till Now、From Here [2CD]』

text & photo by Ring Okazaki 岡崎凛

Umishima Records [USM001] ¥4,000(+tax)
release date: April 23, 2025

Yukari Sekiya (piano)関谷友加里 with
Taiichi Kamimura (soprano&tenor sax) かみむら泰一〔Disc1-5/Disc2-3〕
Tsutomu Takei (soprano&tenor sax) 武井努〔Disc1-7/Disc2-8〕
Yuzumi Tanimukai (voice)谷向柚美〔Disc1-6/Disc2-5〕
Suomi Morishita (guitar)森下周央彌〔Disc1-2/Disc2-7〕
Michihiro Morisada (bass)森定道広〔Disc1-4/Disc2-4〕
Megumi Otsuka (bass)大塚恵〔Disc1-8/ Disc2-1〕
Masaki Kai (bass) 甲斐正樹〔Disc1-3/Disc2-6〕
Jin Mitsuda (drums)光田じん〔Disc1-1/Disc2-2〕

Disc1 / Till Now (53:28)
1. Nobody Is There 8:29
2. Avaruutta 5:49
3, Last Spring Days 6:29
4. Forest Valley 7:06
5. Happa 5:48
6. Umishima 4:47
7. Canja 6:42
8. Room 401 8:18

Disc2 / From Here (48:58)
1. Your Voice 6:19
2. In Touch 6:09
3. Eupnoea 7:35
4. Monochrome 4:42
5. Sigh A 5:30
6. Calm House 6:59
7. Octopus Blues 5:42
8. The Circle of Humming 6:02

Credits:
Recorded at SpinniNG MiLL in Sakai City,Osaka on May11&12,2024
Recorded & Mixed & Mastered:Katsuya Minamikawa 南川勝哉(K.station)
Recording Direction : Suomi Morishita 森下周央彌
Piano Tuning : Yuko Suzuki 鈴木優子
Cover Drawing : Yuka Iwase 岩瀬ゆか
Artwork Design : Kei Sumiya ⻆谷慶 (Su-)
Photography & Video : Kaori Tamagaki 玉垣香織
Video Editor : Shunpei Ito 伊藤シュンペイ
Produced by : Yukari Sekiya 関谷友加里


<14年振りとなる関谷友加里のリーダー作>
何年か前から、いつ出るのだろうかと待っていた関谷友加里のセカンド盤は、デュオアルバムだった。それも総勢8人の音楽家と組む2枚組である。この数年、関谷はデュオ企画に積極的に取り組んでいた。本作に参加するサックス奏者、武井努とは、月に一度、平日昼間のデュオライブを開催している。ふだんから、さまざまな音楽家とデュオを組んで活動してきた彼女は、本作では、関西在住、もしくは関西と縁の深いメンバーとともにレコーディングを進めていった。そうしたアルバム制作の様子は、インスタグラムやYouTubeなどを通じてウェブ上に一部公開されている。

関谷友加里のこうした取り組みのハイライトシーンをアルバムで再現し、個性豊かに仕上げていく、というのが本作のメインストーリーだろう。関谷のレパートリーは多岐に渡るが、特筆すべきはその前衛性である。穏やかにブラームスの子守歌を奏でるかと思えば、激しいフリー・インプロヴィゼーションに没入していく。親しみやすい優雅なメロディーのすぐそばに、フリージャズや即興音楽への入り口があり、そこからするりと異世界へ抜けていく。

多様性はあるけれど、何でも演奏するタイプの人ではない。ジャズ・スタンダード曲を演奏する場合も、どこか「関谷流」である。本作では全曲が彼女のオリジナルであり、アレンジも彼女が担当する。アルバム全体的に緩急織り交ぜた構成であり、楽曲にはさまざまな「紆余曲折」が内包されていく。本人の公式ホームページでは「うねりと間を活かした独自の演奏スタイル」という言葉を使ってその作風を紹介している。

楽曲に光と影を宿らせて、ディテールを丁寧に描き、ごく自然な流れをたどるピアノの音に心が和むのも、関谷作品の楽しみの一つだ。だがその一方で、不安定な心にじわりと迫る曲がリスナーの心を揺さぶる。時には冒険心に満ちたアプローチ、狙いを定めたクールな一撃。それも彼女らしさである。

アルバム全体に派手さは抑えられ、落ち着いた色合いを感じる。時には優美なクラシックピアノのような旋律に迎えられる。そして、研ぎ澄まされた音の響きが、無音との境界をしっかり際立たせる瞬間が、幾度となく訪れる。そこにピアニストの才気が溢れている。

関西での活動をメインにしてきた関谷友加里は、中部、関東での公演も増えてきたようだ。いい意味でのローカル色を大切にしながら、インターナショナルな視点で制作された本作『DUETS Till Now、From Here』をリリースし、今年、2025年は、彼女にとって飛躍の年となるだろう…
と、ついここで飛躍の年という言葉が浮かんだが、そんな月並みな賛辞は必要ないのかもしれない。関谷の飛躍はすでに始まっており、熱心な音楽愛好家たちが彼女に注目している。

<SPinniNG MiLLという場所に宿るもの>

Building of ’SPinniNG MiLL’ in Sakai City (May 30, '23)
Building of ’SPinniNG MiLL’ in Sakai City (May 30, ’23)

音楽家が選ぶレコーディングの場が、生まれてくる作品に大きく関わるのは当然なのだが、音響面だけではなく、建物の佇まいや室内の床や壁といったもの全てが、音楽家にアイデアやインスピレーションを与えることもあるのだろう。

現在イベントホールなどとして使われているスピニングミル(SPinniNG MiLL)は、遠い昔には紡績工場の社屋として使われていた。一階の入口から傾斜のきつい階段を上がると、広い空間が広がる。内装にレトロな雰囲気があり、コンサート会場として人気がある。YouTubeなどで公開されている本作のレコーディング風景は、開放感のある明るい室内での撮影だった。

本作は8人の音楽家が、それぞれのキャラクターを表出しながら演奏するオムニバス映画のような作品である。録音場所であるスピニングミル(SPinniNG MiLL)には「ロケ地」という趣がある。録音については、楽器から自然に広がる音を丁寧に追って、現場を記録する、という印象を受けた。映画風に言うなら、ロングショットで撮る手法も織り交ぜており、サックスの音の伸びやかな広がりは遠い風景を見るようだ。その一方で音のディテールを間近に見るような録音もあり、ギタリストの指使いを想像した。

<共演者たち>

本作の共演者たちはこれまで関西でのコンサートで聴いたことのある人ばかりだった。ただし、かみむら泰一は関谷との共演では聴いていない。他の7人はデュオまたはトリオで聴いている。とにかく、全員がこの数年で関心を高めてきた音楽家たちである。贔屓目なしに、世界から注目を浴びてほしいと願う8人である。

彼らについては、個人的に語りたいことがたくさんあるが、それを語るよりも関谷自身の言葉を読むほうが、本作のエッセンスにダイレクトに触れられると思う。関谷友加里が受けたインタビューや、本人のインスタグラムに載るコメントがとても興味深かったので、そちらを読むことをお薦めしたい。

以下は、彼女自身の言葉をインスタグラムから引用したもの(編集あり):

①かみむら泰一 (soprano&tenor sax) 〔Disc1-5/Disc2-3〕
かみむらさんのことを知ったのは、ピアニスト浜村昌子さんを介して。…
(共演の)きっかけは2022年、かみむらさんが京都に期間限定で移住されると関東の先輩ピアニストから聞き、ご一緒できるチャンスがあればいいなと思っていた矢先のこと。メッセージを送ると、京都で非公開のオーネットコールマン・セッションをするので是非、とお誘いいただきました。その後オーネットセッションは京都大阪で盛り上がることとなりますが、実はその0回目があったのです。
一緒に演奏してお話をして、印象に残っていることがあります。色々な趣向のミュージシャンが集まった時、その場で何ができるかを純粋に考え演奏することができたら新しいサウンドを作ることができるはずだよね、といった内容。私が考えていたこととも重なっていたので、すごく嬉しくなって帰宅しました。その後、滋賀大津のここち夢さんでの共演の機会をいただくことになり、打ち合わせ、リハーサル、本番と色濃い時間の中で気付いたんです。「私、飾ることなく演奏したり話せてる…」かみむらさんの純粋でオープンな音楽愛に、いつの間にか自然と心開いていました。

②武井努 (soprano&tenor sax)〔Disc1-7/Disc2-8〕
武井さんとのデュオは2018年後半からスタート。平日の午後にライブを。というコンセプトで、当時、大阪本町・燈門のマスター岸田さんと一緒に始めた企画。その後、岸田さんが堺筋本町にミュージック・スポット聰音(SATONE)をオープンしてからも継続させていただいています。毎月1回のデュオは、今の自分の状態があからさまにわかることもあり、とても有難く、毎月丸裸です。武井さんの胸を借りて沢山のチャレンジをさせてもらっています。

③谷向柚美  (voice)〔Disc1-6/Disc2-5〕
柚美さんとは、ピアニスト浜村昌子さんが繋いでくれました。
10年以上前から近しい音楽家達は共演していたのですが、私が関わる様になったのは2018年春から。…芯があり自立していて、柔軟な表現力に共演するたびに驚いています。

④森下周央彌 (guitar)〔Disc1-2/Disc2-7〕
初めて会ったのはお互い20代の頃、大阪音楽大学で。
contemporaryなsoundのカルテット編成で、よくセッションをしたり学祭に出演したりだった…2017年辺り、彼がJimmy Giuffreに影響を受けているらしいと小耳に挟む。影響を受けている音楽家が近いじゃないか…それなら一緒にやってみようか、と思っていた頃、とあるきっかけで演奏を重ねるように。
デュオとしての共演は少なかったものの、「Sepia – Avarruta」(セピア-アヴァルタ)とユニット名をつけた2023年頃から、楽曲を共同制作したり、意見交換をしたりと、密なやり取りを重ねていた。今回のレコーディングでは、彼がスピニングミルで先にレコーディングを成功させていたこともあり、たくさんのアドバイスや、叱咤激励を真っ直ぐに意見してくれ、有り難かった。

⑤森定道広  (bass)〔Disc1-4/Disc2-4〕
森定さんとの出会いは先日公開されたMikikiのインタビュー記事(→https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/41159)に詳しく書いていただいている…
ひょいっと、軽やかに、何か膜のようなものから外側へ導いてもらえた気がしています。

⑥大塚恵 (bass)〔Disc1-8/ Disc2-1〕
彼女のことを知ったのは…11か12年前だったように思う。…私が高槻の幼稚園に演奏に行くと知り、当時近所に住んでいた彼女は子連れで会いにきてくれた。演奏後、小さな子を抱いた彼女と挨拶をした記憶がある。
…「そろそろ一緒に演奏でもする?」2016年、大阪SUBでのデュオを提案してくれて、ようやく初共演。このケースはかなり珍しい。共演を重ねる→プライベートで会う、ことはよくあるけれど、その逆。仲良くなっていたので、演奏がしっくり来なかったらどうしよう、みたいな不安はお互い何となくあったんじゃないかな。その後、妊娠出産子育ての色々を共有しながら、2020年に高槻 JK cafeで再演。…
私たちは、お互いのフィールドや影響を受けている音楽があまり重なる訳ではないのに、一緒に音を出すと不思議と大塚恵と関谷友加里のサウンドになる。いや、不思議ではないか。対等に向き合うことができるからかなと。

⑦甲斐正樹  (bass)〔Disc1-3/Disc2-6〕
初めて一緒にセッションをしたのは、お互い20代だったかな、随分と前。
その後、2015年にスピニングミルでの「午後3時の演奏会」と名付けた企画にお誘いしたことがきっかけで、共演を重ねるようになる。ピアノトリオでは、則武諒ds,定岡弘将ds,服部正嗣ds 各氏と共演。デュオでは、2020年、ロクナナプロジェクトと銘打ち、60年代~70年代の洋楽を取り上げるユニットとしてサウンドを深め、2023年、キャンドルナイトでのアンプラグド演奏を十三・Space korallion (旧 cafe slow Osaka)にて開催。

⑧光田じん (drums)〔Disc1-1/Disc2-2〕
沖至さん(tp)のアルバム「イロハウタ」に参加されていて、繰り返し聴いていました。その頃から今まで、音色や歌心のあるフレーズ、円を描く様なドラミングが好きで好きで。
関谷友加里のインスタグラムより抜粋、本文に曲紹介もあり)

<参考>
彼女のインタビュー記事については、上記⑤の森定氏の紹介にリンクがあるが、ぜひ参照していただきたいと思う。タイトルは、関谷友加里のジャズも自由即興も溶け合った世界――デュオ集『DUETS』から子育てと音楽活動の両立までを語る」である。記事の最初のほうに、森定道広の紹介に関連して関西のアンダーグラウンドシーンの「至宝」とも言うべき人物、本木良憲への言及があり、彼の名前をそこに挙げることが、間接的に関谷友加里の先進性と深くつながると感じた。

③参考リンク:「初めてご一緒した時の柚美さんのブログ」:→https://yuzuvoice.exblog.jp/29826075/

〈全曲視聴 Trailer(Disc1)〉 https://youtu.be/R7wE5s0eKfc?si=29V3vKsxsJGlHnYd
〈全曲視聴 Trailer (Disc2)〉 https://youtu.be/fpsWCtQWGJM?si=1NN76E0tfVZoShzO

Yukari Sekiya official Blog: 関谷友加里プロフィール:https://sunset-glow.dreamlog.jp/archives/cat_89407.html

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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