#2422 『トーマス・モーガン / 森に囲まれて』
『Thomas Morgan / Around You is A Forest』
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
LoveLand Records LLMO29CD
Thomas Morgan: Double Bass
Dan Weiss: Tabla
Craig Taborn: Farfisa Organ, Fender Rhodes, Synthesizers, Field Recordings
Gerald Cleaver: Drums
Henry Threadgill: Flute, Bass Flute
Ambrose Akinmusire: Trumpet
Bill Frisell: Acoustic and Electric Guitars
Immanuel Wilkins: Alto Saxophone
Gary Snyder: Voice
1.Around You Is A Forest (Double bass:Thomas Morgan)
2.Eddies (Table: Dan Weiss)
3.Dream Sequence (Electri organ, Fender Rhodes , synthesier and field recording : Craig Taborn)
4.Through The Trees (Drums: Gerald Cleaver)
5.In The Dark (Flute and bass flute: Henry Threadgill)
6.Assembly Of All Beings (Trumpet: Ambrose Akinmusire)
7.Rising From The West (Acoustic and electric guitars: Bill Frisell)
8.Murmuration (Alto saxophone: Immanuel Wilkins)
9.Here (Voice: Gary Snyder)
Edited by Emi Makabe, Joseph Branciforte, Nate Mendelsohn
Mastered by David Elberling at the Village Recording
Mixed by Joseph Branciforte at Greyfade Studio
WOODS virtual instrument : Programmed, edited and produced byThomas Morgan (4)
Recorded October 14, 2024 (tracks 1, 2, 7), by Philip Weinrobe at Figure 8 Recording ; August 30, 2024 (track 4), by David Luke at Opus Studios; April 14, 2024 (track 5) and November 26, 2024 (track 8), by Michael Coleman at Figure 8 Recording; and October 30, 2024 (track 6), by Adam Muñoz at Opus Studios.
Producer : David Breskin, Jakob Bro
コンピュータ・プログラマーとジャズ・べーシストの二刀流
堅実なベーシストとしてECMで重宝されているトーマス・モーガンが興味ある自己主張をしたリーダーとしてのデビュー作。『Around You is A Forest』。仮に「森に囲まれて」と訳してみた。トーマスは音楽より先にコンピュータ・サイエンスの教授であった父親に幼少の頃からコンピュータ・プログラミングの手ほどきを受け、高校生の頃には自らコードを書きUnixを使って色々試行錯誤をしていたという。同じ頃、ジャズを聴き出し、レイ・ブラウンのベースの演奏や自由と構造、そして聴くことを大切にする即興演奏家のコミュニティ に心を奪われていき、コントラバスの習得も始める。もともと「ハッカー文化」(ここでいう“ハッカー”とは本来の創造的で遊び心にあふれたコンピュータ・プログラ マーを指す)に馴染んでいたトーマスは、コンピュータ・プログラミングとジャズのインプロヴィゼーションに共通項を見出す。彼は「ジャズの ミュージシャンは音楽のハッカーであり、両者に共通するのは好奇心であり、瞬間に何かを発見 し、それを即座に応用することだ。」 と語る。多忙なジャズ活動でしばらく離れていたプログラミング研究が、コロナ禍で復活、ついに仮想弦楽器(ヴァーチャル・ストリング・インストゥルメント)「WOODS」の完成に至る。「WOODS」は、SuperCollider(リアルタイム音声合成とアルゴリズム作曲法のためのオー プンソースソフトウェア環境)で設計されており、⻄アフリカのルート・ハープ、アジアの琴、ハンガリーのチンバロム、マリンバなど、撥弦あるいは打弦による音色を想起させつつ、生成コードによって動作する生きて 進化し続ける楽器と言われている。
演奏家はつねに新しい音の可能性を求めている
演奏家は表現領域拡張のためにつねに新しい音の可能性を求めている。プリペアード・ピアノもその一例だが、最近のインプロ系ミュージシャンのステージはエフェクターの花盛りの様相を呈している。ピアノの内部奏法を管理人に咎められバークリー音楽院を退学したキース・ジャレットは、パーカッション代わりにピアノの筐体を叩いたり、クォータートーンを弾き出そうと鍵盤を強引に捻じ曲げるように弾くことがある。多楽器奏者でもあるキースはかつて十数種の楽器を駆使して『Spirits』(ECM 1333/34 1986)というアルバムをセルフ・プロデュースした。ピアニスト菊地雅章は80年代後半、指の骨折をきっかけに本格的にシンセサイザーの研究を始め、「リアルタイム・シンセサイザー・パフォーマンス」という手法を開発した。プログラマーとミキシング・エンジニアを従え、プログラマーが流すプリセットしたパターンにアナログ・シンセで即興演奏を行いエンジニアがライヴ・ミックスする。プログラムやシンセは使うものの、あくまでジャズの即興性にこだわり、不確定性や偶発性を求めてアナログ・シンセを演奏、ライヴ・ミックスを基本とした。この時の成果は、3月に Rings/DiskUnionより『六大:地・水・火・風・空・識』として改めて世に問われることになっている。
自己開発した仮想弦楽器 WOODSを援用した新しい展開
コンピュータ・プログラミングの研究とジャズ演奏の二刀流を続けていたトーマス・モーガンは自ら仮想弦楽器を開発した。アンカーとしての機能が多いコントラバスを離れて、もっと自由に自己表現してみたい、相手とインタープレイしてみたいという思いが実現したアルバムである。相手を務めるのは7人の音楽家とひとりの思想家。12月の東京のソロ公演では1曲だけコントラバスとWOODSとのセルフ・カンヴァセーションが披露されたが、今後、このアルバムがどのような評価を得て、どのように展開していくのか興味が尽きないところではある。(文中敬称略)
菊地雅章, キース・ジャレット, Gerald Cleaver, Bill Frisell, Thomas Morgan, Craig Taborn, Immanuel Wilkins, Ambrose Akinmusire, Dan Weiss, WOODS, Henry Threadgill, Gary Snyder