#2419 『小曽根真 TRiNFiNiTY/For Someone』with 小川晋平、きたいくにと、アナ・マリア・ヨペック
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
『小曽根 真 TRiNFiNiTY/For Someone』
『Makoto Ozone TRiNFiNiTY / For Someone』
Mo-Zone / ユニバーサルミュージック (2026年1月21日発売予定)
TRiNFiNiTY
小曽根真 Makoto Ozone: Piano, Hamond Organ A-100
小川晋平 Shimpei Ogawa: Bass
きたいくにと Kunito Kitai: Drums, Percussion
with アナ・マリア・ヨペック Anna Maria Jopek: Vocals on 3, 4, 6, 8
1. Untold Stories (Makoto Ozone)
2. Rolling Tales (Makoto Ozone)
3. Wa (Peace / Ring) (Shimpei Ogawa)
4. Bandoska (Polish Folk Song) (Traditional, arr. Piotr Wojtasik)
5. Until That Wall Falls (Makoto Ozone)
6. For Someone (Makoto Ozone/Anna Maria Jopek)
7. Pasja (Shimpei Ogawa)
8. Pamiętajmy o Aniołach (Mind the Angels) (Anna Maria Jopek)
9. Friends (Makoto Ozone)
10. Chasing the Horizon (Makoto Ozone)
Produced by Makoto Ozone
All Vocal Arrangement by Anna Maria Jopek
Recorded, Mixed and Mastered at Bauer Studios, Ludwigsburg, Germany
Recorded by Martin Dreßler and Johannes Wohlleben, April 30-May 2, 2025
Mixed by Maetin Dreßler, September 6 and 7, 2025
Mastered by Stefan Albrecht, November 3, 2025
Executive Producers: Makoto Ozone and Yoshihisa Saito
小曽根真が新レーベル「Mo-Zone」を設立、その第一弾が、小川晋平(b)ときたいくにと(ds)とのピアノトリオ「TRiNFiNiTY」のセカンドアルバムで、ドイツ・ルートヴィヒスブルクのバウアー・スタジオで2025年に録音された。初期からのECMファンならエンジニアのマルティン・ヴィーラントのいたバウアー・スタジオ(Tonstudio Bauer)が、ヤン・エリック・コングスハウクのいたオスロとならぶECMの2大録音拠点であったことをご記憶と思う。バークリー音楽大学を主席卒業直後の小曽根真はゲイリー・バートン・グループに加入し、バウアー・スタジオで1984年に『Real Life Hits』(ECM1293)、1985年に『Whiz Kids』(ECM1329)を録音。1984年のCBSからのデビューアルバム『OZONE』もミキシングをマルティンに依頼しているので小曽根にとって思い出深いスタジオであり、40年前のスタート地点に再び立つことになった。

「TRiNFiNiTY」は「Trio」と「Infinity(無限)」を合わせた造語。小曽根、小川、きたいの共演は2022年8月20日の八ヶ岳高原音楽堂での一夜限りのコンサートに始まり、このピアノトリオに大きな可能性を見出した小曽根は、2023年8月にNY パワー・ステーション at バークリーNYCでファーストアルバム『TRiNFiNiTY』を録音した(佐々木梨子、ドニー・マッキャスリン、二階堂貴文も参加)。 これまでも小曽根の活動と人気の中核にピアノトリオがあったが、1997年〜2017年のクラレンス・ペン(ds)、北川 潔(b)のちにジェームス・ジーナス(b)との「The Trio」、2012年に『My Witch’s Blue』を録音したクリスチャン・マクブライド(b)&ジェフ・ティン・ワッツ(ds)など同世代の名手たちと組むことが多く、新鮮で熟成された音楽を聴かせてくれた。小曽根はCOVID-19に直面して、演奏の機会が減少した気鋭の日本人ミュージシャンたちをより意識し支援するようになった。2020年春の53日間に及ぶ自宅からのピアノソロ配信「Welcome to Our Living Room」、2021年に小曽根の60歳記念のアルバム『Ozone 60』とコンサート活動という節目ともシンクロして、小曽根が若手を支援する中で、小曽根自身も若手から大きな刺激を受けるようになった。小曽根とパートナーで俳優の神野三鈴が主宰する次世代を担う若手音楽家のプロジェクト「From OZONE till Dawn」もこの中から生まれ、「TRiNFiNiTY」もその延長にある。(「Mo-Zone」レーベル第2弾としては2月18日に『壷阪健登/Lines』リリースを控えている。

ファーストアルバム『TRiNFiNiTY』も驚くべきインパクトを持って登場したが、セカンドアルバム『For Someone』に至って、小川ときたいとの共同作業の中で、これまでに聴くことのできなかった小曽根の音楽性と魅力が引き出された。アメリカの名手たちとの共演と比べても、むしろアメリカのジャズの伝統とは異なる、小曽根にとってもリスナーにとっても予測不可能なアプローチやインタープレイが現れてくるようで、ワクワクが止まらない。パット・メセニーが共演するベーシストのリンダ・メイ・ハン・オーについて「彼女が何をやっているか僕にはわからないんだ。」とその予測不可能感を嬉しそうに語るのに通じていると思う。
録音が4月18日〜27日、パリ、ロンドン、ワルシャワ、ヴロツワフでのヨーロッパツアーを終えた4月30日〜5月2日に行われたことも大きく、ヨーロッパの聴衆からのフィードバックで熟成され成長した音が収められている。これもゲイリー・バートン・グループでのヨーロッパツアー&録音という流れを意識していると思う。そしてニューヨーク録音とは異なる音質が不思議としっくり来る。
この制作期間、2023年10月に始まったガザでのできごとが、小曽根の心から離れることがなく、ひとりの人間として音楽を通じて平和を強く願わずにはいられなかった。その中で降りてきた曲のひとつが<Untold Story>であり、他の曲にも想いが込められストーリー性のある作品となった。No Name Horses 2025年末ツアーの中で、小曽根がソロピアノで<Untold Story>を演奏していて、心を打たれたファンも多いはず。その後、小曽根は映画『手に魂を込め、歩いてみれば』と出会い、そこに描かれるフォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナの姿に感動し、生まれてきた音楽からここに導かれたと感じたという(ファトマは映画のカンヌ上映が決まった翌日に家族と共に精密誘導兵器で殺害された)。アルバム中4曲では、パット・メセニーとの共演『Upojenie』やブランフォード・マルサリスとの共演でも知られ、小曽根とは『小曽根真/Road to Chopin』、『Ana Maria Jopek & Makoto Ozone/俳句』で共演し、たびたびライヴを共にし親交を深めてきたポーランドの女性ヴォーカリスト、アナ・マリア・ヨペックも参加し圧巻の歌声を披露し、小曽根のハモンドも加わってその想いをさらに高次の表現へ高めていく。
なお、アルバム・ジャケットの写真は、俳優/映画監督の斎藤工と映像ディレクターの小川弾が撮影を担当している。
デビューから40年を経て、再びニューヨークに居を移しながらあらためて世界へ踏み出す小曽根の新たな出発点であり、転換点となる素晴らしいアルバムをぜひ聴いていただき、ライヴにも足を運んで欲しい。2026年末のクリスマスコンサートシリーズは「TRiNFiNiTY with アナ・マリア・ヨペック」を予定しているのでこちらも楽しみにしたい。
Makoto Ozone “TRiNFiNiTY” – Live at Duc des Lombards (2025) (Qwest TV)
MAKOTO OZONE 小曽根真 trio “TRiNFiNiTY” with DONNY McCASLIN
<THE PATH> BLUE NOTE TOKYO Live 2024
Makoto Ozone “Trinfinity”
<Momentary Moment> from 『TRiNFiNiTY』
死亡したフォトジャーナリストを想うピアノコンサート (毎日新聞)




