#2420 『小曽根 真 TRiNFiNiTY / For Someone』
text by Mitsuo Nakanishi 中西光雄
『Makoto Ozone TRiNFiNiTY / For Someone』 Mo-Zone UCCJ-2252
TRiNFiNiTY
小曽根真: Piano, Hamond Organ A-100
小川晋平: Bass
きたいくにと: Drums, Percussion
with
アナ・マリア・ヨペック Anna Maria Jopek: Vocals on 3, 4, 6, 8
1. Untold Stories (Makoto Ozone)
2. Rolling Tales (Makoto Ozone)
3. Wa (Peace / Ring) (Shimpei Ogawa)
4. Bandoska (Polish Folk Song) (Traditional, arr. Piotr Wojtasik)
5. Until That Wall Falls (Makoto Ozone)
6. For Someone (Makoto Ozone/Anna Maria Jopek)
7. Pasja (Shimpei Ogawa)
8. Pamiętajmy o Aniołach (Mind the Angels) (Anna Maria Jopek)
9. Friends (Makoto Ozone)
10. Chasing the Horizon (Makoto Ozone)
Produced by Makoto Ozone
All Vocal Arrangement by Anna Maria Jopek Recorded,
Mixed and Mastered at Bauer Studios, Ludwigsburg, Germany
Recorded by Martin Dreßler and Johannes Wohlleben, April 30-May 2, 2025
Mixed by Maetin Dreßler, September 6 and 7, 2025
Mastered by Stefan Albrecht, November 3, 2025
Piano Technician: Bernhard Seiler
Executive Producers: Makoto Ozone and Yoshihisa Saito
すべての曲から、人の、そして人々の声が聞こえてくる――そんなアルバムである。ポーランドの歌手アナ・マリア・ヨペックが4曲に参加しているから、というだけの理由ではない。
例えば一曲目の “Untold Stories” の冒頭。ピアノとドラムの美しい掛け合いに続いて、テンションのかかった小川晋平のベースが入る。虚を突かれるような硬質なピチカート。きたいくにとのドラムは抑制的だ。私はそれを、人の声だと聴いた。歌だと感じた。歌が物語り、世界を定義する。そんな小曽根真の意図に、私たちは身体と心を沿わせてゆけばよいのだろう。
15年ぶりに小曽根と共演する、ポーランドを代表するシンガー、アナ・マリア・ヨペックの声は、高く繊細でありながら、時に野太く、生命の躍動を伝えてくる融通無碍さを備えている。彼女は、小曽根のファンにはおなじみの美しいバラード “For Someone” を、冬の東欧の灰色の風景から浮かび上がらせ、水彩画のように淡く、立体的に着色していった。その美しさは至高のものだ。そこには祈りがある。戦争で傷ついた人々への癒やし、あるいは命を落としてしまった人への鎮魂の思いが込められている。
ウクライナで、ガザで、そして世界中で、愚かなジェノサイドが続いている現実に深く傷ついたアーティスト、小曽根真が、音楽によって生命力を回復し、再生してゆく物語が、「歌」として綴られている――このアルバムの意義は大きい。四半世紀前、9.11があり、湾岸戦争が始まった中で演奏活動を続け、音楽で平和を訴え、数々の名曲を残してきた小曽根真。その音楽に励まされながら、この困難な時代を生きてきた私たちにとって、憎悪によって世界の分断が進む今、小曽根真がこのアルバムを制作したことに、深い感動を覚えずにはいられない。
2023年に結成された “TRiNFiNiTY” のセカンドアルバムとなる本作だが、演奏を重ねるごとにタイトになり、あらゆる音楽言語を駆使してセッションを構築していく小川晋平ときたいくにとの成長には、目を見張るものがある。きたいの抑制の効いたドラミングはすばらしいが、“Until That Wall Falls” で見せる奔放さにも注目したい。力強く叩かれても、どこまでも乾いた響きを保つドラムに、感動せざるを得ない。ドラムもまた、歌っている。
2025年春のヨーロッパ・ツアー終了後、ドイツ・ルートヴィヒスブルクのバウアー・スタジオで録音されたこのアルバムには、多様なルーツをもつ音楽が取り入れられているが、終盤でジャズ・ミュージックへと収斂していく物語もまた豊かだ。ジャズが常に変革され続けている音楽であることが、あらためて実感される。そして、その中核に小曽根真がいる。
ちなみに、バウアー・スタジオは、ゲイリー・バートン・グループの『Real Life Hits』『Whiz Kids』が録音された場所で、小曽根真の原点のひとつと言ってよい。
本作は、小曽根真による新レーベル “Mo-Zone” の第一弾としてリリースされる。期待は高まるばかりで、私はすでにライブでの大胆なアレンジに思いを馳せている。
ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦のさなか、スーザン・ソンタグはベケットの『ゴドーを待ちながら』を上演し、戦火の中でさえ人々は芸術を希求するのか、という問いを投げかけた。このアルバムは、その問いに対する小曽根真なりの回答なのだと思う。歌を、歌い続けたい――。
https://jazztokyo.org/features/my-ecm-pick/post-86553/
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