# 926-A 『小山彰太/南野梓/谷村武彦/柳川ホウメイ/イトウカズヒト ~ 悪くない』

閲覧回数 15,959 回

text by 伏谷佳代 Kayo Fushiya

Petit Paris Label

小山彰太 (dr)
南野 梓 (vl) *AzurVert
谷村武彦 (vl)*AzurVert
柳川ホウメイ (a.sax)
イトウカズヒト (vl)

1. ワルツ Azur Vert (南野梓+谷村武彦)
2. KOKIHI (小山彰太+柳川ホウメイ)
3. 螺旋 (小山彰太+Azur)
4. ファンタジー (小山彰太+谷村武彦)
5. 秋のヒステリックなひととき (小山彰太+伊藤カズヒト)
6. Solo (小山彰太)

録音:2011年11月23日@名古屋5Rホール (公開録音)
エンジニア:犬塚裕道
カヴァー・デザイン:犬飼興一
ライナーノーツ:高平哲郎


名古屋発プティ・レーベル第一弾 (経緯は高平哲郎氏のライナーを参照されたい)。タイトルからも彷彿されるとおり、肩肘張らないスタンスのアルバムである。幕間から聴こえる、お世辞にも多数とはいえぬ拍手もゆるくて心地よい。しかし、『悪くない』の反意語が『良くもない』には決してならないところが流石である。和み系とは程遠い、各々の個性が発するどうにもならない成熟が生む余裕だ。

フリー・ミュージックに書き割りがそぐわぬことは当然だが、起承転結ならぬ「起・転・承(ここに3段階)・結」、に近い造りである印象を受けた。基本はドラム×弦楽器、のデュオ構成であるが、頭とトリはそれぞれ「弦×弦」とソロである。弦を担うミュージシャンたちの音をパラレルに聴き比べるのも一興、縦軸に小山彰太との絡み=不絡みの妙を楽しむのもまた一興。その網目の充実ぶりが、聴けば聴くほど味わいを増す。

一見、パリの街角にでもトリップするかのようなAzur Vertによる弦楽デュオに始まり(起)、フリーの妖しい雲行きが早くも顔を出す、柳川ホウメイ×小山デュオ(転)。ここで口を開ける唐突な体温差が大きなポイントだろう。ほの暗い民話世界を射光するアルトの音色に一気に心は連れ去られる。続くAzur (南野)~Vert (谷村)~イトウによる弦の変遷が豊麗な文脈を生む (承・承・承)。三人三様にかなり逼迫した灰汁の強さを感じるが、ひとつ共通しているのはあくまでメロディ楽器であることを止めないことだ。それぞれの流儀で、際 (きわ) の際でダンスし謳い尽くす。わりと素直な音楽として感知されるのが、谷村のギターがフィーチャーされた「ファンタジー」で、アコギの魅力満載ともいえる派手なかき鳴らしや細かなピッキングがドラムと共にアタック感を増幅して肉体的なテンションが上がる (観客の拍手がこころもちエキサイトしているのもひとつのバロメータか)。対して情緒的な屈折に訴えるのが、イトウの「秋のヒステリック~」で、音程の不定が生む不貞ならぬ不遜な完結性。南野のヴァイオリンがエッジ鋭くのたうちまわろうとも、どこかでクラシカルな情緒を湛えて止まぬのと対照的に、イトウのプレイには「人に聴かせてやろう」という第三者への構えがない。突き放したような自由さがある。そして〆が小山彰太のソロだ (結)。小山を軸に編まれたアルバムにも関わらず表立っての派手さがないが、それに代わる圧倒的柔軟性で舌を巻く。トリの形態はソロながら、ドッペルゲンガー的な多面性で飽きさせない。爆音を用いずとも、個々の音は鋭利に瞬間と融和する。自己内部でのアンサンブル…究極的にはこれもデュオか。(*文中敬称略)

<関連リンク>
https://momentokinu.wordpress.com/2012/05/09/小山彰太-duo「悪くない」発売。/
http://www.h7.dion.ne.jp/~e-awa/profiles.html

伏谷佳代

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。幼少時よりクラシック音楽に親しみ、欧州滞在時 (ポルトガル・ドイツ・イタリア) に各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評、演奏会プログラムの執筆、翻訳などを手がける。

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。