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CD/DVD DisksNo. 334

#2427 『角野隼斗/CHOPIN ORBIT』
『Hayato Sumino / CHOPIN ORBIT』


Hayato Sumino – Raindrop Postlude

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

『角野隼斗/CHOPIN ORBIT』
『Hayato Sumino / CHOPIN ORBIT』

演奏:角野隼斗(ピアノ)
録音:2025年7月26日-29日 10月7日-8日 b-sharp(ベルリン)
<通常盤>ソニーミュージック SICC-30936 2026年1月21日発売 ¥3,300税込

1. 角野隼斗/ショパン:プロローグ
2. ショパン:エチュード 変イ長調 Op.25-1 「エオリアン・ハープ」
3. 角野隼斗:リディアン・ハープ
4. ショパン:プレリュード 変ニ長調 Op.28-15 「雨だれ」
5. 角野隼斗:ポストリュード「雨だれ」
6. ショパン:エチュード 変ト長調 Op.10-5 「黒鍵」
7. 角野隼斗:エチュード「白鍵」
8. ショパン:マズルカ ハ長調 Op.24-2
9. アデス:マズルカOp.27-2
10. ショパン:ノクターン 嬰ハ短調(遺作)
11. 角野隼斗/ショパン:ラルゲット(ピアノ協奏曲第2番第2楽章による)
12. ショパン:子守歌 変ニ長調 Op.57
13. ヤナーチェク:Good Night!
14. ショパン:ポロネーズ 変イ長調 Op.61 「幻想」
15. 角野隼斗:ポロネーズ 「空想」
16. ショパン:ワルツ 変ホ長調 Op.18 「華麗なる大円舞曲」
17. ゴドフスキー/ショパン:「華麗なる大円舞曲」による演奏会用パラフレーズ

18. 角野隼斗:frostline(鍵山優真2025-2026シーズン エキシビション曲)
19. 角野隼斗:Spring Lullaby

角野隼斗は1995年生まれの30歳。東京大学大学院情報理工学系研究科在学中にピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリを受賞し本格的に音楽活動を始める。2018年9月から半年間、フランス音響音楽研究所(IRCAM)で音楽情報処理を研究し、在仏時にジャン=マルク・ルイサダに師事。ピアノYouTuber「Cateen かてぃん」としては登録者153万人、再生回数2億回に及ぶ。東京大学POMPの仲間と結成したシティソウルバンドPenthouseでの活動も続く。2020年、1stフルアルバム「HAYATOSM」をリリース。ブルーノート東京で、2021年6月にソロ2022年4月ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラとの共演をおこなっていて、ライヴレポートをご参照いただきたい。2023年よりニューヨークを拠点に世界で活躍。カーネギーホール、日本武道館、Kアリーナ横浜でのリサイタルを成功させている。2025年にはレナード・バーンスタイン賞を受賞。また、オーパス・クラシック賞2025を史上初の2部門で受賞。クラシックの表現力、独自の作編曲や即興を融合させジャンルを越えた表現を追求し続けている。詳細なプロフィールはこちら

角野は2021年ショパン国際ピアノコンクールに挑み、セミファイナリストとなるが、最終のコンチェルト演奏まで残ることはできず虚無感を味わう。しかし、コンクールの映像を見ていたソニー・クラシカルのプロデューサー、アレクサンダー・ブールが、角野に他のピアニストとは違うものを感じてコンタクト、2024年にワールドワイド契約を結ぶ。こうして始まったソニー・クラシカルからの世界デビューは2025年に『Human Universe』として実現した。

ソニー・クラシカル2作目となる『Chopin Orbit』は、角野が尊敬してやまないフレデリック・ショパン(1810-1849)を中心に置いた。ショパンはポーランドに生まれ、ウィーンを経てパリに住んで生涯のほとんどをピアノ曲に捧げた。角野も6歳か7歳の頃からショパンの音楽を弾き続け、今に至るまで非常に大切な存在であり続けている。

「ショパンの音楽は、ロマンティックさや、深い悲しみといった言葉で語られることが多いですが、その魅力を言葉で表すのは非常に難しく、複雑な感情が絡み合っているように感じます。一見穏やかな曲調の中に影が垣間見えたり、激しい負の感情に揺さぶられながらも、常にエレガントさを保っている。その美意識に、僕は強く惹かれます。ショパンの音楽は、どこを切り取っても完璧に構築され、美しい一方で、まるでその場で生まれているかのような即興性も感じられます。この感覚こそが、僕がショパンを愛する大きな理由の一つです。その美意識を受け継ぎながら、現代を生きる自分としての表現を形にしたい――そんな思いから、このアルバムは完成しました。」
(J-WAVE 2026年1月25日放送 「Tokyo Tatemono Music of the Spheares」より)

ショパンの名曲の数々に、各曲にインスピレーションを受けて角野が作曲した新曲が交互に配置される。また角野の新曲以外にも、トーマス・アデス(1971-)、レオポルド・ゴドフスキー(1870-1938)、レオシュ・ヤナーチェク(1854-1928)といった、角野が尊敬する作曲家とショパンを対にして収録し、ショパンの音楽への共振が時代を超えてどのような軌跡を描くかが示されリスナーが新旧さまざまな世界を自由に行き来しながら進化する音楽に浸る。

前作『Human Universe』では、世界のクラシックファンに向け名曲を角野の豊かな表現力で聴かせながら、角野の作曲と、坂本龍一、ハンス・ジマーらの曲が対比されることで、角野の魅力を引き出していたが、今回はショパンにフォーカスし、原曲と新曲を対比させてことで、角野の意図と輪郭が明確になった。特筆すべきは、決して安易な編曲や即興にとどまらず、リコンポーズ、リハーモナイズの中で、ショパンの複雑な想いを角野が受け止めた上で、美しく明確に浮かび上がらせる。アルバムを通して抑制されエレガントな演奏に終始し、沈黙がつねに音の向こうに透けて見え、音量やスピード感によって熱情を表現することはないのに、胸を掻きむしられるような深い想いと切なさ、そして歓びや楽しさまでが凝縮されて伝わって来る。この角野の音楽性には驚愕するばかりだ。音楽の進化は時系列に従って直線的に進むイメージがあったが、ショパンの重力に影響されて、角野の音楽が、音楽家たちの音楽が新たな軌道(orbit)を描き出す。そのイメージの素晴らしさがわかった。

日本盤では、映画『ナイトフラワー』のために角野が作曲したエンディングテーマ<Spring Lullaby>、フィギュアスケートの鍵山優真の2025-2026シーズン エキシビションのために書かれた<frostline>も収録している。さまざまな領域から角野の音楽が日常に入って来るのも嬉しく、これからの角野の世界と日本での想像もできない活躍が楽しみでならない。


<初回生産限定盤>ソニーミュージック SICC-30933~30935 2026年1月21日発売 ¥7,700税込
<通常盤>ソニーミュージック SICC-30936 ¥3,300税込

Hayato Sumino – White Keys

映画『ナイトフラワー』〜エンディングテーマ<Spring Lullaby>

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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