#2429 『矢部優子+豊川容子 / 2 Y’s』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Concert photos by Kiyomi Sakuma 佐久間雪
UNA MAS
Yuko Yabe 矢部優子 (p)
Yoko Toyokawa 豊川容子 (vo)
Guests:
Ken Tsunoda つの犬 (ds)
Satoshi Kawamoto 河元哲史 (cello)
1. Kesorap ~ケソラプ~
2. Lotus
3. ブヌン ~天へ祈る聖なる声 ~
4. Acikara ~アチカラ!~
5. Sinrici hawehe ~祖先たちの声~
6. ikomososo ~それが呼び覚す~
7. 風紋
8. Pehe utar rimse ~雫たちのリムセ~
9. つたふ
10. Korpokkur ~蕗の葉の下で~
これは外に開かれた音楽である。
矢部優子の作品作りは極めて効率が悪いようにみえる。毎年どこかに旅をして、当地での偶然を果実として収穫するが、それが発酵してなにかに化けるまで近くに置いている。アイヌの歌手・豊川容子とは北海道への旅で知己を得、また台湾原住民(*1)のブヌン族の八部合唱は母親の出生地・台湾への旅で出会い、録音して3曲目に活かした。2曲目の自分自身の心臓音や10曲目の雨音も、「いつか作品に活かす」と聞いてから何年も経っている。「コスパ」や「タイパ」とは真逆の価値観であり、それだけに多くのものを包みこんでいる。
本盤での豊川容子との録音も、じっくりと段階を踏み実現したものだ。2024年に矢部の地元・羽村市で大規模なコンサートを開き、翌25年に豊川の上京時に渋谷の公園通りクラシックスで即興性の強い手合わせを行い、そしてアルバムができた。後者のライヴではもうひとりの共演相手が前日になって来日中止したが、急遽つの犬が入り、予想しなかった音の重なりを実現させた。それどころか、豊川はこのとき観客と一緒になり祝祭空間を作り上げてみせた。
豊川容子の独特な歌唱にはつねに驚かされる。それは「外に発する」というよりも、自分自身を含めて取り巻くものに「語る」世界観のようだ。喉や口蓋を大きく反響させ、ときにアイヌ伝統の輪唱(5曲目)を取り入れたりもして、やはり気張ることのない表現のありようを感じることができる。時間的にも距離的にも近くに滞留させることは、そのぶん音が成熟するということにちがいない。
もうひとりのゲストはチェロの河元哲史。参加した9曲目はアイヌ語ではなく日本語の歌詞であり、静かに世界を震わせている。チェロの音はアジアのことばの響きとそれぞれ別様に重なり、感じ入るものがある。3曲目にそっと加わるありようにも意味がある。かつてチェロのデイヴィッド・ダーリングがブヌン族の歌声と共演したアルバムは刮目すべき作品だったが(*2)、それと別様の素晴らしさだ。
2025/9/11、公園通りクラシックスにて(撮影:佐久間雪)
(文中敬称略)
(*1)台湾では先住民族のことを「原住民」と称する。
(*2)David Darling & The Wulu Bunun『Mudanin Kata』





